第497話 18枚目:切り替わる舞台

 中心壁内部の空間に、大神の力が満ちていく。掲示板はざっくりとした情報交換が終わり、恐らく元『本の虫』の人達だろう、ここからの行動へと全体の意見が誘導されていった。

 ざっくりと言えば、第三陣は「大神の悪夢」への挑戦は続けつつ、交代制で中心壁内部へ続くダンジョン風の裏口へ突入。もちろん深入りはせず、自分に出来る範囲でモンスターの群れを相手にする。

 第二陣は第三陣の教官兼引率役を交代でやりながら裏口の深部まで挑戦を進め、可能なら裏口から中心壁内部へ合流。「第二候補」と合流して元凶との直接戦闘を行う。


「そして第一陣は……あー……まぁ、戦犯である事が確定しましたからねぇ……」


 そして第一陣は、“破滅の神々”の領域をローラーして『バッドエンド』の構成員をしらみつぶしに探し出しつつ、その領域自体にダメージを加えていく事になったらしい。どうやら、領域と言うか地形にもダメージを入れる事が出来て、それが一定値を越えると領域の範囲が減るって事が分かったらしい。

 それなら私ももっと暴れておくんだった、と思ったが、特級戦力には特級戦力のお仕事が割り振られている。流石にこちらは掲示板ではなく、元『本の虫』組連絡網で相談したらしい結果をカバーさん達がメールで送って来る、という形だったけど。

 さっきちょっと言ったように「第二候補」はこのまま対元凶のメイン火力、「第一候補」もこのまま「異なる理」の力が弱まるのに合わせて大神の力を流し込み、「第四候補」は裏口の深部組の補助、「第五候補」は裏口の浅部組の補助に回る。そして私は、というと。


「可能な限りの「地形自体の破壊」。領域を持つ神の許可と手助けがあって初めて出来る大規模破壊を、中心壁内部で思い切り、と」


 メールを読み、ぶおん、と両手で神器を一回転させる。まぁ妥当だろう。私こと竜族の得意分野は、魔法適性の時点で分かっていた事だ。そもそもティフォン様の神器もとい権能だって、出て来た祝詞の内容を考えればそちらに振り切っている。

 もちろんさっきの炎の柱を確認していたらしいカバーさんは、中心壁内部のざっくりした地図に、撃ち込むポイントと角度とその順番をメモ付けしてメールに添付してくれていた。これは助かるなぁ。(笑顔)

 たん、と空気の足場を蹴って、最初のポイントへと移動だ。塔の数も少なくなっているから、エルルとサーニャも頑張っている。私も働かないと。


「塔を再生すればエルルとサーニャが即座に壊しにかかりますし、地形は再生した端から私が焼き尽くします。そのいずれの再生もしないのであれば、それはそれ。穴の底で遊んでいる間に、それ以外を全部削り切ってやるだけの話です」


 メールにくっついて来ていた地図を見て、ポイントに辿り着いたことを確認。指定された角度になるように高さを調節して、呼吸を整えつつ神器を構えると、またしても勝手にカンペ的なウィンドウが表示された。

 どうやら神器もノリノリなようだ。つまり実質ティフォン様が力強く親指を立ててゴーサインを出してるって事だな。これは全力でやらないとねぇ?




 ログイン可能時間が正常に表示されるようになった時点で残りの時間は半分を切っていて、今現在が残り4時間弱だ。順調に相手のリソースは削れている筈だが、今日中に仕留め切れるかと言われると、たぶん、大分厳しいな。

 ぼこぼこと角度の付いた円柱型の穴があちこちに口を開けている中心壁の内部で、空気の足場に乗って神器を持ち直しつつ大きく息を吐く。回復速度も上がっている筈なのだが、流石にちょっと連射はしんどいな。

 とはいえ、死なない程度の見極めをしながら頑張ったかいはあり、カバーさんから送られた地図に書かれていたポイントはあと3つを残すのみとなっている。


「ま、言ってしまえば良い鍛錬です。この機会を下さったティフォン様に、重ねて感謝ですね」


 しかし良く地盤沈下、というか、地盤崩壊を起こさないな。あれか? 高温過ぎて、円柱型の穴が天然ガラス黒曜石で覆われて、補強されてるみたいになってるのか?

 なら一度、相当に火力の上がった神器で上からぶん殴ってみないとだめかなぁ……とか思いつつ、次のポイントへと移動する。もちろん自然回復系のスキルは全部メインに入れているし、今もレベルアップは止まっていない。

 だから最高速度よりはゆっくりめに移動して、到着してから高さで角度を調節している間に息を整え、それでどうにか必要分が回復している感じだ。……火力に応じて必要リソースが増えている、とかでは無いと思いたい。十分あり得るだろうけど。


「さて、と――」


 息を整えて、その最後に深呼吸をして、神器を構える。神器の方も慣れて来たのか、大体そのタイミングでカンペなウィンドウが表示されてきた。回復は、まぁ、全快ではないけど、特殊能力を使う分には足りるだろう。

 なのだが。何故かカンペなウィンドウが現れない。あれ? と思いながら首を傾げると、神器が帯びている赤い光が、気持ち微妙に色合いが異なっている……気がする。

 んん? と、周囲を見回してみるが、何の変化がある訳でもない。現在位置は大体「第一候補」と中心壁内部の中心を挟んで反対側、高さは中心壁の半分ぐらいだ。角度の指示は、ここから右側斜め下に撃ち込む、というものだったのだが。


「エルルとサーニャは……残りの塔が10も無いですから、もう少しで壊れる塔は全部壊せますかね」


 向こうの方で【人化】を解いて、そっちはそっちで十分に大規模な破壊・殲滅戦をしている2人を確認する。私から見てエルルが右側手前、サーニャが左側奥といった感じだな。まぁどっちも中心である縦穴より向こうに居るんだけど。

 うん。大規模破壊は順調だな? 流石に私より先に神器が疲れるって事は無いだろうし、となると何か異常があるか、変化があるか、より壊すべきものが現れたか、ぐらいだと思うんだけど。

 はて? と内心首を傾げつつ、それでも周囲を警戒している、と。


 ――ボボボゴゴゴゴゴォンンッ!!!

「っ!?」


 土を掘り返すような音が、爆弾でも使ったかのような大音量で、「私の足元から」無数に連続した。

 ある程度高さは取っていたから、若干斜め右上に角度をつけて即座に前へと逃げる。空気の足場を蹴っての全速力は、後ろを振り返っている余裕が無い。その間も、私を追い立てるように無数の鈍い音は続いていた。

 何だ、何が起きた!? いや何となく分かる、分かるが何がトリガーだ、思い当たる節が多すぎてどれが決定打か分からないぞ!? っつか早いな、確かに中央に近い程早くなるのは道理だろうけどヤバい追い付かれる……っ!?


『お嬢、跳ねろ・・・!!』


 響いた声に、空気の足場を前ではなく、上へと蹴る。中心壁の高さスレスレまで一気に高さを上げた私は、神器の重みもあって、くるりと宙返りする形になった。

 その一瞬に見えたのは、雨後の筍か露地のミントかという勢いで、互いをすら押し退け合うようにして「地面から生えて乱立する」無数の塔だ。しかも全部先端が尖っている。形だけ見たら規模のでかい針山だな?

 ま、次の一瞬には、私が逃げていた高さか、そのちょっと下辺りを……光を吸い込むような漆黒のビームが薙ぎ払って、追いつかれかけていた分は一掃されたんだけど。


「エルル、助かりました。ありがとうございます」

『だから護衛に護衛させろって言ってるだろうが。っとにこの降って湧いた系お嬢は』


 その一瞬を使って、だん! と斜め下に空気の足場を蹴る。そしてそこに追いついて来ていたエルルの背中に、鎧の上から着地してしがみついた。さっきまでの私の比では無い速度で前に進み、生え続ける塔の群れからどうにか逃げ切る。

 どうやら中心となる位置を越えては生えてこないらしく、「第一候補」が居る側から見ると、新しく壁が増えたようにも見える。……っていうか、「第一候補」が居るからこっち半分には生えなかったのか? あり得るな。


『あぁもうびっくりした! 姫さん大丈夫!?』

「えぇ何とか。エルルに助けられました」


 すぐにサーニャも合流してくれた。とはいえ、ここまで大きな変化が起こった以上は何か動きがあるだろう、と、一旦3人揃って地上に降りて、「第一候補」の近くに合流する。もちろん【王権領域】はOFFにして【人化】して。

 さーて、ようやく痺れを切らして重い腰を上げたか、それとも動かざるを得ない程度に追い詰められたか。ようやく地上で、思う存分殴れるようになる感じかな。

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