第611話 22枚目:イベント準備

「またか」

「ねぇ姫さん。あれだけ護衛っていうのはどういうものか説明したけど、まだ足りなかった?」

「今回は私のせいじゃないです。それとも、参加するなと?」

「出来ればそうして欲しいかな!」

「それだけは断固拒否します」

「……だろうと思った」


 前回の5月イベント、という前例を知っているエルルはひとまず引き下がってくれたが、やっぱりというか何と言うか、サーニャの説得に大分かかった。カバーさんも援護してくれたんだけど、それでもなお、だ。

 最終、文句があるなら大神にどうぞ、と言ってようやく、しぶしぶながらも引いてくれたので、これでどうにか説得完了だな。


「私だって呼べるものなら呼んでるんですよね。だって絶対エルルが大活躍じゃないですか」

「……まぁ、野営の類には慣れてるが……」

「慣れてるどころか、エルルリージェは第7番隊の隊長じゃないか。調査探索任務は得意中の得意だろう?」

「第7番隊?」


 おっと、思わぬ方向から思ってなかった情報が出て来たな。部下がいた感じの発言はしてたから、何となく隊長っぽいなーとは思ってたけど、やっぱり隊長職だったのか。


「うんそう。組織的には第1から第6までの大隊があって、第1と4番隊が市内警備、第2と5番隊が周辺の町や道の警備、第3と6番隊が僻地警戒と連絡要員でね」

「おい」

「例外に皇族を守る近衛隊がいるんだけどこっちは兼業もあるから置いといて、第7番隊は名目上は予備隊なんだけど、他の大隊のヘルプや手伝いに回るから実質全部の大隊の仕事が出来る部隊なんだよ!」

「おい、アレクサーニャ」

「しかもエルルリージェは第7番隊のトップだから、位としては大隊長と同じな訳だよね! これってすっごい事なんだ!」

「おいこらいい加減にしろ」

「痛い!?」


 頼りになる何でも出来る系のイケメンエリート士官軍ドラゴンさんが予想以上に地位の高い相手だった件。いや大隊長と同格ってすごくない!? すごいよ! 多分実力だろうしすごいよ!!


「実際の権限的には中隊長クラスだし、率いてる人数はそれ以下だけどな。そもそも予備隊は予備隊だから扱いも良いとは言えないし、元はと言えば問題児を隔離する為の部隊だから閑職だ」

「でも兄様達が、第7番隊の隊長が変わってからは随分と隊全体の質が上がってるって滅茶苦茶褒めてたよ?」

「どうしようもない命令違反をしないようにさせただけで、能力はあるからな、あいつら。だからクビになってないんだし」

「いえ、それでも十分すごいと思うんですけど?」

「そうですね。とても素晴らしい成果だと思います」


 いやーエルルの主人公適性の高さが留まる事を知らないな。問題児の集団を統率して成果を出すってそうそう出来ないよ? カリスマと実力に加えて指揮能力がちゃんとないと無理だから。それが出来たってやっぱりすごいな?


「ちなみに、サーニャの所属とエルルの前任者ってどうなんです?」

「ボクは第4番隊の17小隊の隊長。“天秤にして断罪”の神にも誓いを立ててるから、責任者に許可さえ貰えれば犯罪者の捕縛も出来たりするよ」

「前任者は……良くも悪くも、無難に全てを進めようとする感じだったな。自分の責任だけは回避していく感じの……」


 サーニャはお巡りさんかな? もうちょっと偉いだろうけど。そしてエルルの前任者は、何と言うか、ありがちだな……っていう気配が。やっぱりエルル、特殊クエストかイベントの主人公格なんじゃないかな?

 とかいう会話もあったりしたが、とりあえず保護者組の説得は完了。それまでの間は大人しく過ごす事と、十分な準備を整える事は約束する事になったが、大人しく過ごすのはともかく準備に関しては異論なしだ。


「ちなみにエルル。その、大人しく過ごす、の中に、ティフォン様の試練へ挑戦するのは入りますか?」

「………………どうしても身体を動かしたいんだな」

「サバイバルと銘打たれていますから、出来るだけ種族スキルのレベルを上げておきたいんですよ。不測の事態って言うのが絶対に起こるでしょうから」


 ……超特大の溜息は吐かれてしまったが、それでも許可は下りた。やったぜ。まぁエルルとしても、ステータスがあれになった私相手だと、流石にちょっと直接の組み手は危険かも知れないっていうのを察してた部分はあっただろうけど。

 それに、だな。ちょっと、とりあえず私は、この場から理由を付けて離れた方が、良い感じの状況になってるんだよね……。

 いや、ほら。今回サバイバルで、頭数が居た方が良いのは分かり切ってるよね? 周辺警戒とか、生産手段とか。生産に関しては道具が優先な人もいるだろうが、私の場合、生産道具を呼び出すより仲間を呼んだ方がいい。んでもって、うちには、個性豊かな可愛い仲間がいっぱいいる訳で、ね?


「……私が呼ぶ優先順位を決めるのに、本気のバトルロワイヤルが開催されるとは……」

「俺達が行けないっていうのが、更に燃料を投下した形だな……」


 そういう事になってるんだよね。だから、安全なクランハウスな筈のこの島は今、少しの油断もならない殺伐とした危険地帯になっている。どうしてこうなった? 皆に愛されてるっていうのはありがたいんだけども。

 一応玄関口である海岸に『現在、島内バトルロワイヤル開催中。危険につき、御用の場合はまずウィスパー等でご連絡を』という看板を立てておいたけど、どこまで効果があるかは分からない。

 完全に別枠の召喚者プレイヤー組すら、実力を示す為って理由で戦いを挑まれてるからな……畑の世話をする時間は一時休戦とか、建物への被害は出さないとか、一応、守るべき一線は越えてないみたいなんだけど……。


「本当に、まさかこんな事になるとは思いませんでした」

「それぞれに最低限の戦力を持ってるっていうのがこうなるとはな……」


 え、私的な優先順位?

 まずは何があっても一番大丈夫かつタンカーを増やすのは鉄板って事でルドル。次にサバイバルで野営で拠点の設営もしなきゃいけないんだから、その辺が何気に得意なルウ。そこから調達や安全の確保って意味でルフィルかルフェル、ってとこまでは決めてる。

 後は状況に応じてかな。モンスターが多いのか対人戦が多いのか、そもそも植生や地形による危険が多いのか、っていうので決めようかなと。まぁ、皆には言ってないんだけど。

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