第483話 18枚目:実質待機中

 その後、周囲に残っていたモンスターを掃討、大部屋の、落ちてきた部分を手前として奥側半分に点在している両開きの扉(後ろは無い)からモンスターが出現する事、その扉は壊す事が出来る事が分かった。

 まぁ、扉を壊すのは私にしか出来なかったので、相当な火力か、あるいは神の力が必要っていうのも分かったけど。そして、私達がこの大部屋にやって来た場所の丁度正面、一番奥の壁を背にして、ひときわ大きな「半ば以上床に沈んだ扉」がある事も確認した。

 殴ってみたらヒビこそ入ったけどすぐに直ったんだよね。そして沈んでいた扉が浮かび上がって来た。そう言えばいつの間にか床に入っていたヒビが消えていたなともう一回床を殴ってみたら、ヒビが消えるのと引き換えにまたもうちょっと扉が上がって来た。


「なんでしょうね、この扉。……普通に考えれば、この扉の向こうがゴールなんでしょうけど」


 確かに。という護衛()の人達の同意を貰って、それでも扉を完全に浮かび上がらせることが無い理由は、未だ沈黙しているテントだ。何だあれ。いや、今回に限っては、誰だあれ。と、言うべきか。

 掲示板もウィスパーもメールも使えないし、どうやらここまで来ると地上へ戻る為の魔法陣も出現しないらしい。つまり他の誰かと連絡を取る事が出来ないので、大変困っている。

 あぁそれと、他の突入者達が何で全員揃って「ログイン中」になっていたのかの謎も解けた。メニューをいじって、残りログイン時間はどれくらいか、と確認したら、その残りがどうも感覚と食い違っていたのだ。


「時間は……伸びてる、か?」

「たぶん? お前此処に来るまでは残りどんなもんだった?」

「半分切ってた筈だ。でも10時間以上ある」

「待て待て、こっちはログインしたてだったのに5時間切ってるぞ」

「メニューを一回閉じて開き直したら全然違う数字になってるんだが」

「マジか。マジだ」

「残り時間不明とか地味だが深刻な妨害を……!」


 だからたぶん、リアル側で連続ログイン時間が制限に引っ掛かるか、ログアウトタイマーでもかけておけばきちんとログアウトは出来る。出来るが、内部でどれだけ動けるかは不明、という状態になっているらしい。

 まぁ私も、残りログイン時間15時間とかいう絶対にありえない表示を見た時点で「あ、これ当てにならないな」と諦めざるを得なかったけど。こんな形で影響が出るとは。

 懐中時計を持ち込んでいた護衛()の人もいたのだが、ふたが開かなくなっていた。つまり、経過時間を確認する術がない。……実際に時間の流れがめちゃくちゃになっていても疑問は無いけど。


「問題は……あのテントの中身がいつ分かるかと、この扉を完全に浮かび上がらせたらどうなるか、ですが」


 巨人用か? と言いたいほど巨大な扉を前に、しばらく悩む。護衛()の人達は、どうやら時間経過で再出現するらしい普通サイズの扉の前でレベリングを始めたようだ。まぁモンスターが次々出てくるから、持久戦出来るんなら経験値が美味しいだろう。

 それに今は私の【王権領域】による補正がある。疲れてきたら私が扉を叩き壊せばいいし、他の扉は手分けするか、そちらも私が壊せばいい。そういう意味ではレベリングに適した環境だ。

 しかしそうなると、私は暇になってしまう。まぁそれでいいんだろうけどさ。うーん……としばらく考え、護衛()の人達と現在位置の距離を確認。その距離を維持したまま、円を描くように移動して……入ってきた場所と巨大な扉を前後として、左手に当たる場所の壁へ近づいた。


「……手応え的にはここまでと変わりませんか」


 まぁつまり「普通は」破壊不可能な強度って事なんだけどな。でも、いま戦ってる様子を見る限り護衛()の人達も、しっかりバフを乗せて武器を選んでアビリティを使って時間をかければ、壊せなくは無いだろう。

 それはそれとして、私が何故横の壁に近付いたかと言うと、いくらかの可能性があるからだ。なので神器を横向きに構え、背の低い円錐形の方、つまり尖っている方を壁に向ける。

 せーのっ、と思い切り振り被って、アビリティ発動。


「――[インパクト]!」


 アビリティとしては初歩の初歩だ。ただ若干の防御を無視して、防御の向こう側に威力を通すというだけの。ティフォン様の神器を持った私でもなければ、威力の補正も、あるにはあるが、という程度だ。

 ただまぁ、補正が小さくても、元の威力が威力だ。だから、予想通り……床をぶち抜いた時と同じように凄まじい崩壊音が響き、私の意識もあって、ずっとずっと真っすぐ、どこまでも続く大きな穴が穿たれた。

 うん。やっぱりだな。


「この亜空間に来た当初、壁を外側に殴った分には際限なく穴が開きましたからね。もしやとおもってやってみたら、やはり横方向にはいくらでも壊せますか。……実際に「いくらでも」かは別として」


 そのまま耳を澄ませてみるが、何か音が聞こえたり振動が伝わってきたりはしない。……壊されたら壊されっぱなしなんだろうか? ちょっとは上の階のモンスターとか、上の階自体が崩壊する代わりに修復される、とかって期待したんだけど。

 何か連係ミスでもしたのか、護衛()の人達が慌てて立て直そうとしているらしい叫びをよそに、自分で開けた大穴の横へと移動していく。さて、この調子で穴を開けてみよう。どこまで開けられるかな。

 ……万が一にもうっかり、空間すら壊せるこの神器の力で、エルル達が居る場所まで空間を壊し繋げたりなんかしたら一番いいんだけど……流石に、それは無理だろうし。

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