第583話 21枚目:周到な仕掛け
神様に深く関係する場所なので、【王権領域】を最大展開してから蹴散らすって訳にはいかない。少なくとも敵味方の識別は楽になっただろうが、そういう訳にはいかないのだ。
そして、私が現場にいる、というのも、出来ればあまり気づかれない方が良い。だって相手の警戒度が変わるだろうし、それに応じて動きが変わるとやり辛くなるだろうからね。こっそり推奨である。
と言う訳なので、馬車(馬じゃないけど)の中で一緒に乗って来た『可愛いは正義』の人達にバフをぽいぽい。
「ちぃ姫からのバフ!」
「漲って来たわ!」
「蹴散らすわよー!」
無事やる気が最高潮になったらしい『可愛いは正義』の人達を見送り、スピンさんに姿を隠す魔法をかけて貰ってから、ちょっと遅れて行動開始だ。
戦闘しながらその動きに隠して何か小細工をする、っていうのは相手の得意とする戦法だからね。その辺気づける可能性が高いって事での現地入りだから、頑張って違和感を探してみよう。
「いえ。普通にそんな小細工は無い方が良いんですけどね?」
「でもどう考えても仕掛けてあるだろ」
「仕掛けない訳が無いんですよねぇ……」
だって私なら仕掛けるからな。せっかく大規模に動くんなら、その動き自体を利用しない訳が無いじゃないか。
とはいえ、そもそもの目的が分からないからな。今の所どの襲撃場所も防衛には成功していて、動き自体からその目的を推測するのは難しそうだ。遠慮なく火属性の攻撃を使ってくるので、まだ氷のブロック製の天井と柱がある人魚族の街がちょっと大変な事になっているようだ。
どの場所の襲撃も、常駐戦力だけではほぼ押し負けていただろうという規模の戦力が投入されている。だから、戦力規模からどこが本命かを推し量るのは難しい。……が。
「正直に言えば、この恩寵洞窟だけが違和感と言えば違和感ですが……本当に、何が目的なのやら。いえ、どうせ1つの行動で、いくつもの目的を達成しようとしているのは分かっているのですが」
考えながら、応援部隊の大活躍により押し上げられた戦線を追いかける形で、まぁまず間違いなく『バッドエンド』及びその関係者によって襲撃されていた場所へ辿り着く。さて、何か違和感はーっと。
……穴を掘ろうとしていた、というのは本当らしいな。元々あまり平らとは言えない地形だったけど、ちょっと歩くのが大変なぐらいデコボコになってる。下手に走ろうとかしたら、即座に転ぶか足を捻るかしそうだ。
慎重に動きながら、という事になると時間がかかるが、恩寵洞窟内に仕掛けられていた2重罠を忘れてはいない。あれがもしも地上に仕掛けられていたら、このただでさえ歩きにくい場所が地雷原になってしまう。
「そんな事になったら、その後の探索が進まないにも程がありますし、どれだけ人手と時間を取られるか分かった物ではありませんからね……。エルルも何か、違和感とか見慣れない物とかがあったら教えてください」
「邪魔する事と足を引っ張る事に関してはいっそ天才的だな。しかし違和感に、見慣れない物なぁ……」
「効果的なのはどうしようもなく間違いありませんし、頭が回るのもそうですね。どうしてそれをもうちょっと違う方向に使えないのか」
開けられた穴を覗き込み、穴から掘り出された石や土をどけてみて、慎重に探索を進めつつ、エルルにもそう声をかけておく。あー、天性の狩人であるルウも連れてきた方が良かったかな。
探索と言うか簡易の地均しをしながら推定『バッドエンド』が何かしていた場所を辿っていくが、これといって違和感や変な物は見つからない。杞憂だったか?
「……お嬢、ちょっと」
「おやエルル、何かありましたか?」
「武器とも危険物とも思えないんだが、なんか妙な魔力を感じるから一応な」
流石エルル、何でもできる系のエリート士官軍ドラゴン。早速何か見つけてくれたらしい。しかし武器とも危険物とも思えない、妙な魔力を感じる何か、ね? 何だろうな?
エルルの方にスピンさん共々近寄って、エルルが示す先を見てみる。そこに転がっていたのは……一言で言うと、棒だ。長さや大きさ的に、リレーで使うバトンが一番近いだろうか。色はカーキ色だが、何かの皮か、或いは紙か、それとも塗料かの判別は付かない。
本来平らである筈の面の部分が尖っているので、どちらかというと杭に近いだろうか。しかし両端が尖っているとは、どういう意図の物体なのか。
「掘り出された感じがする岩を動かしたら、重心に違和感があったからな。一応砕いてみたら中から出てきたのがこれだ」
「うっわ手の込んだことを。って事は、ここまでもそれなりに見逃した可能性がありますね」
それで岩の破片が一杯周りに転がってるのか。と思いつつ、まぁでも間違いなく何らかの仕掛けではあるので【鑑定☆☆】だ。
[アイテム:炸裂火薬の多重爆裂筒
説明:少量でも強烈な爆発を引き起こす火薬で作られた筒形の爆弾
接着剤を塗布した薄紙に火薬を吹き付け、幾重にも重ね巻かれて作られている
一方の端に魔石が仕込まれていて、時間経過で自動的に爆発する
もう一方の端に共鳴石が仕込まれていて、離れた場所から任意で爆破が可能
爆発まであと1:42:33]
「そう言えば居ましたね。あちら側に爆発物のスペシャリストが」
「はーい早急に捜索と無力化の手配を行いますねー」
「つまり?」
「使い方によっては地形が変わるレベルの危険物です」
「マジか」
いやぁエルル本当にお手柄だ。こんなの洞窟の上でばら撒かれてから爆破されたら、確実に埋め立てられるに決まってるじゃないか!
もちろん他の場所でもまずい。下手したら地盤沈下から女神様の意思の外で噴火が起こってもおかしくないぞ!? しかも結構軽いから数持ち込めるだろうしな!
何かやってるとは思ったけどやっぱりだよ!!
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