第615話 22枚目:洞窟の外

 そこからえーと、メニューの時間経過で見ると、30分弱か。


「ステータスが下がったせいなのか、魔法スキルが少ないせいなのか、それとも単に相手が強敵だったのか、さっぱり分からないな……勝ったけど」


 これまた久しぶりに魔力がレッドゾーンに入った感覚にぜいはあと肩で息をしながら、ようやく削れる事の無くなった大きな光球と、その上下で、柔らかい光を放っている天井と床を見る。

 自分の足元を見ると、確かに影が無い。お化けが紛れ込んでも区別がつかないな、というのはともかく、そのまま【鑑定☆☆】を発動させてみれば、そこにある「蓄光度」は無事100%になっていた。

 しばらくは魔力が回復するのを待つとして……と目を向けるのは、中央である此処と比べれば若干光量が落ちる、4ヵ所の通路だ。


「まさか、「宿光石」は一定以上光を蓄えると、近くにあるより光の量が少ない宿光石に光を分け与える性質があるとは……」


 そしてあの4ヵ所の通路も宿光石で出来ている。つまり、文字通りこの洞窟にある宿光石全てに光を満たしたことになるな。通りでキツい筈だ。何かやけに遠くまで光ってるなと【鑑定☆☆】してみたら文章が追加されてるんだから、びっくりだよ。

 早速だがご飯休憩パート2しながら魔力の回復を待つ。回復速度も落ちてる感じがするから、やっぱり魔法スキルはその辺補正があったみたいだな。いっそ骨を対象に【吸引領域】を展開して……まだ入れてなかった。

 とりあえず探索するとして、問題は4ヵ所ある通路の、どれから探索するかって話だ。何せ、現在地がさっぱり分からない。お知らせによればフィールド自体は全てのステージと挑戦タイミングで一緒との事だから、しばらくすればマップは出来上がるだろうけど。


「それなら、まぁ……ここの光の維持を強化して、端からいくか。どうせ全部探索するんだし」


 と決めた所で、もう一度大きな光球へと魔力を補充して、追加詠唱。


「[これは支え、これは助け、これは蓄え、光をより輝かせるもの――ライトサークル]!」


 大きな光球の周りに、光の輪が出現した。これは設置型の光属性魔法に追加する事が出来るもので、その効果時間を延ばすという効果がある。しかも重ね掛け可能だ。

 光の輪を3重に重ねてから立ち上がる。んー、体感だけど魔力は8割ぐらいかな。これなら移動しながらでも回復するだろう。何があるかは分からないが、まぁ【徒手空拳】と【槌】は入れてるから、非実体で光以外の特定の属性しか効かない、とかでなければ問題ない筈だ。

 この洞窟の、この広場を調べるだけで大分時間かかっちゃったからなー。出来れば取り戻したいところだ。




 左端の通路は何度か折れ曲がりつつ下方向に進んで行き止まり。左から2番目はぐるぐる回るように上方向に進んで行き止まり。右から2番目は、こんがらがった配線並みにややこしい迷路になっていた挙句にその全てが行き止まりだった。

 特に3つ目の迷路で大分時間を食ってしまい、現在までの経過時間は11時間。もしこのサバイバルイベントが朝から始まっているなら、そろそろ日が暮れ始めている頃だ。昼より夜の方が危険なのは、フリアドにおいては常識である。

 その前に、せめて周囲の環境ぐらいは確認しておきたい、と、右端の通路を辿っていく。進むにつれて宿光石の割合が減っていくのか徐々に暗くなっていく通路を進むと、今度は比較的直線に近いその先に、宿光石のものではない光が見えた。


「外に繋がってるのがこれ一か所とか、難易度の高い洞窟だな……」


 まぁ右端から当たっていれば一発で済んだって事でもあるけど。マップ埋め作業的には問題無いし、次からは問題なく一発で出れるのだから大丈夫だ。……そもそも初期地点が同じか分からないけど。

 これもランダムだった筈だが、バックストーリーや種族補正やステータスの参照があったりするとどうか分からないからな……と思いながら、ようやく洞窟から出る事が


「出来ないな。断崖絶壁のど真ん中ってどうなってんだ」


 しかも山の中腹とかじゃなくて、深い谷の途中だから見晴らしも良くない。というか、周辺の地形を確認するという意味では何も見えない。ゲーム開始時のスタート位置といい、私は谷底に何か縁があるのか?

 という冗談はともかく。見上げてそこそこの広さが見える空はすっかり赤くなっている。もしかしなくても、日没まで秒読みだろう。

 一応下を見てみるが、ものすごく深い、ということ以外は分からない。しかしせっかくここまで来たのだし、と、手を伸ばし。


「[照らし出せ、暴き出せ

 闇夜であっても白日のように

 隠れ騙そうとする一切を詳らかに――サーチング・フレア]!」


 巨大な光球が現れて、そのまま下へと落ちていった。本来は上空に打ち上げる形で使う魔法で、フレアの名の通り隠蔽解除効果のある光を撒き散らす魔法的照明弾だ。

 底が見えるなら大収穫、深さが一定値を越えていることが分かれば上々、と落ちていく光に照らされる谷にじっと目を凝らし。



 途中で、しゅるんっと崖の両側に光球が吸われて消えるのを見た。



「此処にもあるのか「宿光石」!」


 よーし分かった。とりあえず、完全に日が落ちて何か変化が起こるまではたっぷり光を吸わせてやる!

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