第539話 20枚目:探索難易度

 そんな感じで、もしかしたら実働部分は過去最高に順調なイベント進捗かも知れない現在。イベントが順調と言う事は探索が順調と言う事であり、冷人族のものがメインになる色々な資料が着々と集まるという事だ。

 その辺の解析、解読や資料としてまとめる作業は、主にカバーさん達元『本の虫』組が担当してくれている。けど私も言語スキルを(まだ確認されていないものや派生スキルを除き)コンプリートしているので、単純に気になるのもあって時々手伝わせてもらっていた。

 ……というか、放っておくと除雪作業にかこつけてモンスターと戦ってばかりいる私を大人しくさせるのに、エルルがそういう作業を回してくる、というのが正しいんだけど。


「身体を鍛えるのは悪い事では無い筈なんですけど」

「色々仕方ないから護身術を教えてはいるけど、本来ならそういうのは全部身体が出来上がってからだって言ってるだろ」

「大丈夫だって分かってても万が一って言うのがあるし怖いから、お願いだから後方で大人しくしてて姫さん!」


 この件に関してはサーニャも全力でエルルと結託してくるので、早々に白旗を上げるしかない。いや別に解析作業が嫌って訳じゃなくてね? 良く動く身体を思いっきり動かすのはすっごく楽しい、って話でさ?

 だが実際の所、私が大人しくしている事でエルルとサーニャがやる気を出してくれるなら、そっちの方がイベント的な効率は上がるんだよな……。という事で、大人しく見つかったイベントアイテムという名の色々な資料やそれっぽい残骸とのにらめっこをしている訳だ。

 ただ今回、流石に運営大神も頭を捻ったのかそれとも何かの理由があるのか、ちょっと難易度が高いんだよな。主に「残骸」の方が。


「分類は資料なのに、表記が資料じゃなくて残骸である事にここまで納得する日が来るとは思いませんでした。人魚族の皆さんの記録方法は丁寧で親切でしたね」

「ははははは。まぁこれも一つの文化と言う事でしょう。種族としても大分得手不得手がはっきりとした特殊な方々のようですから」


 冷人族の人達が主体となって暮らしていた町や村では、明らかに他の場所とは一線を画す量の特殊な記録媒体が発見されている。ただこれ、どこからどう見ても氷の塊にしか見えないのだ。

 普通の氷の塊と違うのは、岩や金槌で叩いたぐらいでは壊れないぐらい丈夫である事と、それに比例するようにずっしりと重い事、そこそこ厚みのある、平たい形をしている事だ。

 最初は冷人族特有の建材かとも思ったが、【鑑定☆☆】してみると「記録媒体」及び「イベントアイテム」の表記があるものだから困った。割れたり砕けたりしているその特殊な記録媒体は、そもそもどうやって使うものかが分からなかったんだから。


「いうなれば、冷気式レコード盤って感じでしょうか。氷の精霊さん達が、扱った事があるのを覚えていてくれて助かりました……」

「そして再生されるものを読み取るのも冷気を用いるとは思いませんでしたね。彼らにとってはとても便利で、かつ機密性も高い安全な方法だというのは分かるのですが」


 そういう事だったらしいんだよね。ちなみにいくら丈夫と言っても氷は氷なので、暖かい所に置いておくと普通に溶ける。かと言って外に放り出しておくと、やっぱり氷は氷なのでお互いにくっ付いて塊になってしまう。正直、とても扱いが面倒だ。

 冷気を自在に操る冷人族ならこの辺何も問題は無いんだろうけどな……。と思いながら、本体を壊さないように媒体同士で張り付いた部分を剥がし、砕けた欠片を持って、立体ピースのようにはめ込んでいく。

 これ、一応正しい位置に戻す事が出来て、本来の形に戻れば、「第一候補」経由で“雪衣の冷山にして白雪”の神ことポリアフ様が綺麗に直してくれるんだけどね。


「直して頂いたり綺麗な状態で見つける事が出来たりしても、その内容を読み取って把握してからでないと捧げられないんですよねこれ……」

「そしてこの媒体の場合、読み取るためには冷気を浴びなければなりませんからね。【環境耐性】が過去のどのスキルよりも早い速度で上がっています」


 で、その中身がホームアルバムみたいな映像だったり、個人的な日記的な文章の塊だったりするから、本当に反応に困るんだよね……。いや、こう、報告書とか記録文書とか、そういう感じのも混ざってるんだけどさ。

 しかもこれを、雪合戦の時に「第四候補」と作った砦の、屋上でやってるんだよ。多分こういう感じの、湿度がほぼゼロで気温ががっつりマイナスに突入してて風通しの良い場所が、一番本来の保管場所に近いだろうって事で。

 【氷精霊魔法】に【環境耐性】と超高ステータス&耐性に、更に腕を上げたアラーネアさんによる改良が施されたもこもこの白い防寒特化の服な私でもいい加減寒いんだぞ。


「それはいいんですけど、カバーさん風邪ひかないで下さいよ?」

「ちぃ姫さんこそ、油断は禁物ですよ」


 ちなみに風邪っていうか病気は普通にある。分類としては状態異常なのだが、対応した魔法は無し、ポーションというか薬を飲む必要があり、スタミナ・魔力・体力の全てにスリップダメージが入り続け、病気の種類によっては行動制限やステータスダウンが追加で入る。

 この時点でもいい加減面倒なのだが、一定時間ごとに残りスタミナ等のチェックが入り、それが一定値を上回っていると回復、下回っていると悪化するという仕様がある。もちろん悪化すれば、その分だけ回復に必要な段階は増える。

 まぁつまり、病気になったらまずはともかく大人しく休めって事だ。休憩状態だと召喚者プレイヤーは全リソースが急速回復するからね。なお、ログアウトして空間がロックされるor不思議な膜につつまれている状態だと、その辺のカウントは一切進まない。悪化はしないが回復もしないって事だな。


「風邪なんてひいたら、それこそエルル達に、この件に関わる事すらダメって言われるじゃないですか。だからここまで対策してるんですし。それに私がかかるとか、どれだけ凶悪な病気ですか」

「はははそれは確かに。少なくともその辺りも含めた耐性や体力は、我々の中ではちぃ姫さんが一番高いでしょうからね。――はっくしっ!」

「カバーさん休憩入りましょうか!」


 こんな感じなので、発見より解析の方が圧倒的に大変なのだ。風邪をひく危険と隣り合わせだからね。

 っていうかこれ割と本気で、どこかに逃れて隠れてる冷人族の人を探し出さないとどうにもならないんじゃないか……?

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