第493話 18枚目:削りダメージ

 どうやら中心壁内部の中心に居た「第一候補」も移動したらしく、石でできた崩れかけの東屋みたいな建物が入り口となっているダンジョン地上部は、きれいさっぱり誰もいなかった。

 だけでなく、どうやら地下から大きさを割り出したらしい、大体地下の通路となっているダンジョン範囲がロープで示されている。結構でかいな。まぁ、あの範疇を壊せばいいって事だろう。

 エルルとサーニャは、少しでも早く仕事を終わらせて私に合流しようとしているらしく、遠くから聞こえてくる戦闘音が非常に派手だ。ははは、これは私も負けてられないな。


「リソースを削って削って、削り切ってしまえば開けた地上で叩けるかも知れませんしねぇ……というか、そっちが本来の戦い方であった可能性もありますし」


 こうなれば大体分かる。「豊富な復帰手段」とは、この大量のリソースの「溜め込み」の事だったのだろう。

 地上の塔、中心のダンジョン本体、他の領域とつながる裏口、それらに存在する大量のモンスター。下手をすれば、この中心壁内部の空間そのもの。これが全部あの巨人型ナマモノの急速再生の元とするなら、確かに、直接戦闘だけで削り切れるものじゃない。


「例によって暗躍しているのも分かりましたし……」


 仕掛けたタイミングは、恐らくあの外縁部と内部からのスタンピートの発生だ。あの時に、リソースの流れに細工をしたのだろう。亜空間に満たされるべきものを、元凶へと注ぐ形に。具体的な方法は分からないが。

 そう考えながら、神器を握り直す。大体分かった。ならばあとは、打ち破るのみだ。


「ティフォン様に云われた通り。小細工も大仕掛けも、その全てを正面から、殴り壊してやりましょう!」


 思い切り神器を振りかぶる。っさぁ、空間に開けたというその「穴」、物理的な大穴に変えてやる!!




 ッッッゴ!!! というヒット音で、周囲一帯を崩壊させることを繰り返して分かって来たのは、地上に出ていた入り口になる建物と、そこへ向かう為の地面の一部、次の階へ続く階段、及びそこに続く通路は壊せない、という事だ。

 なので現在、上を塞がれない事に重点を置いて、修復されかけては壊し直す事を繰り返した超広大な大穴の中に、橋あるいは空中回廊のような形で通路と階段が浮いている、という形になる。もちろん、その下にはまだ残っている迷路があるんだけど。

 あと、迷路の周りは黒っぽく湿った土だというのも分かった。良かった、下手に卵とか幼虫とかがびっしりになってなくて。そうだったら通路を放り出して、他の場所を殴り壊しにかかっているところだった。


「……まぁ、空間自体がリソース、というのが正しければ、似たような物ですが」


 うん。考えないようにしよう。

 更に言えば、迷路が再生するのは石造りの部分がある場所で、空中に残った「必要だから壊れない」部分以外の場所だけというのも分かった。念入りに石造りの部分を壊して周囲が土だけになったら、そこからは再生しなかったからね。

 これで地下に意識を集中できるってもんだ。と思いながら、更に神器を振り下ろして破壊を進めていく。結構深さが出て来たんじゃないか? 見上げると、かなりでっかいクレーターにも見えた穴が丸く見えるから。


「流石に最下層にして最深部であるあの大部屋は壊せないとして……そこまで壊したら、どうなるんでしょうかね? これはこれで、純粋な距離に加えて、モンスターではなく足を踏み外したら死ぬという緊張感で移動に時間がかかるでしょうし」


 轟音と共に階層が崩壊し、その中にぽつんと残る階段及びそこまでの通路を見て呟く。後付けで手すりでも付ければマシなのかも知れないが、それぐらいなら深さが無くなった方が良いよなぁ。

 ……いや、待てよ? ティフォン様は確か、「穴を埋めるには最深部に辿り着き、そこから埋めねばならない」って云ってたな。って事は、最深部まで壊し尽くせれば移動が簡単になるって事じゃないか?

 よーし俄然やる気が出て来たぞ。移動は大変だからな。さっさと地上に引きずり出してやる。


「どうせ本体だって何かしらのリソースを蓄えているんでしょうし、そもそも空間的な「穴」を掘り進める手段も不明です。さっさと引きずり出して、平地で存分に殴ってやります!」


 今までの流れ的に、あの壁と天井を覆っていたあの生物的な何かもリソースの一種なんだろうし。どれだけの密度でどれだけ溜め込んでいるのかは分からないが、削って削って空にしてやる。その上で袋叩きだ……!

 それにこの調子だと、大神の加護という名のプレイヤー特典を妨害するのもリソースである可能性がある。流石に行動できる時間が不明、全体で見ると短縮しているのは頂けない。

 だってつまり、ログイン時間が奪われているって事と同義だからだ。重篤な状態異常を受けて、ログインしているのに身動きが一切取れない、そういう状態と、大きなくくりで行けば同じなんだから。


「まぁ推測でしかない訳ですが……どうせ過程は一緒です。[大地よ踊れ、叫べ、咆哮せよ、破壊の声を――グラウンドクラッシュ]!」


 そう。過程ことやる事は変わらない。元凶も、元凶の影響を受けたものも、元凶に利するものも……諸共まとめて、殴り壊すまでだ。

 大穴開けるのも楽しいしな! どんどん再生してくれていいぞ元凶、それでリソースが削れる上に、壊していい物が更に増えるんだから!

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