第617話 22枚目:2日目開始

 そして翌朝。と言っても夜中に3時間おきに起きていたから、寝た感じは薄いんだけど。とりあえず光球を継ぎ足してから右端の通路を進んでみると、明るい空が広がっていた。

 無事夜を越えられた事に安心しつつ、少し考える。問題は探索する方向で、具体的には、上に行くか下に行くか、だ。


「……まぁ、上かな。とりあえず現在位置を把握しないといけないし。下が探索できるようになるには、流石にもうちょっとかかるだろうし」


 それにそろそろ他の人にも会いたいしな。拠点の取り合いに参加する気は無いが、情報交換ぐらいはやっておきたい。もちろん無理をしない範囲で。

 メインスキルに【飛行】と行動補助系スキルが入っていることを確認し、洞窟の縁を蹴って飛び出す。……よし、【飛行】が無効化されるとかそういう事は無いな。

 そのまま反対側まで辿り着き、斜め上へと崖を蹴って更に上がっていく。【風古代魔法】があったら風の足場を出してもっと早く上がれるんだけどな。まだ入れてないから仕方ない。


「ま、別に遅いって訳じゃないんだけど。少なくとも崖をよじ登ったりするよりは早い訳だし」


 距離の長い三角跳びで崖から飛び出してみると、一気に視界が広がった。どうやらこの谷、元々の高度が高かったらしい。……というか、山を特大の剣で真っ二つにしたような形になるらしい。

 どんな辺境だよ……と自分の初期地点に呆れつつ、ちょっと高度を落として山頂に一度着地。そこから思い切り踏み切って、高高度へと移動した。



 太陽がほぼ真横にあるからあっちが東として、サバイバルの舞台はスターティア4つ分ぐらいの島のようだ。去年の5月イベントで探索した亜空間より、1周りか2周りほど小さいだろうか。

 北を上として、大体バームクーヘンを切り分けたような形をしている。私が出て来た、東西に向いた切れ目と言うか谷のある高い山は南の端、短い方の辺を丸々占拠しているようだ。思ったより大きい山だったな。

 地形としては北に行くほど穏やかでなだらかになるらしく、東に行くほど乾燥していくようだ。だから北西の海岸付近は湿地帯に近く、真北は草原、北東は荒れ地に近い様子だ。



 島のメインとなるのは、恐らく湿度によって植生の違う森だろう。高高度からだと緑のグラデーションにも見える広い森には、南端の山からのびる川のような隙間や、この高さからでも光っているのが見える湖のような場所が見える。

 やはりキャンプをするなら水場の近くが色々と便利だろうな……と思いながら、それなりに点在している水場を順番に眺めていると、その内の1つで何かが動いた気がした。

 まだステータスというか種族レベルは半減、とはいかないまでもかなり下がっている。だから、目を凝らしてみても森の木に遮られているのかよく見えない。


「やっぱり、まずは人のいなさそうな……山の南側でも探索して、イベントアイテムを集めた方が良いか」


 さっき動いたように見えたのが召喚者プレイヤーかモンスターか、あるいは動物かは分からないが、今はイベントアイテムを探す事の方が優先だ。

 不測の事態と言うのは起こりうるわけだし、それならいっそ、地形的にまず誰も踏み込んでいないだろう南端の山、その更に南側を探索してイベントアイテムを探し、状態を万全に整えた方が良い。

 しかし生活の気配というか、朝になっても動く気配や炊事の煙なんかが一切見えないなー、と思いつつ身を翻しかけ、今度は明確に、森の中から勢いよく何かが飛び出したのを確認した。


「っと、流石にこんな高い所にいれば、下からも補足され……あれ?」


 【飛行】単体ではまだ徐々に高度が下がっていくので、いっそ一度【飛行】を切って山頂に着地してから迎撃するか……と思いながら警戒の目をその何かに向けるが、すぐにその警戒は解く事になる。

 何せ森の中から飛び出し、結構なスピードでこちらに飛んでくるのは――手をぶんぶんと大きく振りながら箒にまたがる、空色の魔女装束を着た姿だったのだから。


「ちーいーひーめーさーん!! ちょっとー、お時間ー、いいかしらー!?」

「はーい、大丈夫ですよー」


 どうやら私は「空の魔女」さんと同じステージに割り振られたようだ。

 これならもしかすると、『アウセラー・クローネ』所属の誰かもいるかも知れないな。あの人も空戦一筋の第一人者で、普通に魔法使いとしても強かった筈だし。

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