第498話 18枚目:揃う役者

 塔がびっしりと乱立して中心壁内部の空間が半分埋まる。まさかこれで終わりじゃ無いだろうな、と思いながら周囲にも目を向けると、私が開けた円柱型の大穴も、中央の1つを除いて埋まっている事に気が付いた。

 そしてどうやら、中心壁内部の広さ自体もだいぶ小さくなっているようだ。通りで中央との距離が短いと思った。ははは、全力で削ったかいがあったな。

 となると、あの中央の大穴も何か変化がありそうなものだが……なんて思いながら見ていると。


「うっわ力業」

「どうする姫さん、殴り返す?」

「いや、多分あの中にこちらのメイン火力が居るんで、寄生関係に気を付けつつ確保をお願いします」

「了解お嬢」


 ぽーんっ、と、大きな黒い箱みたいなものが、大穴から放り出されてこっちに飛んできた。くるくると回りながら放物線を描くそれは、たぶんだが、あの最深部の大部屋だろう。

 どうやら一瞬見える限りあの生物的な何かは無いようで、巨人型ナマモノが居たらしい場所が切り落とされた感じで、箱の一面が口を開けているようだ。

 私の声に【人化】を解いたエルルとサーニャが箱の確保に向かってくれる。……うん、問題なく、普通に両端を掴めたようだ。そのまま、少し離れた所に着地。そしてあれだけ振り回されていても、中に居た召喚者プレイヤーはどうにか無事だったようだ。


「クカカ、咄嗟に敵味方関係なく効果の出る広域バインドを使ってのう。下手に重力操作系でなくて良かったわい」

「よくそんなピンポイントな魔法がありましたね。普段だと戦犯扱いされてもやむなしですよ」

「ほれ。あれじゃ。1人で使う分には一切困らんからの?」


 で、その……まぁ、功労者か。功労者である「第二候補」はそんな感じで元気だった。話を聞く限り本人だけは効果が無いようだが、どうやらバインドが掛かった他の召喚者プレイヤーに掴まっていたらしい。


「ふむ。随分と様変わりしたようじゃな?」

「そうですね。とりあえず、何かの必要値を満たしたか、達成値に届いたのでしょう。心当たりが多すぎてどれの事かは分かりませんけど」

「まぁあちこちに手を分けて活動しておったからのー」


 そんな事を言いながら大穴の様子を窺っていると、先程吹っ飛んできた元大部屋に変化があった。勝手にぱたぱたと十字型の平面に変わると、その中央から大きな扉が生えて来たのだ。

 何事? と意識をそちらに向けた目の前で、扉が開く。相手の増援か、と思ったら、そこから出てきたのはどこかで見た事がある感じの召喚者プレイヤーだった。……あぁそうだ、確か「裏口」の深部探索を担当してた筈の。

 今日も「第一候補」のそばに控えていたパストダウンさんが聞いてくれたところによると、どうやら「裏口」でモンスターのポップが無くなって、まだ階層を降り切っていない筈なのに大扉の部屋に辿り着いた、との事だ。


「もしかしなくてもリソースの枯渇ですね? あの空間的な「穴」とその防衛に残ったリソースをかき集めた感じですか」

「まぁどう考えてもそうじゃろうのう。ようやくと言うべきか、もうと言うべきか」

「一応ようやくにしておきましょう。少なくとも、この神器が貸し出される程度には残り時間が危なかったんですから」

「普通は地形を破壊するなぞ思いつかんもんじゃしな」


 ちくちくと嫌味が互いに入るのはまぁ仕方ない。手加減はまだ練習中なんだよ。ティフォン様からのゴーサインがあったとは言え、躊躇いなく地形を壊しにかかって悪かったな。

 その後もぞくぞくと召喚者プレイヤーが扉から出てくるが、皆言う事は大体同じだった。つまりモンスターの出現が止んで、次に進んだら大扉の部屋に到着したって事だ。

 ……っていうか、まだ中心壁の方で何の動きも無いから、むしろこれは召喚者側の増援ルートなんじゃないか? 撤退は……空間の異常がある程度解消したから、個人で建てた神殿経由で転移、っていうのが出来そうだな。


「ん、指示が来ましたよ「第二候補」。私は向かって右端、あなたは向かって左端に位置して陣形を組むそうです」

「ふむ、互いの大火力による巻き込みを防いで有効活用するなら妥当じゃの」


 どうやら外の何処かに移動していたらしい司令部の決定が、そこに参加しているらしいカバーさん経由で回って来たので「第二候補」に伝える。周りを見ると、他の召喚者プレイヤーもパーティリーダー的な人はメールを見ている感じなので、同じく指示が届いているのだろう。

 エルルとサーニャと一緒に移動だ。一瞬ちらっと、「第一候補」に何かあった時に即応できる距離にいなくていいのか? とも思ったが、その辺は何か考えがあるのだろう。

 私を見慣れていないらしく、幼女と大戦槌という組み合わせにぎょっとする視線を無視して移動する。……そして移動中から聞こえていた地響きのような音が、大体の位置に付いた時点で、明確な音となって聞こえて来た。


「まぁあの塔の群れからモンスターの大軍が吐き出されるのはほぼ確定として、それを取り巻きとするメインが何かって話ですが……」

「ほぼ確定かぁ……まぁ確かに他にはないだろうけど、何であんな気持ち悪い見た目してるんだろうね?」

「大元がそういう性質のやつだからだろ」

「そうなんだけどさぁ。やる気が削がれるよ。削がれない?」

「削がれますけど、だからと言って戦わずに逃げるという選択肢はありませんから」

「いいからさっさと覚悟決めろ」

「だから何で2人はそうもあっさり覚悟決められるの!?」


 だって大体覚悟してたからね。エルルの方は……どっちかって言うと諦めかも知れないけど。

 そんな会話をしている間に、いよいよ近づいてきた音と共に、大穴に似合いの大きさになった手が、その縁を掴んだ。数秒置いて、反対側の手が出て来て、同じく大穴の縁を掴む。

 その指先が土か何かに汚れている事、続いて、ぬう、と、まさしく巨人と言うサイズになった巨人型ナマモノが姿を現したことから考えて、恐らく「必要だから壊れない」ようになっていた部分も無くなったのだろう。そのまま巨人型ナマモノは、ゴゴゴゴゴ、と効果音が聞こえる感じで体を引き上げていき、


ゴヅンッッ!!


 ……見えない天井にぶつかったように、バランスを崩して大穴の中に落ちた。

 う、ん。たぶん、あの、中心壁より上には行けない、っていう、制限だと、思うんだ。まぁ、この内部の、内部に対する、ある種の「檻」の役割というなら、何も間違ってない。実に正しい事、なんだ、けど。

 まぁ、なんだ。何というか、こう、勢いよくいったなぁっていうか、ぶっちゃけ痛そうだなぁっていうか、あれだけ塔を乱立しておいて把握してなかったの? っていうか、目測を誤ったのか……っていうか。


「ぶっははははははは!! 頭! 頭ぶつけた!! バッカでー!!!」

「っく、「第四候補」、いつの間に合流して……」

「さっき、だぞ。あの、応援に来てた召喚者と、一緒に動いてた、からな……」

「あ、ダメだ無理、無理、声出る、あんな思いっきり笑われたら声でちゃうって。真剣なとこだから頑張ろうと思ったけど無理だってこれ……!」


 とっさに神器から左手を離して口を覆ったが、エルルもちょっと声が震えてるし、サーニャは言葉に出している最後がもう抑えていても笑い声になっていた。なぁに今のギャグ。ちょっと、最終決戦だってしっかり込めていた気合がごっそり抜けかねないんだけど!?

 ちら、と他の召喚者プレイヤーを見てみると、そちらもそれぞれ口を押えたり顔を背けたりして何とか耐えているようだ。もっとも大半は抑えきれず、笑い声が零れているけど。

 そしてそこに、再び巨人型ナマモノの手が現れる。今度は高さを加減したらしく、大体胸像ぐらいの範囲が地上に出てきたようだ。残りは大穴の中だろう。


――――ガァァアアアアァアアアァアアアアアアアアアアアアアアアッッ!!!


「いまっさら格好つけても、遅いんですよねぇ……っ!」

「言うなお嬢、厄介な相手には違いないんだから切り替えろ」

「ごめんエルルリージェ、ちょっと時間貰っていいかい……っ!?」

「無茶言うなアレクサーニャ、大物相手だぞ」


 ガバ、とサイズに似合いの口を開いて咆哮するんだけど、さっきのが頭から離れないんだよね。

 こっちの前のめり姿勢と漲ったやる気を削ぐための作戦としたら、大成功だな!?

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