第560話 21枚目:雪像の謎

 まぁ結論から言うと、「氷晶の核」は見つかった。そしてそれを見つけても、降り続ける雪の上に放置すると割とすぐに雪像に戻って襲い掛かって来るのも確認が取れた。無限湧きが確定したな。

 なので大雑把に戦場を分けて、新人召喚者プレイヤー向けの大規模戦闘訓練用の集団を残し、残りをじわじわと削っていく事になったようだ。なお、普通に倒すと「氷晶の核」を探すのが手間って事で、こちらは捕獲推奨である。

 ちなみに戦場を分けるのは私が作った巨大な氷の壁だ。カバーさんに頼まれたからはりきってしまった。


「物理的に戦場が分断されるとは、流石に運営も思ってなかったんじゃないっすかね……」

「ははは」


 で。捕獲推奨、となって活躍しだしたのが、2月イベントで「氷晶の核」を埋め込まれた雪像達だった。……あのイベント、雪像作りと雪合戦に分かれてて、雪合戦の方に雪像が参加していったじゃない?

 あの時雪玉を作るのに使っていた「雪玉製造器」は既に運営大神によって回収されているが、どうやら「氷晶の核」を埋め込まれた雪像達は、レベルを上げて獲得できる特殊能力として「ヒット状態」が発生する雪玉を作る事が出来るらしい。

 なので、分断された戦場の内、攻略メインの方は雪合戦再びとなっている。元々いた数が数だし、その場で復活する以外にもどこかから追加がやってきているようなので、なかなか目に見えて減ったようには見えないが。


「……で、問題があるとするなら、攻略に必要な要素として大量に「氷晶の核」が手に入る事なのですが」

「今までの事考えると、必要だから手に入るってパターンっすよね?」

召喚者プレイヤー側でテイムした雪像が居ないと攻略できないボスである可能性まであるでしょう」

「厄介極まる気配がひしひしするっす……」

「準備に丸2ヵ月かけてるから厄介でない筈が無いんですよねぇ」


 エルル達が確保した分は私に集められているので、結構量がある。元々引き取った雪像達もいるし、どうしたものか。いや、別に今回必ず使い切らなきゃいけないって事では無いんだろうけど。

 なお最前線にいる筈のフライリーさんがここにいる理由は「ちょっと休憩させてほしいっす……」との事。まぁ前線は忙しい分大変だからね。私の頭の上で良ければいくらでも休んでいってほしい。バランスや寝心地がいいかどうかは分からないけど。

 さて問題は大量に手に入る「氷晶の核」の使い道だ。流石に雪像を作る分に全部突っ込むという訳では無いだろう。その後どうするんだって話だし。そんなに数が居ても、練度とレベルが伴わなければむしろ足を引っ張ってしまう。


「だから何か、ギミック的な意味で使う方法が出てくる、と思うんですけど。しかし大量に、となると、何かの鍵という訳ではないでしょうし。召喚者プレイヤー全体に行きわたる前提、にしてもやっぱり多いですし」


 一応【鑑定☆☆】で確認してみるが、やはり「氷晶の核」という表示が出る。2月イベントで交換できたものと同じだ。……同じだよな? と、念の為交換しておいた「氷晶の核」を取り出して比べてみる。

 検証に使うかと思って交換はしたんだけど、その後雪像の大量引き取りがあったから結局使わなかったんだよね。……深い青色の、楕円形の宝石の様な結晶。一緒だな。大きさも変わらないし、重さも多分一緒だろう。計った訳ではないけど。

 透かして見ても何が見える訳では無いしなぁ。雪に透けて落ちる光の色味も一緒だ。まぁ見た目の色が一緒なんだからそりゃそうだろうけど。


「……あれ? 先輩、何かちょっとおかしくないっすか」

「どうしました、フライリーさん?」

「えっとその何て言うか、その、右手に持ってる方のやつ、左手に持ってる方と比べると、何か違うっすよ」

「?」


 なんてやっていると、頭の上で視線を同じくしていたらしいフライリーさんから、そんな言葉があった。うん? 何か違うと来たか。何だ? いやでも、何回見ても見た目には違いが分からないしな。

 一応両方をもう一度【鑑定☆☆】してみるが、左手に持っている方に「交換品」の一文があるだけであとは一緒だ。この「交換品」とはイベントでポイントを消費して交換した消耗品に付いている共通の注釈なので、そこも別に珍しい訳ではない。

 一応確認、という事で、左手に持っている方を雪の上に置いてみる。変化は無い。そして少し離れた所に右手に持っている方を置いてみた。しばらくはそのままだったが、わさわさと雪が勝手に集まりだしたので即行雪の中から取り出しておく。


「あ、もしかして右手のがあの捕獲して取り出したやつですか?」

「そうですよ。こっちはイベントで交換して使わなかったやつです」


 雪の上に置いた時の変化と、【鑑定】による注釈文の有無。それぐらいしか違いは無い、つまり見た目には全く同じものなのだが……既にフライリーさんは、魔法スキルだけに限れば私より上の筈だ。だから、何かの勘違いという訳でもないだろう。

 ただその違いというか、違和感は何なんだろうなって話な訳で……うーん。


「……そう言えばこっちの「氷晶の核」って、女神様の雪でも同じように雪像になるんでしょうか」

「え、さあ。でもなったとして、その場合はどうなるんすかね? 勝手に手伝ってくれる雪像になるんなら助かるっすけど」

「まぁ1体ぐらいならどうとでも出来るでしょう。物は試しです」

「そっすね。1体ぐらいなら蒸発させてもお咎めない筈っすし」


 何も起こらない可能性の方が高いんだけどな。しかし検証とは、あらゆる可能性をしらみつぶしにしていく作業の事だ。どうせ暇だし。

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