第508話 18枚目:再度最奥へ

 どうやら向こうでもかなり忙しい議論になっているようで、私と「第二候補」はこの案件……大穴の底に降りる方法専用の議論用鍵スレッドへ招待された。

 もちろん発言して議論に参加する訳じゃない。というか、流れが速すぎて追うのが精いっぱいだよ。これはどっちかというと、話の流れをざっくりでも共有しておくことで、その後の動きをスムーズに行えるようにする為だろう。

 いっやしかし本当に頭がいい人ってやっぱ根本的に何か違うとしか思えないな。なにこれ、書き込む速度も早ければ話の展開も早いから内容を把握し続けるだけで結構大変だよ?


「へえ、人間にも結構やる奴がいるんだね」

「……お前、話が既に追えてないな」

「っんん何の事かなっ!?」

「お前が中身の無いそれっぽいだけの事を言うときは大体そうだろうが」

「なっんのことっかなっ!?」


 なお現在はメニューを開く都合上、横穴をそこそこ戻っている。その上で会話は小声なので、向こうに気付かれてるって事は無い筈だ。隠密行動する時点で、【王権領域】も全員が入って動ける程度の大きさに抑えてるし。

 動揺しまくりのサーニャには後で簡単に意訳した内容を伝えなきゃだから、ざっくりまとめると。今は地上の戦力から地下へ突入する組を選抜しているところだ。耐性とか装備とか、ここまでの消耗具合を考えて。

 で、その選抜メンバーが決まったら本人に連絡、というか打診。断られたら予備メンバーに連絡もとい打診。これを予定人数になるまで繰り返すようだ。


「そしてその突入組が、無事あのデカブツに乗って落ちてこれたら、儂らが途中で相乗りする訳じゃの」

「ダメそうだった場合は、彼らの方がこちらへ逃れてくるので、その手助けですね」


 という感じになるらしい。

 なおそうこうしている間も巨人型ナマモノ(2体目)の体力は順調に削れていっていたらしく、スレッド経由で私達への待機指示と、突入組へのカウントダウンが始まった。よし、移動だ。

 サーニャに改めて、手短かつ簡潔に説明しながら横穴を進んでいく。すぐに大穴の数メートル手前に辿り着き、そこでバフや装備の再確認だ。さっきスレッドを見ている間に出来る限りの手入れはしたし、移動中にバフは掛け直したから、問題ないな?


『お、来よったな』

『ですね。さて、まずは彼らが無事に移動できているかどうかですが』


 そして再び大穴へと視線を戻したところで、上の方から巨人型ナマモノの咆哮が聞こえた。既に1度聞いた事のあるそれは、体力が削り切られた時の断末魔だ。同時に、ケーブル()が大きく揺れて、そのまま垂れ下がるように落ちていく。

 あっという間に加速していく中に、パーツの形に加工されたナマモノが混ざって来た。耳をすませば、大きい物が落ちてくる、風を切る音が近づいて来ていた。

 更に待つこと数秒、そこに、絶叫に近い複数の声が混ざっている事に気付く。巨人型ナマモノが落ちていく音が大きいから聞き取り辛いが、どうやら特に問題無く落下出来ているようだ。


『問題なさそうじゃの』

『それでは、相乗りと行きましょうか』


 エルルとサーニャにも身振りで伝えて、タイミングを計る。結構なスピードで落ちてるみたいだから、追いつく為には「下に跳ぶ」必要があるだろう。まぁどうせ足場は撃破済みの巨人型ナマモノだし、うっかり蹴り抜きさえしなければ問題はない筈だ。

 いよいよ落下してくる音が近づいてくる。【王権領域】の展開サイズを直径3m程度まで更に縮めて、走り出す為に構えるその前を、上から下へ、巨大な影が通り過ぎた。

 ほぼ同時に走り出して、ボロボロとあちこちが欠けている巨人型ナマモノと、その上にしがみついている召喚者プレイヤー達を確認。パーティ単位で固まっているらしい彼らと、ほぼ等距離になる位置に狙いを定めて、横穴の縁を下へと踏み切った。


「っと――これは着地自体より、その後の風圧の方が厄介ですね? 着替えて来ればよかった」

「素が出ておるぞい「第三候補」。まぁ分からんではないがのう」

「あれ、何か聞いてた話より人数少なくないか」

「とびのったぁああ! ちょくごにぃいい! つかまりそこねたみたいでぇえええ!!」

「あとはぁああ! とちゅうでぇえええ! ふりおとされましたぁああああ!!」

「あー、それは仕方ないね。この風だし、この見た目だし。正直今も触りたくないもん」


 なお、現在の私はよく見れば焦げが残っているドレス姿だ。スカートがめっちゃ風にあおられる。まぁ下は見えないんだけどね。

 着地した時に、ドズンッ! と結構重い音をさせてしまったが、蹴り抜いてしまったり足が埋まったりはしなかったので問題は無い。どっちかというと問題は、この巨人型ナマモノの残骸が、着地というか衝突するタイミングが分からない事だが。

 と、思っている間に、落下中の巨人型ナマモノがいよいよ大きくバラけ始める。うーん、最前線で活躍できる召喚者プレイヤーだって言っても、だからこそ余分なスキルである【飛行】は持ってないよなぁ。


「エルル、サーニャ、彼らが降り落とされた、もしくは掴まっている部分が自壊した際の救助をお願いします。私は「第二候補」を支えます」

「了解お嬢」

「空中分解かあ。なんというか、雑な作りしてるなぁ」


 ちなみに風圧に動じていないのは、快適快速エルル急行で飛んでる時の方がキツいからだよ。

 しかし人間種族召喚者プレイヤーでも(一応)問題ない程度の風圧なら、やっぱりこれが正規ルートだったか?

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