第621話 22枚目:洞窟再調査

「流石にこれだけ叩き込めば、谷底に近い位置にある「宿光石」にもある程度の光が蓄えられますか」


 流石ステータスの暴力と言うべきか、それとも「月燐石のネックレス・祝」が良い仕事をしてくれたのか、太陽が水平線に半分ほど沈むまで魔法を維持しても魔力切れにはならなかった。

 山頂から覗き込んだ深い谷は、それでもぽつぽつと下の方が光っているのが見える。ふむ、島に接してる北側の方が光る場所が多いのか。南側も光って無い訳じゃないが、面積というかポイントの数というか、それが目に見えて違う。

 とりあえずその光景をスクショに撮っておき、【飛行】を意識しながら谷へと飛び降りる。すいーっと斜め方向に滑空するような形で、赤い光に照らされる中で白い光を放っている洞窟の入り口へと入り込んだ。


「そう言えば、結構がっつりと時間を使いましたが、スピンさんも「空の魔女」さんも出てきませんでしたね……」


 流石にあの2人なら、平地に戻る時には声の1つぐらいは掛けてくれるだろう。いくら火力のある魔法を使っている最中とは言え、私だって声を掛けられれば反応できるし。

 特にスピンさんは、神殿の建設状況とか木の実なんかの採取状況とか、そういうものを纏めて共有する必要がある筈なんだけど。元『本の虫』かつ現在までの生き残りって事で、纏め役になってるんだし。

 と思いながら通路を抜けて、洞窟内の広場に出る。あれ?


「いませんね。……まさか、この洞窟の中で迷ったとか……?」


 オートマップを確認するが、機能はしている。右から2番目の、立体迷路みたいになっている部分でも普通に出てこれる筈なんだけどな。メニューから、イベント内でどれだけ時間が経ったかは確認できるし。

 ……迷子になっているのではないとするなら、何かを見つけて、それの検証か何かに集中している、とかになるが……。


「この洞窟に、これ以上は何もない筈なんですけど」


 首を傾げながらも耳を澄ませる。ついでに広場の真ん中に、特大の灯りを浮かべておいた。現在は十分明るいけど、明るくない場所があるならそっちへ光が届いてほしいからね。

 …………左から2番目の通路から、スピンさんっぽい声が聞こえるな。あそこは行き止まりだった筈だけど、何か見つけたか、もしくは掘り進めてるとかか?

 確かに山の斜面側に出入口が出来れば、後々何をするにしろ便利になるだろうが……と思いながらも、とりあえず向かってみる。何やってんの?


「くっ、私の手持ちの中で一番威力のあるアビリティでもダメですか!」

「脆そうな見た目からは想像できない程硬いわねー」

「やはりちぃ姫さんにお願いするしかありませんね。でも今谷底にある筈の「宿光石」に光を溜めてくれている筈ですしっ!」

「掘削用の爆弾でもあれば良かったのだけどー」


 どうやら、宿光石を掘ろうとしていたみたいだ。しかし何でわざわざこの場所に? いやまぁ色々理由は思いつくけどさ。


「お2人とも、時間は大丈夫ですか?」

「あっ、ちぃ姫さん! ナイスタイミングです!」

「おかえりなさいー。あら、もうこんな時間だわー」

「へっ? ……はぅわっ!? 「宿光石」との激闘に時間をつぎ込み過ぎましたっ!」


 私が声をかけた事で、ようやく2人は日が暮れきるまでもう1時間を切っている、という事に気付いたようだ。まぁ「空の魔女」さんはこのままここに泊ってもいいかなーって思ってるかもしれないけど、スピンさんがそうはいかないからなぁ。

 あわわわ、としばらく手を動かしていたスピンさんだが、緩やかに螺旋を描いている上向きの通路、その行き止まりをぺちぺちと叩いて言う事には。


「すっ、すみませんちぃ姫さん! 此処、この場所、真っすぐ貫通したら多分南側の斜面の、上から3分の1ぐらいの所に出る筈なんです! 私達は帰らないといけませんが、できれば風穴を開けておいていただけると!」

「それぐらいならお安い御用です。飛んでる時に流れ弾に当たらないように気を付けてくださいね」

「流石です! それでっ! その! 風穴を開けたら「宿光石」の欠片がたくさんできると思うのですが、それを多分その辺に居る「彼ら」にあげて頂けると更に嬉しいですっ!」

「はい、分かりました。……ん? 「彼ら」って一体なん」

「それではお願いしますねっ! 私にもよく分からないんですけどっ!」


 あー! と、「空の魔女」さんに文字通り引きずって行かれながらの言葉に疑問を覚えたものの、変わらず鮮やかな離陸を見送りながらの声に聞き返すことは出来なかった。

 ……「彼ら」って何だ? と、もう一度灯りで照らされ、光を蓄えた事で明るくなっている洞窟の中を見回すが、当然、そこには私以外に何もいない。テントもしまっているので、本当に空っぽだ。


「……何か、特殊な調査系スキルでないと引っかからない類か?」


 はて? と首を傾げるが、見る系のスキルをメインに入れても何も変化は無い。分からん。まぁ、スピンさんが言うんだから「何か」は見つけたんだろうし、実行するけどさ。

 しかし宿光石を、あげる、ねぇ……? と疑問に思いながらも上向きの通路の行き止まりへ移動。その「何か」はともかく、風穴の方は少しでも太陽が残っている間に開けておいた方が良いだろう。

 通路の角度のまま、真っすぐ穴を開ければいいらしいので、自分に物理攻撃力と耐久を上げるバフをかけてと。


「――[正拳突き]!」


 ッッゴ!! と、真っすぐ降り抜いた拳の先が、あっけない程一気に真っすぐな穴へと変わった。ふ、竜族の皇女わたしのステータスをもってすれば容易い事だ。

 空いた穴の向こうに見える空が、赤と言うより黒に近い事を確認し、念の為に通路の向こうへ灯りを設置しておく。例の黒い物こと推定“影の獣”が入り込んで来ようとしたら嫌だからね。

 で。と一応インベントリを確認。うん。蓄光度がほぼ100%になっている「宿光石の欠片」ってアイテムがたくさん入ってるな。


「で、これを、あげればいいんでしたっけ?」


 …………とりあえず、その辺に置いておけばいいのか? どうなるのか、予想もつかないけど。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る