第507話 18枚目:舞台袖の向こう
神器の特殊能力を使っても、あの高さのある炎の海は消えなかった。良かった。後で発動した方が優先されるとかじゃなくて。
巨人型ナマモノ(2体目)の方にも動きは無く、しばらく(私の回復を待つのも兼ねて)様子を見てみたが、何かが飛び出してくるとか、他の場所に変化が出るとか言う事も無かったので、4人で突入だ。
……入ってみて分かったけど、やっぱり円柱型に開いたこの穴の周りは、その熱で焼き熔かされて黒曜石に変わっていた。しかも結構分厚いし、黒曜石か? と首を傾げてしまう程強度がある。
「周囲からの奇襲を警戒しないで良いので、大変助かります」
「クカカ、しかも表面がただつるりとしておる訳ではなく、細かな波のようになっておるからほぼ滑らぬしのう」
そんな感じで大変道行きは良好だった。警戒しながらだったので駆け足とはいかなかったが、それなりの時間で辿り着けたんじゃないだろうか。やっぱり直線だと速いな。
で、円柱型の横穴を進んだ先に何があるかっていうと、それはもちろん、巨人型ナマモノ(2体目)が姿を現した大穴だ。深度的には、カバーさんからのメールだと、大体あの、最深部の大部屋のちょっと上、ぐらいの筈だが。
全員高レベル【暗視】を持っているので、灯りは最初、周囲を確認した時にしかつけていない。それでも、横穴の先にぽっかりと大きな空間が開いているのはよく分かった。
『とりあえず様子見ですね?』
『そうじゃの。道中の奇襲が出来ぬ分も、ここで仕掛けてくる可能性が高いじゃろう』
ウィスパーを使って「第二候補」と確認を取り、エルルとサーニャに視線を向けて同族補正で同じく確認を取る。いやぁ便利だね。ウィスパーも同族補正も。
そこからじりじり、臨戦態勢で横穴の終わりに近づいていく。距離が詰まるにつれて、出口のように広がる大きな空間の向こうも見えるようになってきて……そして、全員ステータスは高いんだから、たぶん見えた筈だ。
残りの距離はざっと2・30mってとこだろうか。正直、詰めるだけならすぐに詰められるし、なんならここからほぼ真下に向けて神器の特殊能力を撃てば、ほぼ間違いなく元凶に当たると思う。けど。
『……分かってましたが趣味が悪い、というか、理解したくない相手ですね……』
『交通事故の被害者の手術を思い出したぞい』
『具体的な言い方しないで貰えます?』
『山で獲った獣を解体する時の方が良かったかのう?』
『もういいです』
たぶん……大穴の上に身を乗り出している、巨人型ナマモノ(2体目)に、繋がっているのだろう。その大穴には、ぶらぶらと、無数のケーブルのような物が垂れ下がっていた。ケーブル、と言ったが、その質感や第一印象は「第二候補」の言葉を参照だ。
何でこう、いちいちその全てを生物的にする必要が……? とげんなりしながら、更に速度を落として距離を詰める。いや、真面目に考えたら、あの「誘拐」の時に「第四候補」が大活躍だった理由そのものなんだろうけどさ。
つまり、無機物、あるいは、非生物……すなわち神経の存在しない相手は、操れないから。非実体も同様に。だから生物的になる。……もしくは、せざるを得ない。のだろう。
『うーむ。やはり上から下まで繋がっておるようじゃの』
『下もですか? 穴が更に深くなっていると?』
『空間が歪んでおるとか、そもそもの計算が間違っておるとかでなければ、かなり深さは増しておるぞ』
どうやら奇襲は無かったようで、エルルとサーニャからも横穴の終わり、大穴の縁に近付くことが許された。なので、十分な安全は確保しつつ、ケーブル()をまずは上に辿り、次いで下に辿ってみた。
上はまぁ予想通りだ。繋がっているのが足裏とかじゃなくて、たぶん腰の後ろだろうなっていうのが分かったぐらいだろう。今も大暴れしているし、ぶら下がった足で壁となっている部分を蹴っている。地震の正体はやっぱり蹴りだったか。
で、下はというと……うん。私の視力でも見えない。延々とケーブル()が伸びているだけだ。
『控えめにいってマズいですね?』
『どう考えてもマズいじゃろうな。この繋がっている先が現れる時に一気に減ったから、青いのが穴の深さというのは考えんで良いとは思うがのう』
『とは言え、のんびりとロープを垂らして降りれる距離でもないでしょうし……。「第二候補」、【飛行】は習得していますか?』
『飛んで移動するなら、すまんが運んで貰おうかの』
なお、ケーブル()を伝っていくっていうのは無しで。寄生や洗脳をメイン能力とする奴の使ってる物を利用するって時点でアウトだし、それ以前の問題として触りたくない。絶対生暖かくて嫌な感じに柔らかい奴じゃんあれ! 流石に私でも嫌だ!!
ちょっとシンキングタイム。お題は、どうやったら穏便に大穴の底まで降りられるか、だ。それも、出来るだけ汎用性が高いものだとなおいい。個としての戦闘力は今ここにいる4人が最強でも、やっぱりどうしたって数は力だからね。
そもそもの前提として、この大穴は空間に開けられた穴だ。これが今いる亜空間を突き破ると、通常空間に元凶が解き放たれてしまう。穴を塞ぐには、一旦底まで降りて、底から埋め立てていくしかない。埋め立てるのは神様が担当。今回の場合、
『……あの、底だと思っていた大部屋が、全く底では無かった可能性が出てきましたね』
『……なるほどの。否定は出来んか。あの部屋の下に、今地上に出ている奴が居ったとすれば、あの強い振動で地上に放り出されたのも説明できるからの。上手い事踊らされてしまったのう』
流石の察しの良さで「第二候補」が納得してくれた。そういう事だな。で、その下にあの巨人型ナマモノが居たとして……流石にあの青いバーの減り方からして、2体目は急速生成か流石に再生、或いは修復したからだとする。
だからあの巨人型ナマモノ1体分の、最大を考えると立った状態で格納されていた、その更に下、とすると……なるほど、これぐらいの深さには、なるな?
と、なると。ここから取れる手段は……1つ。この大穴を崩してなだらかにしてしまう。2つ。ここから神器の特殊能力を叩き込んで元凶の顔も見ずに焼き尽くしてしまう。3つ。ここからちまちま降りるルートを開拓、というか階段を今から作る。4つ。
『上にいるあれを倒して落として、そこに乗るというかしがみついて降りてみますか? 再形成もしくは修理の仕方によっては自衛の難易度が大変な事になりますが』
『うーむ。しかし上で頑張っておる一団でも無事にこの深さの穴を降りられる方法となると、それぐらいかのう。何より、そういう無茶ぶりが最も「正攻法っぽい」気配があるわい』
って事だな。
とりあえずカバーさんに、大穴の内部の様子を撮ったスクリーンショットと一緒に報告と相談だ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます