第484話 18枚目:出待ち中

 ログインしてから取り掛かった生産作業で約1時間、ティフォン様に話を聞いてラベルさんに連絡を取って合流するまでで大体2時間、そこから階層をぶち抜いて……自信は無いけど、たぶん1時間かそこらだろうか?

 で、大部屋に辿り着いてテントを発見、横の壁を破壊し始めて……うん、更に1時間ぐらいが経過した、と思う。だから、現在リアル時間で11時を過ぎて、30分にはなってないぐらいの時間、の筈だ。時計が見れないって本当に厄介だな。

 もちろんその間、護衛()の人達以外との連絡は取れず。どうやら壁に横穴を開けると、ゆっくりだが修復されるみたいだというのが分かった。巨大な扉がある面の壁は修復が早いって事も。


「しかし、どうしたものでしょうか。テントの中身は出てこないし、地上には戻れないし、後は天井ぐらいしか壊せそうな物がありませんし……」


 視界の端で休憩のターンな護衛()の人達が、いやいやいや、と首を横に振っていた気もするがスルーで。地上に戻れるなら、もう一度壊し直しながらここへ来て、護衛()の人達と合流できるかどうかとか確認したいんだけど。

 うーん、と、神器の頭を下に、柄を抱えるようにして腕を組む。壁はもう全方向、巨大な扉を除いて穴、というか、部屋を拡張した状態になっている。壊すとすれば、その向こうに移動して更に掘り進める感じになるんだろうが……と、中央にあるテントを振り返る。

 まだ動きが見えないから、ここを離れるのもな……というのが悩みの種だ。あの中身が分かれば、連れて行くなり捕まえるなりまだ動きようもあるんだけど。どうしようかな。


「……いえ。流石に放置する訳にはいきませんね。保護する必要、という可能性は低いでしょうけど、それはつまり危険度が高いという事ですし」


 召喚者プレイヤーがログアウト中のテントは、強度がぐっと上がる。しかし壊れないという訳ではなく、モンスターに袋叩きにされれば数時間で壊されてしまう。

 その場合は中の召喚者プレイヤーは放り出され、不思議な膜に守られるまでの時間はゼロからカウントが再開される。つまり、そんな状況になったらまず死に戻ると言っていい。

 そんなテントが残っていた、という事は、テント自体の耐久性が高かったのもあるだろうが……少なくとも内部時間で数時間以内、その間にテントが張られた、つまり、ログインしていた、という事になる。


「だから、少なくとも戦闘できるだけの実力はある筈なんですよね。あれだけのモンスターの群れを相手にして、最低でも負けない程度、テントを張っているという事は、それぐらいの余裕は持って殲滅できるくらいの……。…………?」


 状況を整理して、自分の言葉に疑問が浮かぶ。そんな実力を持った奴が何人いるって言うんだ。私達が辿り着いた時にあったテントは小型のものが1つ、つまり、1パーティですらなく1人か、多くても2人だ。

 というかそもそも、あのモンスターが居ないここまでの階層で、モンスターを倒すか特殊な武器で空間ごと階層の床をぶち抜かなければこれないこんな場所に、私達以外が居るのがおかしいんだけど。

 ……そうだよな? おかしいよな? って事は、やっぱり罠か、ゲテモノピエロのところに居る奴らが何らかの普通じゃ無い手段を使って来たか、超がいくつも付く事故的な偶然か、って事になる、よな?


「となると、やはりテントを無視して扉を浮かべ切ってしまうべきでしょうか……?」


 ううん、と悩みながら視線を巨大な扉に向ける。普通サイズの扉を壊すときに床にもダメージが入ったからか、扉の装飾やバランス的に、たぶん半分以上が床の上に出ていた。

 もうちょっと本気で、もう2・3発床か扉自体を殴れば完全に出てきそうなもんなんだけど……扉を完全に出して、その後なんだよなぁ。

 その向こうがゴールだとして、合流できたらいいけど誰もまだ辿り着いてませんでしたーってなったら護衛()の人達とだけでボス戦に突入する事になるし、どっちにしろテントから目を離さざるをえなくなる。


「そしてそれは出来ない、と」


 うっかり手が滑ったもしくは加減が上手くいかなかったことにしようか、と一瞬考えたが、流石にそれは酷いだろう。結局、こうして周囲の壁の再生を待ちつつ、テントに注意を向けながら待つしかない。

 それならもう【風古代魔法】で天井付近まで移動して、天井を崩しにかかるのも一緒か。一緒か? 何か違う気もするけど暇だ。神器の火力も上げれる限り上げておきたいし、その上で出来る事って言ったらこれぐらいしか無い。

 じゃあやるか、と神器を持ち直して護衛()の人達との距離を確認。さてどの辺から崩していこうか、と天井を見上げた所で、


「!」


 ずっと視界の端に入れていた、最初からあったテントの入り口が、開かれた。

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