第510話 18枚目:とても深い

 私達が抵抗らしい動きを迎撃しながら辿っていたのは、その必要があるとは思えない人間種族用通路ではなく、生物的な何かによる巨人型ナマモノのパーツ運搬路だったらしい。正面から幅いっぱいの生物的な何かがぞわぞわっと団体でやってきた時はどうしようかと思ったよね。神器で殴り飛ばしたけど。

 根元に近付いても幅が太くなるとかいう事も無く、地上に戻ろうとすると絶対に迷子になる、と、突入組全員の意見が揃うほど複雑な構造の先にあったのは、周囲に無数の棘、或いは枝葉を伸ばした、生物的なドームないし球体の上半分だった。

 多分サイズ的に、あの巨人型ナマモノの胸の真ん中に収まるぐらいじゃないかな? つまりそこそこ大きい。厚みにもよるだろうが、中身が空ならあの、外に放り出された最深部の部屋ぐらいはあるだろう。


「で、ぱっと見て内部への突入路はない訳ですが、外から丸ごと燃やしても良いと思う人?」

「大雑把な反撃をされると全滅するかもしれんぞい」

「足場が無くなるだけでほぼ壊滅するだろうしな」

「姫さん、何でそういうとこいきなり雑になるの? ボクらも言えないけど」

「「「以下同文でおやめください」」」


 丸ごと燃やすのを却下されてしまったので、もうちょっと念入りに調べる事にする。少なくとも生物的な何かが湧いて出てくるのはこの中だろうし、だとすれば出口がある筈だ。……まさか、ここまで来て木になる実のように生えてくるって事は無いだろう。

 神器が発する熱は、袋から出してよく揉んだ使い捨てカイロぐらいだ。つまり、結構熱い。たぶん、待ちかねているのだろう。でもここで味方諸共全滅させる訳にもいかないし、それで確実に倒せるかって言われると断言は出来ないから、もうちょっと待って欲しい。

 下手に素振りでもすれば、火球の1つぐらいは飛んでいきそうな神器をしっかり固定しつつ、しばらくドームの様子を見る。うーん、ドームもしくは球体の下へは、また目の細かい生物的な網に遮られて通れなくなってるんだよなぁ。


「ふむ。……存外穴を開けるぐらいは力づくでやった方が良い気がしてきたのう?」

「……俺達の方はどうとでも出来るが」

「お願いしますおやめください」

「流石に退避ぐらいは許してください」

「どっちかっていうと絶対防御態勢……?」

「むしろ上から枝を刈り飛ばしていくとかじゃねーの」

「あぁ、なるほど。それは有り得ますね。最低でも、良く跳ねる一番上の1枚とここに来る通路を1本分だけ残しておけば、後続も問題なく来れるでしょうし」


 なるほど、ナイス発想の転換。と思ったのだが、何故かそれを言った召喚者プレイヤーは周りからボコボコと殴られていた。何故だ。今のどこに加減してとは言え袋叩きにされる理由があったんだ。

 まぁとりあえずやってみよう、という事で、各パーティに分かれて行動だ。幸いというか何というか、大本であるこのドームからは無数の枝葉が伸びている。適当に移動して、先端を見つけたら攻撃すればいい。

 根元からへし折らないのは、それはもちろんルートを減らさない為だ。迷う道は少ない方が良いけど、辿り着く道はいくらあっても困らないから。


「下手に根元から落とすと、先の無事だった部分が何かに変わるだろうなっていうのもありますけど」

「それは大いに有り得るじゃろうの。あのデカブツになるのか、こちらに襲い掛かって来るのかは分からんが」


 破壊活動再びだ。どうやらこの生物的な構造物も神器に掛かれば問題なく燃やせるようで、かなりさくさくと壊す事が出来ていた。単独で殴るより、根元から切り離してから殴った方がよく燃える気がするな。

 ……というか今はさらっとスルーしたけど、神器でアビリティを使ったら炎がくっついてくるんだけど。あれ? 塔を壊してる時は普通に打撃だけだったよな? 本丸に近いからか、それともまた攻撃力が一定値を超えた事によるギミックか?

 なので、「第二候補」が斬り飛ばした構造物と、エルルとサーニャが相手をしている周りから襲い掛かってくる分を纏めて殴ると、一瞬だけ真っ赤な炎に包まれて、そのまま燃え尽きるように消えてしまう、という風になっている。


「のう、「第三候補」」

「何でしょう、「第二候補」」

「その戦槌、そんなにバカスカ炎を出しておったか?」

「いえ、少なくとも塔を壊している間は普通に打撃と衝撃波だったと思います。まぁそもそも、特定の炎の性質というか、権能の一部と言うか、そういう概念的な存在に形を与えた物ですからね」

「そうじゃったな。今の「第三候補」に合わせたリミッターもついておるじゃろうし、この短期間でも動きは良くなっておるからの」


 ……本当に、戦闘に関してはよく見てるよな……。確かに武器スキルはうなぎのぼりだし、プレイヤースキルとしても割と振れるようになってきたなっていう手応えはあるけど。

 とか思いながら、ゴッッ、と、斬り落とされた生物的な構造物が下へ落ちてしまう前に、殴って燃やす。まだ【王権領域】の展開範囲はコンパクトにしたままなので、今頃他の人達は大丈夫だろうか。一緒に移動していた時はかかっていたバフとデバフが、同時に剥がれてるからな。

 ま、それこそ私が心配する事じゃないか。と自己解決しながら、こちらに向かってくる途中で、エルルとサーニャに根元を切り飛ばされた生物的な構造物(?)を殴り壊す。そして、ふと気づいた。


「……まさかですが、ドロップアイテムに通行証とか必要な物があるとか言わないでしょうね。神器で殴ると全部攻撃力になって消えるんですけど」

「うーむ……。……一応確認しておくかの」


 無くは無い、と思ったらしい「第二候補」が少し離れ、生物的な構造物を、文字通り切り刻んだ。サイコロカットになってるんだけど、あれもしかしてアビリティをプレイヤースキルで操作した感じか?

 ベルトに下げていた杖で短く詠唱し、インベントリから取り出した袋にその肉っぽいものを詰めて回収し、改めてメニューを開いている。

 で、ふむ、と頷いてメニューを閉じて、こちらを振り返り。


「大丈夫なようじゃの。それっぽいものは入っておら――」

「「第二候補」っ!?」


 ガバッ、と、いきなりその足元が落とし穴のように開いて、止める間もなく落ちていった。えぇぇ何今の!?

 すぐに駆け寄り、閉じようとした生物的な構造物を殴り壊してその下へ飛び込む。うん。「のわー!?」って聞こえるから無事ではあるな!

 で、私が飛び込んだという事は、エルルとサーニャも当然来てくれてるって事でさ。


「……もしかして、これが正しい移動法ってやつなんじゃないのか? ここまで、あれだけ落ちて跳ねてってしたんだし」


 なんて、エルルの呟きが聞こえて、ね。

 ……十分あり得るだろうし、その場合【王権領域】を切ってないのが悪いって話になるかな。敵の本拠地なんだし、ちょっとは油断させるべきだったのかもしれない。

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