第509話 18枚目:底に巣くうもの

 流石最前線を張るプレイヤー、というべきか、彼らは自分達の足場が崩れ出している、とはっきりした時点でロープを取り出し、それでパーティ仲間同士を繋ぎ、その端をこちらへ預けて来た。判断が早い。

 なのでエルルとサーニャは、途中で降り落とされた人達の救助に回る事に。まぁそっちの方が必要だよね。完全な紐なしバンジー状態になってるんだし。


「あぁなるほど、再形成の仕組みはそういう……」

「回数が増える程厄介になる、という基本もちゃんと押さえておるのう」


 最終的に巨人型ナマモノは胴体の上半分を残してバラバラのパーツになり、下から吹き上がるようにして伸びて来た生物的な何かが、首を半ば千切るようにして上へと持っていった。気持ち差し込んでいた光が塞がれたので、首を核として、ダメージが蓄積されたそれ以外の部分は捨てるか材料になっているのだろう。

 そして残っていた胴体の上半分だが、こちらもこちらで、何かよくたわむものの上に落ちたらしい。いやぁ、ロープをしっかり握っておいて良かったよね。何も対策してなかったらパーティがバラバラになっているところだ。

 ……何の上に落ちたんだ? と、下を覗き込んだら、生物的な何かの……網と言うか、根っこと言うか、本体、切り株? 何かそんな感じの、肉塊の上だったらしい。うへぇ。


「まぁ予想通り、いつまでもこの上に居ると吸収される気配がしますから、急いで移動するとしましょうか」

「それもあってあの弾力じゃったのかも知れんのう。ほれ、少なくとも上に留まる事は無いじゃろう?」

「理は通りますね」


 そしてそんな安全策が講じられてるって事は、やっぱりこっちが正規ルートだったらしい。そして、恐らくヒントはもっと出る予定だったか、それぐらいしか残らない程の試行錯誤を重ねさせられるところだったのだろう。

 ……全く本当に余計な事しかしない。と思いながら、【飛行】を意識してゆっくりと降りていく。うーん全体的に生物的。人間種族召喚者プレイヤーの人達が掴まって降りていっても何の反応も無いから、生物と言うより構造物なんだろうけど。

 出来るだけ真っすぐ降りて行ったが、途中で生物的な構造物(?)の網の目が細かくなって通れなくなっていた。となると、ここからは普通に探索だな。


「あの勢いで弾き飛ばされても、ちゃんと受け身さえとれば怪我無く降りられそうですね」

「そうじゃのう。やはりこちらが正規ルートじゃったか」


 ……何というか、全体的にトランポリンっぽいんだよね。弾力というかしなりというか。見た目も触った感じも、上を歩く感じも完全に生物的なアレなんだけど。性能的には。

 神経が通ってない部分とカウントされているのか、ぽんぽん跳ねて宙返りとかしてみても何も起こらない。私が遊ゲフン足場の様子を確かめているのを見て、慎重に降りてきていた召喚者プレイヤーの人達が飛び降りて来たが、やはり反応は無かった。


「ガイド無しジェットコースターの先はトランポリンか……」

「ちゃんと受け身を取れれば確かに怪我はしないだろうがさー……」

「運営はギャグを挟まないと死ぬ病を患っているに違いない」

「真面目に考えた結果がこれってよりゃマシだな」


 なお、それに対する反応はこんな感じ。まぁ、うん。開幕の頭ゴンッといい、ちょいちょいギャグが挟まるのは何でだろうね?

 ともかく真面目な探索だ。とはいえ、大きさ的にはあの最深部の大部屋より狭かったようで、手分けして探すと、割とすぐに下へ行けそうな場所は見つかった。

 最悪神器で風穴開ける必要があるかなーとか思ってたから、順路があって何よりだ。と言う訳で、全員で集まって早速向かってみる。現時点での経過時間は……5時間ちょっと。意外と時間がかかったな。いやまぁ、あれだけモンスターの群れを薙ぎ払ったり横穴を歩いたりしてれば、それぐらいはかかるか。


「つまり、巨人型のアレを倒すのが大体3時間半ぐらい……あと1回倒せたら順調な方ですか」


 まぁ私がログアウトした後に参戦する人とかもいるだろうし、決着がつかず午後から夜に持ち越す可能性もあるけどさ。

 ……なんて、割と呑気な事を思いながらも、周囲の警戒は怠っていないし、そもそも生物的なものに囲まれているって事で、最低限の気は張っていた。もちろんエルルとサーニャもいるし、「第二候補」もほかの召喚者プレイヤーもいるんだけど。

 それに、しっかりと手に持った神器が、木の枝を先端から根元に辿るような道を下っていくにつれて熱を帯びていたから……臨戦態勢では、あったのだ。


「来ますよね!」

「っち!」

「だろうと思ったよ!」

「まぁ仕掛けん訳がないのう!」

「「「どわー!!??」」」


 ぐにゃり、と、周囲に伸びていた枝のようなものだけでなく、足をつけていた部分すらも含めて、床や壁、天井になっていた生物的な何かが蠢き、絡みつこうとしてきた。

 私は正面から神器で殴り返して【飛行】で少し浮かび上がったし、エルル、サーニャ、「第二候補」は同じく迎撃しきったようだ。問題は一般召喚者プレイヤーの人達だが……と、思ったら、あちらはあちらで対処が出来ている。最前線を張るだけの実力はある、という事だろう。

 なら問題無いか、と周囲に目を向け直す。ついでにしつこく絡みつこうとしてくる生物的な何かを殴り返す。


「さて問題は、これが自動か手動かと言う事ですが」

「手動じゃろうと思いたいところじゃな。流石にキリがないわい」

「そうですね。手動であれば数で押す事で対処能力をパンクさせられますし」

「人間種族の強みを考えるとそうじゃのう」

「俺達の扱い」

「だが何も間違っていないという」

「なぁに10人で敵わないなら百人でかかればいいだけの事」

「最後まで辿り着くのが1割になるなら千人突っ込めばいいのさ」

「むしろうっかりしてちぃ姫達が敵に回った時の方が怖い」

「それは怖いっていうか詰みだろ」


 意外と余裕があるな。まぁ最前線を張れるって事は、今回で言うと巨人型ナマモノのビームを避け続けられてたって事だから、これぐらいはむしろ遅いし対処できる分だけイージーなのかも知れないけど。

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