第564話 21枚目:氷の大地東部

 メイン会場である氷の大地東側まではそこそこ距離がある。とはいえ、こちらは召喚者プレイヤー組の内3人以外は全員魔物種族だし、その3人にしても、実力的には確実に上位に位置している。

 だからステータスの関係で移動速度は中々に早く、会話しながらのんびりめに移動していても、1時間もすれば問題がある、と推察されている場所が見える位置まで辿り着く事が出来た。

 流石あのドカ雪の原因ではあると言うべきか、この辺までくるとモンスターがどうのというより、積もった雪に足を取られ、動きにくくなってしまう事で進めないようだ。


「だからこちらでもせっせと除雪が進められている、と。……しかし、ぱっと見だけの話とは言え、雪で出来た城ですか……」


 効率だけを言うなら大玉転がしサイズの雪玉を作ってそのまま海に落とせばいいらしく、大陸に比べれば除雪は順調らしい。簡易的なものとは言え“雪衣の神々”の神殿も建っているので、そちらに雪像を納めてもいいし。

 文字通りの人海戦術で、次から次へとおかわりが来る雪をじわじわ片付けて行っているようだ。一部は氷のブロックとなり、簡易の休憩所、というか召喚者プレイヤー向けのログアウト場所と、住民向けの仮家屋になっている。

 まぁ除雪をしないと、雪の城を攻めている間に雪像に変わって挟撃、とかされかねないからね。地道にでも除雪はしておいた方が確実だ。


「なので除雪開始ですね。……とは言いましたが、私とエルルとサーニャなら、インベントリに雪を詰め込んで海の上で放り出すというのが一番早いでしょうか」

「それならいっそ、2人がかりで運ぶ袋にも詰め込んでみるか? ちょっとこれ、普通にやってたらキリがないだろ」

「めちゃくちゃ降って来てるしね。一応除雪は間に合ってるみたいだけど、それぐらいはした方が良いんじゃないかな」

「なるほど。あの亜空間で移動に使っていた物の倍ほどの大きさであれば良いでしょうか?」


 まぁでも、要は除雪が出来ればいいんだな? って事で、時短を提案だ。意外な事にエルルとサーニャもあっさり同意してくれて、今日も仕事が出来るカバーさんが素早く手配を開始した。

 だって出来れば早く片付けた方が良いだろうしね? と、周囲の召喚者プレイヤーの視線が滅茶苦茶刺さりはしたものの、効率重視で除雪開始だ。だって時間無いし。それでなくても早く行動した方が良いだろうし。




 で、昼頃のログアウト休憩を挟み、午後のログインで4時間経過頃。


「……ステータスの暴力、本領発揮って感じっすね……」

「単なる力仕事だからな」

「揺らさないようにとか落とさないようにとか、そういう気遣いが要らない分楽な仕事だよ」


 心なしか氷の大地に居る召喚者プレイヤーが全員揃って唖然としている中、あっさりと氷の大地に分厚く積もっていた雪の排除はほぼ完了した。何故ほぼかっていうと、今も次から次へと降って来てるからだ。

 まぁ広さは問題だが、一度綺麗になれば後はそれを維持するだけだ。それなら人数がいればどうとでも対応できるだろうし、なんなら初心者の力関係のスキル上げとして最適だろう。

 私がログアウトして寝ている間もエルルとサーニャは普通に動けるので、うん。実に捗ったよね。……【格納】がインベントリに反映されてから、初めてインベントリを一杯にしてみて、その容量に自分でびびってたのは秘密だ。


「雪が無くなったらモンスターの襲撃頻度が下がったのも良い情報です。バックアタックや周辺からのちょっかい出しへの警戒度を下げられますからね」

「無い訳ではないでしょうし、警戒を切ってしまうと逆手に取られるでしょうが、それでも戦力を集中できるのは大きいですね」


 放っておくと雪はどんどん積もっていくし、イベントの残り時間も刻々と過ぎていくんだ。テキパキ動こう。どうせ今回も人数か、ギミック的な謎解きが必要なんだろうし。

 さて、と、ある意味ようやく下準備が終わってから改めて雪の城を見る。



 実用的な元要塞、というより、見栄えを大事にした、華奢な印象さえある城だ。複数の尖塔を抱えている事と、その全てが雪で出来ているから真っ白いという事で、どこかの童話に出てくるような見た目をしている。

 ただ、サイズは相当に大きいだろう。遠目に見ればバランスが取れて美しくても、近寄ると、うん。巨人用か? と言いたいほどにでっかい。周りに何も無いから大きさ感覚が狂っているのが良く分かる。普通はもっと前に気付くだろう。

 見える範囲の窓や扉といったものは、一般的な人間種族にほぼ等しい大きさのようだ。だから内部の、廊下や普通の部屋自体の大きさは、いわゆる「普通」なのだろう。たぶん。



 だから、見た目はお城でも、実際の内部は滅茶苦茶広いのがほぼ確定だ。探索に時間と人手がかかりそうな気がするな? 当然ながら素通りさせてくれる訳も無いだろうし、モンスターは当然として、罠の類にも気を付けた方が良いだろう。

 冷人族の人達、恐らくこちらに残されている身体がどういう扱いをされているのかは分からないが、彼らは極寒の環境で発生する災害に詳しかった。その知識が使われていたりしたら、危険度はかなり高いだろう。

 それに全てが推定元凶の雪で出来ているという事は、探索途中で内部構造が変わったり、通った筈の場所に罠が増えていたり、モンスターだけが自由自在に出入り出来たり、という可能性もある。


「……まぁ実際にあるかどうかは分かりませんが。無いと思って術中に嵌るくらいなら、有ると思って肩透かしを食うべきでしょう」

「そうですね。そしてそもそもの問題の源であるなら、ある程度踏み込んだり危機に陥ったりしたところで大神の加護が妨害される、という可能性もあるかも知れません」

「重ねて厄介なんですよね」


 大神の加護が妨害される、という事例が既にあるからな。……だから【測量】なんてスキルが、オートマップとは別口で存在するのか、って、そっちはそっちで納得したけど。

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