第612話 22枚目:準備完了

 素早い検証班の働きにより、お知らせが来た翌日には、持ち込みスキルとアイテムの上限を上げるアイテムは、野良ダンジョンで集めるのが効率が良いというのが判明した。いや、本当に仕事が早いな。

 なお肝心の参加方法だが、インベントリを整理した上で持ち込みたいスキルを上から順番に並べ替え、個室でログアウトした上で通常ログインとは別枠になる既定の時間にログインすればいいらしい。

 インベントリに持ち込み制限以上のアイテムが入っていたら、上から順番、ではなく、その中からランダムに選ばれるんだそうだ。つまり、目当てのアイテムを確実に持ち込みたいのであれば、倉庫などを使ってちゃんと整理しとけって話だな。


「そして装備状態もその時点の物に準拠する、のはいいとして、まさか上限解放アイテムが装備品の形をしているとは思いませんでした」


 まぁフリアドにおける装備枠っていうのは実質ないも同然、もとい検証班によれば、それこそあのレイドボスによる雪の鎖じゃないけど、「身に着けた」と判定されれば効果が発揮される。つまり、身体(アバター)が大きければ大きいほど有利って事だな。

 もちろんいくら身体が大きくても力が無ければ動けないし、装備品の重量って言うのは割と馬鹿にならない。だから大抵の「戦う人」はメイン装備だけを身に着けておき、予備武器の類はインベントリに放り込んでいる訳だ。

 それが今回削られるという事で、身に着けられる範囲を増やすベルトの類や、動きの邪魔にならないポーチの類が作れば作るだけ売れる状態らしい。アラーネアさん達『蜘蛛糸裁縫店』は大丈夫だろうか。


「いえ、本当に。素晴らしい装備を貰っておいてなんですが。というかこれ、全部アラーネアさんの糸で出来てる現状最高級品では? お金を積んでも予約がいっぱいで手に入らないやつでは?」


 なお、「貰って」である。お金を払わせてくれないんだよあの人。解せないので、ボックス様の試練で高級布の材料を落とすモンスターを倒して、ソフィーナさんに料理を作って貰って、セットにして送りつけてる。

 品質に自信があるので返品不可だ! ……それが原因じゃないかって? はははまさかー。



 さてそれはともかく、服というか装備一式だ。全体の色は艶消しのモスグリーンで、全体の感じはあの高所作業してる……そう、鳶職の人、あの人達の格好に近い。

 ゆったりとしたズボンの裾をロングブーツでがっつりと締めて固定し、余った部分を折り曲げてブーツの外に出している。腰の部分は太いベルトでずれないようにして、その上に袖部分が締められる、首周りの詰まった上着を着ている。登山用のジャケットに近いかな? フードは無いけど。

 で、その上から明るい砂色のマントを羽織る形だ。厚みがあるのに動きやすいのは流石としか言えない。こちらにフードがついているし、説明書によれば最悪このまま寝袋にもなるとの事。



 そして、これら一式には見た目からは全く分からないが、物凄い数のポケットがついている。むしろポケットを縫い合わせて服の形にしてるんじゃないかってぐらいだ。しかも一杯詰め込んでも膨らんでるのが外からだと分からない。

 ちなみに上着だが、実は内側に2枚重ねて止めてあって、状況に応じてパージ出来るらしい。何それ凄い。【環境耐性】を一時とは言え外す都合上、調節は出来るに越した事は無いっていうのは確かなんだけど。

 もちろん太いベルトにはポーチがついてるし、「氷砕ハンマー」に加えて、ルージュから貰った折り畳まないサバイバルナイフや、ルディルから貰った緊急用のポーション、ナイフ型とロングソード型の上限解放アイテムが並んでいる。


「ポケットには非常食もたくさん入ってますし、インベントリにはかき氷機とその他あれば便利なものを入れましたし、とりあえず準備は完了ですかね」

「普通の人だと重量で潰れるんじゃないっすかね? ……ていうか先輩、ステータス下がってもそれ着て動けるっすか?」

「種族スキルが基本的にステータス補正ですし、ちゃんとレベルは上げているので多分大丈夫だと思うんですけど……少なくとも、トッププレイヤーぐらいのステータスは維持できると思います」

「それはそれですげー話っすけど、なら大丈夫ですかねー」


 後は、髪を三つ編みにしてから巻いてお団子にして、と。これで準備は完了だ。上限解放の方は、ナイフ型がスキル3つ分、ロングソード型がアイテム8個分なので、スキル2つ分のイヤリングと、アイテム2個分の指輪を付けている。

 インベントリの整理もしたし、後は一度ログアウトして、大型連休最後の土曜日、昼11時にログインすればいい。ちなみに今回は3時間のログインで、内部では丸5日が経過するようだ。40倍か。


「【飛行】も【風古代魔法】も最初は使えないとなると、現在位置の把握に手間取りそうですね。それ以前に、合流できるかどうかが既に運しだいですけど」

「確かに人数考えたらそうなんですけど、それでも同じクランに所属してたら同じステージにいるぐらいは配慮してほしいっすねー」


 ちなみに今回のイベント空間では、ある程度の人数で平行世界的に分けられるようだ。だから一緒に行動できるかどうかは運次第という事になる。本当にランダムだったらまだマシだが、ステータスやスキルレベルを参照して戦力的に分けられていると、合流は正直厳しいだろう。

 まぁ、その辺りも実際始まってみなければ分からない訳だが。ともかく、少なくともこの土日は4回とも参加できるんだ。出来るだけ頑張りつつ、様子を見るとしよう。

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