第499話 18枚目:決戦緒戦

 流石にこれ以上の形態変化は無い筈だ、と思いたいのでそれを前提とすると、穴の縁に手をかけている巨人型ナマモノに対してまずやるべきは、その行動パターンの把握だ。

 で、その為に邪魔なのが、やっぱり向こう側に乱立した無数の塔から、上の方の窓からも溢れ出るようにして群れを成す、取り巻きな雑魚の集団となる。

 まぁだから特級戦力、それも火力に偏って特化している私達と「第二候補」が両端に配置されたんだろうけど。いくら最初に比べれば狭くなったとはいえ、結構な幅があるぞ。


「まぁ1体残らず殲滅しますけど。――[ショックウェーブ]!」


 ゴッッ!! と、出来るだけ浅く広く、水面に広がっていく波紋のように広範囲を飲み込むイメージを強く込めながら神器を振るう。イメージのお陰かそういう仕様か、地面が砕ける事が無かった代わりに、こちらへと迫っていたモンスター達が纏めて吹き飛んだ。

 エルルとサーニャは少し角度を取って前に出て、モンスターの群れの進路を限定すると同時に数を減らしてくれている。私の方に来るなら良し、他に向かうなら倒す、って具合に。

 普段なら、それこそ周りに押し付けてでも私を守るのが仕事……と、ごねられたのだが、流石に神器を貸し出された上で直接倒す為の行動にゴーサインが出ていると、止めきれないようだ。神様って強いなぁ。


「……行動パターンとしては、一定時間ごとに吹き飛び判定のある咆哮、片手ずつでの薙ぎ払い、地震による行動阻害……大穴の中を足で蹴ってるとかでしょうか。それに加えて、主にドレインや精神系の行動制限の効果が付いたビームを撃って来る、と」


 ビームをどこから撃ってるんだって? 地上に出ている部分のナマモノな装甲がガバッと開いて、そこからだよ。まだ顔にある目からは何も出してこないので、たぶんもうちょっと体力が削れたら撃って来るか、チャージに時間がかかるのだろう。

 この中で一番面倒なのがビームだ。当たると最悪、一発で戦線離脱にまで追い込まれる。その分前兆は分かりやすいのだが、直前に地震や咆哮があったりすると回避するのは難しいようだ。

 逆にボーナスタイムなのが、片手ずつでの薙ぎ払い。何故って、一度発動すると止める訳にはいかないのか他の理由があるのか、召喚者プレイヤーが早々に退避していても、山ほどの壁系・罠系魔法が設置されていても、きっちり最後まで薙ぎ払うからだ。


「自分から決まった軌道で「当たりに来てくれる」とか、ボーナスタイム以外の何物でもないですね。しかも一定以上のダメージが入ると、しばらく動きを止めるようですし」


 ようするに、殴り放題って訳だ。まぁそのぐらいのボーナスタイムは必要か。手だけ耐久値が別になってるとかそういうんじゃなくて、巨人型ナマモノ全体で体力は計算されているようだし。

 その体力の削れ方も、今のところは順調だ。人数比がおかしいだけで、基本的な対処の仕方……雑魚対策とメイン叩きを分担する……としては間違っていないらしい。

 なお、まだどういう影響が出るか分からないという理由で、乱立した塔そのものへの攻撃はストップがかかっている。まぁ下手に雑魚が増えたら手が足りなくなるからね。


「順調に削れている間はこのまま、という事でしょう。タゲ取りも正面の組が上手くやってくれているみたいですし。――[ショックウェーブ]!」


 そういう事なので、エルルとサーニャがいるし、神器があるしで、今のところ私の魔法火力は温存だ。ま、現状で大規模破壊をするんだったら、神器の特殊能力使った方が良いだろうし。

 となると問題は残りログイン時間だが、それは前回のレイド戦と同じく、途中で休憩を挟みつつって事になるだろう。交代できる人がいるって助かるね。最高火力はともかく、最低必要火力は満たす人が増えているのは歓迎するべき事だ。


「……まぁ、最高火力の座は意地でも譲ってやりませんが」


 出来れば少しずつでも火力を上げて、各種火力の底上げ込みの神器の特殊能力で、あの後ろに並んだ塔を一掃とか出来るようにしておきたいんだよね。万が一って言うのは、万に一つはありうるって事なんだし。

 それでなくても、万が一を狙って引き起こして陰で嗤う奴が、今も続いているかなり全力の捜索でもまだ見つかっていないんだから。……まぁ何処に居るんだって言われたら、分からないんだけどさ。

 なお、捜索隊の方は有志を募った上で「レイドボス戦よりこちらに参加したい」と明言した召喚者プレイヤーの中から、実力による選抜戦を勝ち抜いた強者で構成されているらしい。……それであの人数だって? まぁあいつらの稼いだヘイトを考えたら妥当かなって……。


「実力で行ったら第一陣が勝ちますよねっていうか、廃人組が結構な人数あちらに回ったようですからね……」


 彼ら曰く、「レイドボスはまた戦えるのが確定してるし特級戦力がいるからどうにでもなる。だがあいつらは個人的に絶対許さん」との事。うーん当てにされている。まぁいいんだけど。

 さて、この調子で削っていくと、巨人型ナマモノの体力が半分を割るまでに、一旦ログアウトしなきゃいけないが……どうしたもんかね? カバーさんには連絡を入れているし、司令部はその辺考えて時間の調整をしてるだろうけど。

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