第494話 18枚目:大規模破壊
さてそこから更にしばらく、石造りの部分を(「必要だから壊れない」部分を除き)欠片も残さないように、丁寧に外から中へ削るようにして、全体を壊しながら地下へと降りて行ったのだが。
「うわっ!?」
打撃音、というか、鉄球クレーン車が働いた時みたいな音を立てて壊した中心付近の場所から、ぞわっ! と生物的な何かが湧き上がって来た。もちろん瞬時に空気の足場を蹴って上へと逃れたのだが、勢いはそのまま、ぞわぞわと「必要だから壊れない」部分を包むようにして、その生物的な何かは上へと上がっていく。
空中回廊みたいになっている場所から離れれば、特にこっちを追って来るという事も無かったので観察する。……あれ? もしかしてあれ、あの最深部の大部屋の天井と壁を覆ってたやつじゃないか?
しばらく目を凝らし、高速で動いている中に緑色の宝石のような物を確認して確信を得る。やっぱりあれだ。どうやら、無事最深部まで穿ち抜けたらしい。
「となると、「第二候補」の安否が若干心配ですが……」
いやまぁ無事だと思う。むしろやられてる姿が想像できない。補助に何人かついているとはいえ、巨人型ナマモノをほぼ1人で抑えきっていたのは確かだ。本人が楽しそうだから丸投げたともいうけど。
ひとまず確実に安全を確保する為と、俯瞰で状況を見る為に、大穴を抜けて地上を越え、大穴から少し距離を取った上空まで移動する。しっかし気持ち悪いな、あの生物的な何か。
ぞわぞわうぞうぞと地上に出ていた入り口である建物まで、通路と階段を包むようにして上がって来た生物的な何か。塊となって蠢いているそれは、地上の光の中で見ると、鬱血したような暗くて不健康な肉の色をしていた。
「ま、そもそもまともな生物とは思っていませんが」
ぞるぞると這いずり回る音が聞こえそうなそれは、入り口の建物の下まで辿り着くと、しばらくそのまま蠢き続けていた。もちろんこれで終わる訳が無いだろう、と見ていた先で、やっぱりそれで終わる訳では無かったらしい。
一旦動きが止まった。と、思った次の瞬間、ぞばっ! と、周囲の土部分まで、生物的なそれが、放射状に伸びたのだ。目を凝らすと、どうやら地上付近だけではなく、大穴全体にそうなっているらしい。
……もしや。と思った私の想像を裏付けるように、ズゴゴゴゴ、と低くも大きな音を伴って、中心壁内部の地面全体が揺れ始めた。
「ま、最優先は掘り進めた「穴」の維持でしょうからね。あれが埋まるのが一番困る事ですから、埋められる前に、溜めていたリソースをかき集めてでも守るのは当然の行動でしょうか」
そのまま俯瞰で中心壁内部全体を見ると、いつか見たボックス様の神器である「異空の箱庭」を使った時と同じ……いや、逆に、地面が、中心壁が、「縮んでいく」のが見えた。
やっぱりこの空間自体も1つのリソース、あるいは保存方法だったらしい。それを削ったという事は、やっぱりリソース削りは必須だったのだろう。通りでダメージが入った気がしない訳だ。あの巨人型ナマモノだけを相手にしていたら、それこそ無限に戦っても負けていたって事だろうし。
大穴の中に放射状に伸びた生物的な何かを軸に、急速に石造りの迷路が再生していく。空間が狭まるのと引き換えに。終わったらまだ元の大穴に戻すけどな、と思いながらその様子を見ていると……。
「……?」
ふと熱を感じて、両手で柄を握って右肩に担いでいた神器を正面に持って来て、視線を向けた。全体が真っ黒い金属で出来た、現在凄まじく火力が上がっている筈の大戦槌。ティフォン様が直接振るう武器なのだから、この程度の火力では、まだまだ序の口ですらないのかもしれないが。
だが今、改めて全体を見た神器は、頭を中心にほんのりと赤い光を帯びていた。何だ? こんな変化は無かった筈なんだけどな。【鑑定☆☆】しても、それっぽい説明文は無かったし。
上から下まで視線を動かし、大戦槌の頭に彫られている炎で出来た竜の頭の彫刻に視線を向ける。そう言えば、あの巨人型ナマモノの上半分を殴り飛ばした時、この目が光ったような気がしたけど、あれは何だったんだろう。
「!」
そして、その目を見た時に、「視線が合った」感じがした。同時に、目の前にウィンドウが音もなく開く。
このウィンドウ自体は何度も見た事がある。それは、
だが今現れたこのウィンドウは、そしてそこに書かれている文章は、詠唱と言うよりも、むしろ……。
「……なるほど。再生途中で殴れるなら、その方がダメージは通りやすそうですね? むしろ何らかのクリティカルがつくかもしれません。明らかに防御は低いでしょうし?」
確認するように呟いて、伺いを立てるように彫刻の竜の目を見る。何も反応は無い。が、その表面を覆う赤い光が、僅かに増したように見えた。
オーケー、そういう事だな。そりゃまぁ神器だ。正真正銘の神器だ。神が直接振るう為の、神の権能を象徴する神器なのだ。
「さてそれでは、十分な上空から大穴の真上に移動して、と」
だったらまぁ。そりゃあ、
「[火を従え風を生み
荒ぶれば世界をも滅ぼし尽くす
偉大なる祖にして我らが父よ]」
真正面の下段に構えた状態から、少しずつ神器を持ち上げながら、カンペとして出て来たウィンドウ、そこに書かれている文章を読み上げる。
「[全てを焼き尽くし
全てを薙ぎ払い
一切を蹂躙するその力は
その後に訪れる再生の礎]」
動作はゆっくりと。言葉ははっきりと。ついでに言えば、火山の山頂から見えた溶岩の湖と、あの神域の光景を思い浮かべて。
「[敵を滅ぼす力は我らの安寧の為
全てを焼き尽くす力は後の芽吹きの為
全てを薙ぎ払う力は後の歩みの為
蹂躙するのは先に蹂躙を仕掛けたものに抗する為]」
祈る、祈る、心から。あの悪人面なだけで随分損をしている、姿以上に器の大きな神に。
「[故にこそ
今此処に、希う
我らの敵がいる此処に
蹂躙を成そうとするものがいる此処に]」
じりじりと神器の宿す熱量が上がる。まるで、噴火寸前の火山のように。ゴボゴボと煮えたぎり噴出する直前の、暴れ狂う溶岩の音が聞こえる様だ。
「[齎し給えその力を
怒り許さず滅ぼし尽くすその力を
敵に絶望を、我らに希望を与えるその力を
荒れ狂う嵐とも呼べるその力を]」
ぐっ、と、真上まで振り上げた神器。柄を持った手に、力を込めて。
「[健やかな再生の為の徹底した破壊を
以後には害成す事すら思いつかぬ程の苛烈な反撃を
これ以上なく決着をつけてしまう為の力を
どうか此処に、この場に]――」
轟、と、炎が渦を巻く音が。
あるいは、噴火する予兆として山が鳴動する音が。
神器から聞こえた気がした。
「――[齎し、顕し、我らが父祖の威光として知らしめん事を
縁を繋いで助け合う、月たる姫を目指す子が希う!]」
ウィンドウとして現れた
当然今は空中に居るのだから、直接何かを殴る事は出来ない。眼下にある、若干の隙間があるもののほとんど修復の終わった迷路というかダンジョンまでは、中心壁より低いとは言え、相当に距離があった。
それでも円錐形になっている……尖った側を先として、炎で出来た竜の頭が向いている方向に振り下ろした神器は、今度は明確に、その彫刻である筈の目を赤く光らせた。地面があればぶつかっていただろう向きになった、瞬間。
それこそ、あの火山が噴火した時の様な。
少しでも触れれば消し炭すらも残らない程の炎が、巨大な柱のように、地上へと、叩き込まれた。
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