第544話 20枚目:洞窟探索

 何が出てくるか分からない……と言うより、何が出て来てもおかしくない。何せあのゲテモノピエロ率いる『バッドエンド』の重要拠点であった事は、ほぼ間違いないのだから。

 なのである種の安全策として、私は【飛行】で地上数㎝上に浮かび上がった上で、自分をぎりぎり包める最小サイズの【王権領域】を展開しておくことになった。


「最悪外から地形ごと吹き飛ばす必要もありますからね。その場合、仕掛けられた罠によっては大変な事になりますが」

『だが、罠だと分かっていても安全を取るなら必要である可能性がある故な。それに恐らく、最悪でもかの化身の再召喚期間が短くなるに留まるであろう』

「普通はそれで十分外からの攻撃を躊躇う理由になるんですけどね」


 躊躇う必要が無い理由? もう一回死ぬまで殴ればいいだけだからだよ。儀式場も一度は破壊済みなんだから。今度こそボコボコにしてやる。

 私が特に自分の安全を確保している(命綱的な意味で)から、エルルとサーニャも突入には納得してくれたし。流石にもうあの「遍く染める異界の僭王」を倒した後だから、洗脳系や寄生系の罠を心配する必要は無いだろうけど。

 カバーさんとパストダウンさんから潮の満ち引きについては聞いていて、現在はあの海岸線にある氷が波の進入を防いでくれているらしい。なので、時間についてはあまり心配しなくて良さそうだ。


「とは言え、早めに探索を完了できるならそれに越した事は無い訳ですが……やっぱり相当に深いですね、この洞窟」

『で、あるな。だがしかし、進んでいないという訳でも無さそうだ。邪神の気配が強まっている』

「……何かいそうな感じですか?」

『いや。かの化身を喚び出した儀式場は、当時の渡鯨族によって空間ごと隔離、封印されているのは確定しているであるし、そのものは破壊済みである。その後の騒ぎを起こすに際し何かを持ち込んでいたとしても、流石にもう回収しているであろう』

「つまり大物や本当に重要な物は無いが、罠ぐらいはきっちり仕掛けてあると」

『そういう事であるな』


 完全にリターンが無いリスクだけの探索になっているが、ここを放置して再利用されても嫌だしな。とりあえず1つ、拠点になり得る場所を確実に潰せるのだから、それで良しとするしか無いか。

 なんて会話と警戒をしながらも進んでいる。道が曲がりくねっているから、現在位置が地上の何処かっていうのが良く分からないな。今の所枝道は無いみたいだから、帰るのは問題無いだろうけど。

 …………一応オートマップ確認。うん、枝道は


「枝道だらけじゃないですか!」

『む、どうした「第三候補」』

「大神の加護特典の地図を確認してください。行きはよいよい帰りは恐いですか全く油断も隙も無い!」

『……なるほど、これは流石に想定外であったな。と言う事は、最奥まで到達した途端、地図が消えるという仕掛けもありそうであるな……というか、まずあるであろう。そういう部分はしっかり押さえている相手であるからな』


 外から入って来る向きには1本道だが、中から出る場合は無数の枝道がある構造になっていた。何だこれ。来るもの拒まず去るもの逃がさずってか!? 危ない、地図が消える、いや、消される前に気付いて良かった!

 とりあえず現在までの地図をカバーさんにメールしておこう。これでここまで来たら脱出のナビをして貰えるはずだ。……流石に邪神とは言えこの世界の神なんだから、大神の力を阻害することは出来ない。つまり、メールやウィスパーは通じる筈だし。


「って事はこれ、単に目印をつけてもダメなんでしょうね……」

『ダメであろうな。流石に洞窟と言う形をしている以上、道自体が組み変わるという事は無かろうが』


 某迷宮の攻略方法に倣って、毛糸玉でも持ち込んどくんだったか? 各種スキルを活用して、リアルのワイヤーと喧嘩して勝てるレベルの奴。ロマンの1つである糸使いっていうのも普通に居るからね、フリアド。器用ステータスが死ぬほど必要だったかな?

 とりあえずカバーさんから地図が消えた場合のナビの了承と、地上でこちらの現在位置を追跡してみる旨の返事が来たのを確認して、まだまだ続きそうな気配がしている洞窟の奥を睨む。


「本当に全く、細かい所まで手を抜かずに嫌がらせして来ますね……」

『防衛する側としては何も間違っておらぬどころか、大正解なのが何ともな』


 まぁ、私や「第四候補」だって、防衛する時はそういう所までちゃんと手を抜かずに仕掛けるけどさ。絶対来るのが分かってるならそりゃ仕掛けるよ。少しでも相手を削っておけば後で効いてくるかもしれないし。

 もちろん詐欺師としてもやっていけそうな丸め込みの手腕もあるけど、基本は基本として確実に押さえてくるんだよな。足元を疎かにしないって言うのは基本中の基本だ。……だから厄介なんだけど。

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