第545話 20枚目:洞窟の理由
その後は、一定間隔ごとにカバーさんにオートマップを送りながら進むことにした。しかし長いなこの洞窟。流石に空間異常があれば「第一候補」が気づくだろうし、それが無いって事は普通に洞窟なんだろうけど。
『しかしこれは、随分と古い洞窟であるな……。あの化身より以前にあった物でほぼ間違いないとすると……』
まぁその「第一候補」はそんな調子だったけど。何だろうな、この厄介事だなぁって気配がひしひしするの。元からか。本当にあのゲテモノピエロは余計な事しかしないな。……そうじゃなくても、運営の用意した問題がアレって事なのはともかく。
それにしても、外に出ないようにする枝道がこんなに多いっていう事は、洞窟自体がかなりの広範囲に渡ってるって事だ。そんな洞窟が自然に出来るか? っていうと、それもちょっと不自然なんだよな。
少なくとも二度は邪神の儀式場として使われているから今はそちらの警戒をしているが、別の目的で作られた洞窟を、邪神の信者がかっさらっていった、とするなら、どうだろう?
「……それはそれで厄介事ですね」
『む。「第三候補」、何か思いついたであるか』
「その前に確認ですが、「第一候補」。この洞窟、天然ものと人工物のどっちの可能性が高いんです?」
『ふむ。……進めば進むほど人工物の気配が濃くなっているのは確かであるな。枝道の先は確認できておらぬが、我としてはそちらの方が人工物の気配が強いと睨んでおる』
「なるほど。ではもう1つ、あの化身が出現する前からある洞窟、というのはほぼ確定で良いんですね?」
『で、あるな。ただし現在は色濃い邪神の気配に満ちている故、その前がどうであったかは推測するよりほかにないが』
まぁこの辺りまでは前提となる共通認識だ。返る言葉に淀みが無いって事は、「第一候補」も推測している内容を補足する部分って事だろう。ここまではいい。
そしてここから先だが、一致していればその推測は大分確実性が上がるし、違っていればすり合わせる必要があるだろう。どちらにせよ、しっかりとした意見交換は必要だ。
邪神とは言えこの世界の神だからか、その気配に満ちたこの洞窟にはモンスターが出現しない。それ以外の理由も視野に入れつつ、実際の人数マイナス2の足音が響く中、状況を確認する為の言葉を口にする。
「問題は、その前がどうだったかなんですよね」
『そうであるな。人工物の気配があるという事は、何らかの目的で作られた場所であるのは確かである筈だ』
「入るのは楽だが出るのは難しい構造、と言う風に考えると、邪神の信者が作った物……という風にも取れますが。恐らく、そうではないのでしょう?」
『……その可能性は、まぁ、低かろうな。かの化身が現れるその前から、密やかに連綿と準備された物……とするならば、完全に邪神の領域と化している筈だ。であるなら、現在我らが無事に踏み込めている事がおかしい』
「邪神とは言え、神の化身等と言う大物が召喚され。その後も、異界の存在との協力有りきとは言え大きな儀式を行い。その跡地となったとはいえ、踏み込めているという事は……まぁまず、何か、他の目的で作られた場所、という事になりますか」
『で、あるな。そして、何らかの理由で使われなくなったこの場所を、邪神の信者が見つけ、己が神の儀式場とした……というのが妥当であろう』
ここまで意見の齟齬は出ていない。だから、ここまではまだ確実性の高い推測と思っていいだろう。なので、前提条件として扱う事が出来る。
で。前提条件として扱うのであれば。カバーさんにオートマップに記録された道のりを送り、カバーさんから地上における現在位置を送って貰って、その周辺地形を確認してみるっていうのも結構大事な検証だ。
「ではその、他の目的とは何だという話ですが。……「第一候補」的に、推測するとしたら何です?」
『ふむ。そうであるな……』
もちろん仕事が出来るカバーさんはパストダウンさんと協力しているし、パストダウンさんが噛んでいるなら同じ情報は「第一候補」にも届いているだろう。
だからその情報を見た上で、渋く低い良い男性の声で喋るぬいぐるみ、という見た目に見える「第一候補」は、こう言った。
『……恐らくは、この大陸の南側、その北半分を支配しそこに坐する、火の山の女神に関する場所であろう。そう、例えば、この大陸には少ない植物資源の代わりに燃料として用いられる山火石。女神に願い、その莫大な熱を宿した石を受け取る為の、受け皿兼坑道……と言ったところではなかろうか』
それを聞いて、手元にある、現在位置が地上のどの辺りなのかという地図を見る。順調に、順当に、大陸南側の中央北寄り、ポリアフ様の雪山と並ぶほどに標高の高い山脈、その中央に近付いて行っている。
どうやら推測は、最後まで齟齬が出なかったようだ。って事は、これも前提条件として扱っていい、つまりほぼ確定で良いだろう。
「下手に力技を使わなくて良かったですね。罠云々以前に、あの女神様が起きてしまったら大惨事不可避ですよ」
『他の神をも罠として組み込むのは、いかにもかの邪神とその信徒のやりそうなことではあるがな……』
つまり。
入るのは簡単で出るのは難しい構造は、火山から流される溶岩を溜めて冷え固まらせる為の構造で。何のためにそうするかって言ったら、大事な燃料である山火石を採掘する為だ。
そんな重要な場所が何で使われなくなったかって言えば、もちろんあの積もり積もったポリアフ様の物ではない雪のせいで、火山の女神様が眠りに就いて。かつ、山火石を採掘して利用する人々も姿を消したからで。
「あのゲテモノピエロ以前にも何かしらの繋がりがあったのでは? と邪推してしまう程には見事な連携ですね」
『繋がりがあっての連携であればこの程度では済んでおらぬだろうから、結果だけを上手く利用した物であろうよ』
いよいよ洞窟を進んでいくという事に対する気は重くなったが、確認しないという選択肢も有り得なくなった。
ここまでの推測をオートマップと一緒にカバーさんにメールで送り、諦めの息を吐きながら、地図上ではそろそろ終わりの見えて来た洞窟の先を見る。【暗視☆】があってステータスの暴力な視力があっても、道が曲がっていれば先は見通せない。
……神話的に推測できる女神様の性格を考えると、うん……割とマジで気が重い。寝ている様子をちょろっと見て終わり、だったらいいんだけど。
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