第500話 18枚目:力を溜める
案の定、というべきか、流石に残り数時間で削り切れるわけもなく、レイド戦は日曜日――イベント最終日へともつれこんだ。
以前と同じく今度も広域チャットが使えるようになってはいたが、参加者の人数が人数なので、聞き分けの難易度がとんでもない事になっていた。それに召喚者全体に伝わる都合上、情報機密的な意味でもあまり利用は推奨されないのも確かだし。
という訳なので、広域チャットを使うのは基本的に司令部のみ、細かい指示は司令部に参加しているメンバー経由で、クラン専用の広域チャットもしくはメールやウィスパーを使って伝えられる、という形になった。
「まぁそうもなるか」
という事なので、カバーさんから指定されたログイン開始時間は朝7時。……早いな? と思ったんだけど、どうやら同時接続のピークが昼に来るらしい。だから、そこに決着を持って来るつもりなのだろう。
なら当然、特級火力である私もそこにタイミングを合わせた方が良く、しかしそれまでにやるべき事はやっておかないと決着が付けられない、という事で、この時間になったようだ。
とは言え私にも日常と言うものがある。流石にちょっと遅れると思います、と返事をして、それに了解の返信が来た事は確認しておいた。うん、ちょっと無理だな。だって朝ご飯真っ最中の時間だからね。
「とは言え出来るだけ早い方が良いのは分かり切ってる訳で」
過去最速で朝ご飯を食べて即座に部屋に引っ込む。朝起きた時点で見た目バケツは起動しておいた。後は頭にかぶってログインするだけだ。
うん、きっちり10分遅れる事になるな。内部だと40分か。レイド戦の最中だって事考えたら結構大きい。ログイン後も出来るだけ急いで行動しよう。
「おはようございます、遅くなりました!」
「「あ、庭主さんが起きたメェ」」
「おはよぅマスター。珍しいタイミングだねぇ?」
「状況が状況ですから」
もちろん中心壁内部では休めないので、『アウセラー・クローネ』としての拠点として使わせてもらっているボックス様の領域まで戻ってきている。やはり個人で建てた神殿からのワープは可能らしく、戻るのに問題は無かった。
しかし行きは変わらず、“破滅の神々”の領域を通るか、裏口を通るかしかない。まぁどちらも行き方は確立されている上に、裏口の方はほんの数階で大扉の部屋に辿り着けるようになったみたいだけど。
とはいえ中心壁内部に向かうなら、来るべきは地上1階の簡易大神殿であって作業部屋ではない。なら何でこっちに来たか、というと。
「予想はしてましたが大変な事になっていますね……。とりあえず、バフ掛けますか?」
「ちゃんと休んではいるんだけどぉ、流石にこれはねぇ。お願いしていいかなぁ」
「いくら作っても作っても終わらないメェ。お願いするメェ」
「この何日かですっごい腕が上がったメェ。お願いするメェ」
「まぁそうでしょうね……」
壁の一部、ではなく、壁の1つを埋め尽くす様な、消耗品の注文票があるからだよ。無事(?)ポーションの類はすさまじく消耗しているらしい。この分だと、ルージュも相当に忙しくなってるんじゃないか?
そしてその大量の注文票にはお札も含まれている訳で、うん。直接火力は何とかなっているから、生産に回ってくれってさ。まぁある意味これも前線の火力を支える、大事な役割なんだけど。
ルディル達にバフを飛ばし、自分にも主に速度と器用関係のバフをかけて作業開始だ。ま、あの手の薙ぎ払いを止めるのに壁系魔法のお札を使えば、その後のボーナスタイムでよりたくさん殴れるだろうし。火力の高い使い捨てアイテムっていうのは、いくらでも使い道があるものだし。
「しかし消耗品の生産拠点としても大人気ですね、『
「まぁねぇ。作り手の腕もそうだけどぉ、使ってる材料が良いのもあるんじゃないかなぁ」
「ルシルさん達が調達を担当してくれてるからメェ」
「色んな所を探索して回ったかいがあったからメェ」
「……あぁ、冠付きとはいかずとも、外縁部付近で良質な素材が採れるノーマークな領域があるんですね」
「「そういう事だメェ」」
そういう事らしい。確かに外縁部に向かってる時、
同じ消耗品なら少しでも品質の良い物が欲しいってなるのは当然の心理だし、実際生産ペースも早いからな。大人気にもなるって事だろう。そして良い消耗品が出回るって事は、結果としてレイドボスを殴る火力が上がるって事でもあるし。
「……問題は、注文の量ですが」
生産が間に合わなくって決着に参加できませんでした、なんて悲しい展開にならないように、今はとにかく生産を頑張ろうか。
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