第559話 21枚目:雪との戦争

 さてそんな訳で、ギリギリ春休みが終わる直前にはどうにか、北国の大陸はその地面のほとんどが見えるようになっていた。いやー、やっぱり数の暴力ってすごいね。全員が頑張るだけのご褒美ありきではあるんだろうけど。

 もちろん“ナヴィ”さん達も大活躍だし、眷属の人達に教えを乞うとスキルの成長にブーストがかかるらしいって事で、特に新人召喚者プレイヤー達にとっては1月に続く成長ブーストになっただろう。第四陣もかなり育ったっぽいし。

 そうなるとどうなるかっていうと、カバーさん経由で流して貰った情報もあって、ポリアフ様達による手厚い「支援」を受けた召喚者プレイヤーが、大挙して氷の大地に突撃するって事なんだよね。


「うーん、数の暴力対数の暴力。特級戦力が暇なのはいい事ですし、中々見ごたえがありますね」


 で、遠くから例によって滅茶苦茶いい視力で観戦してる訳だ。白い津波か? と思う程の雪像型モンスターの群れを、恐らくはクラン同士で分担し、協力し、迎え撃ちながら押し込んでいこうとしている。

 とにかくどうしようもなく数がいるし、何か倒しても倒しても減った気がしないんだけど、だからこそ大規模戦闘における連携の経験を積むにはもってこいみたいなんだよね。

 ちなみに手厚い支援の状態が整っていても、やっぱり【環境耐性】はある程度必要だし、雪国仕様の装備の生産は追いついていない。だからそういう理由で参戦が出来ない召喚者プレイヤー達は、ポリアフ様の山の北側、北国の大陸に入る事を防がれた雪が積もっている場所で、雪像を作りながらスキルを上げたり注文が届くのを待っている。


「そしてそんな離れた場所からでもメイン戦場が見えるとか、やっぱりステータスの暴力ですね、私」


 ちなみに、ナヴィティリアさんは最前線に行ったエルルとサーニャとルージュについて行っている。何故って? ナヴィティリアさん、というか、“ナヴィ”さん同士だとある程度情報の共有が出来るみたいなんだ。

 それが一体どういうことかと言うとだな。こういう大規模戦闘において、声を端まで届けるのは実質不可能だ。だから司令部は召喚者プレイヤー特典であるウィスパーを使って、全体の戦力バランスをとったり動き方を決めたりしてるんだよね。

 そうすると、ウィスパーが使えない住民は単独では参戦出来ない。連絡役である召喚者が一緒じゃ無いと、連絡がつかないから。……というのをひっくり返したのが“ナヴィ”さん達だ。そう。情報の共有が出来るって事は、連絡が取れるって事だからね。


「まぁいいんですけど。流石に大規模戦闘の最前線に私が出るのは問題しかないでしょうし、それならエルルとサーニャが全力を出せる状態で参戦できる方が戦力的にはいいんですけど」


 なのでまぁ、私はお留守番しつつ雪像を作ってナヴィティリアさんの同行時間を延長する係だ。まだルディルやルドル辺り、もともと寒さが苦手な組が【環境耐性】を上げ切れてないのを上げるのに一緒にいるし。

 いやしかし、本当にキリがないな。というか、なんか倒した端からリポップしてないか? 降雪が防がれているのは北国の大陸であって、氷の大地は普通にどかどか雪が降ってるし。雪像型モンスターなら、その雪を使って急速回復とか出来そうな気がする。

 となると、雪自体をどうにかしないといけない事になるが……流石にあの超乱戦の中に突っ込んで除雪作業は無理があるよなぁ。もちろん、雪雲自体を吹っ飛ばすと後が大変な事になるだろうし。


「うーん……、ん?」


 もしかしてまたギミックがあるのか? と、雪像を作りつつ首を傾げていると、服が軽く引っ張られるような感覚があった。何だ? と顔を向けると、テイムしたミニ雪だるま(まだ名前が決まってない)が服の端を器用に引っ張っている。

 一緒に雪像を作っていた筈だが、どうしたんだろう、と思っていると、何やらぱたぱたと氷の棒で出来た手を動かしている。んん? 流石に動作から言いたい事を読み取るのは難しいな。まぁ【絆】補正があるから頑張るけど。

 ……メイン戦場を指して、自分の胴を指す。手を合わせて上下に、いや、下から上に引っ張り上げる。……引っこ抜く?


「…………、え? え、いや、それじゃまさか」


 ば、ともう一度メイン戦場を振り返る。北国の大陸と、氷の大地に普通に居る、野生動物やモンスターを模った雪像達が、これでもかと言う程に群れている。雪像型モンスターとして、何ら違和感はない。

 違和感はない、が。もう一度ミニ雪だるまを振り返る。まだぱたぱたと同じ動きを繰り返している。メイン戦場を指し、自分の胴を指し、手を合わせて動かす。一生懸命伝えようとしてくれているその動作から、私が思いついた可能性が正しいとするなら……メイン戦場は現在、正しく「無限湧き」となっている。

 即行でウィスパーを起動。カバーさんは司令部に居る筈だ。だから滅茶苦茶忙しいだろうけど、ちょっとこれは緊急だぞ!?


『カバーさん、少しだけ宜しいでしょうか』

『はい、問題ありません。どうされましたか?』

『あの群れのドロップアイテムは何だったか、っていうのは分かりますか?』

『現在のところ確認されているのは、その身体を構成していたと思しき雪と氷で模られた動物の一部ですね。分類としては素材です』


 ドロップアイテムではないらしい。もう一度ミニ雪だるまを見る。どうやら伝わったと思ったのか、手を合わせて動かす動作を繰り返している。……そうか。どうしても「引っこ抜かないと」ダメなんだな。


『そうですか。では検証としてまずエルル達に確認をお願いしてもいいでしょうか』

『可能な限りこちらでも人数を動かしましょう。どのように?』

『ありがとうございます。雪像を倒して崩れる途中か、倒す前に――』


 恐らくそういう仕様なんだろう。本当に難易度が高いな。というか、やっぱり何かまだギミックの解析が終わっていなかったらしい。あぁもう、ギミックが多い癖にヒントが少ないんだよ運営大神


『――その身体のどこかに、「氷晶の核」が無いかどうか。そして、もしあった場合は、「氷晶の核」を抜き取って確保する事が出来るかどうか。その確認をお願いします』

『! 分かりました、すぐ手配します』


 雪像型モンスターの群れじゃなくて、雪像の群れとかほんとにさ。区別なんてつく訳が無いだろって話なんだよ。

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