第482話 18枚目:到着?

 十分に余裕を持ったロープの端に護衛()の人達が数珠つなぎになり、反対側の端が私の腰にくくりつけられたところで、物理(?)による階層移動の再開だ。いっくよー!

 昔何かのテレビか動画で見た、建物を発破して壊すときのような轟音と共に更に深い場所へと落ちていく。ははは、壊せる範囲が広がれば火力のブーストが捗る、火力のブーストが捗れば壊せる範囲が広がる、すなわち無限ループだ!

 そしてさっき視界の端に引っ掛かったのは見間違いでは無かったようで、広範囲を壊すとその中にモンスターらしい影が混ざるようになってきた。まぁ全部まとめて崩壊に巻き込んでるから、直接戦闘はまだなんだけどね。


「この調子でっ、最深部まで行ってしまいたいもの――ですっ!」


 ゴッッッ!!! というヒット音に、もはや爆発音と言っていい轟音が続く。結構な範囲が一度に崩落するようになっているので、大分見晴らしも良くなってきた。まぁすぐ次の階層に移動する事になるんだけど。

 いよいよ僅かな光すら吸い込むほどの黒色になってきた床を神器でぶっ叩き、明らかにそれ以上の範囲を崩落させて大穴を開ける。もはや穴って言うか、時間制限でステージが崩壊していくレベルだな。ティフォン様の神器すごい。

 ロープの先から聞こえる悲鳴はジェットコースター的なあれだと考える事にして、とうとう次の階層に入った瞬間、つまり部屋から見える範囲にモンスターが出現するのを確認して、それでもちょっかいをかけられるより早く床を殴り抜き、大穴を開けて落下する、と。


「おっと、流石に辿り着いたでしょうか?」


 床をぶち抜いた先の「底の無い穴」を通った先で、今までとはいきなりガラッと風景が変わった。天井までの高さは倍ほどに、部屋と通路という区別の無い大部屋が広がり、モンスターがわらわらと群れている、という感じだ。

 ようやく最下層か、せめて何らかの区切りに到達したようだ。と判断し、結び付けられていたロープをほどきながら【風古代魔法】の詠唱を行い、空気の特大クッションを足元に設置する。

 ぼっすうぅ!! と盛大に着地して、そのまま飛び出す。ドン! と床に降りると同時、右側に振りかぶっておいた神器を、思い切り、真横に振り抜いた。


「っせぇええええええい!!」


 階層の何割かを一撃で崩壊させる火力が、たかだか通常の雑魚モンスターに耐えられる訳もない。直接ヒットしただけでなく、巻き起こった風圧にも当たり判定が発生したらしく、何重もの悲鳴を残して周囲に群がっていたモンスターが一気に減った。

 当然すぐにおかわりが来るが、それも神器の一振りで片付く。さて、と先程のヤミキシャ対策に【火古代魔法】で灯りをつけて、何処を目指すべきか、と、大部屋をぐるりと見まわした。

 分かったのは、現在位置が大部屋の壁に面した端である事、そして、大部屋の中央に近付けば近づくほど、モンスターの群れの密度が高いという事だ。


「で、あるならば、当然――突入あるのみっ!!」

「ちぃ姫がかつてなくやる気に満ち溢れてる」

「ありゃもうやる気っつか殺る気だろ……」

「お姫様ってのも大変なんだなぁ」

「ストレス発散に無双ゲー。分かる」


 後ろから何か聞こえた気もするが気のせいだ。確かに、こんな非常事態でも無ければステータスの暴力を全開に暴れる事なんてできないけども。

 神器を右に左に振ってモンスターの群れを吹き飛ばしながら中央へ向かう。モンスターは種類を問わず「敵」なので、こうしている間も火力が上がっていっている筈だ。

 そろそろ槌ことハンマーのスキルレベルも上がって来たし、とアビリティを確認すると、よし、入ってるな。


「私の前に出ないで下さい! ――[ショックウェーブ]!」

「出れる訳ないじゃん!?」

「護衛とは後方の退路確保をする仕事!」

「自己生存で手一杯なんで!!」


 返事を意識的にスルーして、真上に振りかぶった神器をそのまま正面の床へと振り下ろす。重量兵器にふさわしい重い音が響いたが、床は穴をあける事なく、放射状のひびが入る程度で耐えきった。

 その代わり、私から見て正面の広範囲へ衝撃波が走っていった。本来はノックバックに重きが置かれた、攻撃力自体はさほどでもない「後衛を守る」為のアビリティだ。

 ただしそれを発動したのは、攻撃力が上がりまくっているティフォン様の神器を持った竜族の皇女わたしである。オーバーキルというのも生易しい火力が、文字通りにモンスターの群れを一掃した。


「モンスターがごみのようだ」

「おいばかやめろ」

「見事に吹っ飛んだな……」

「ちょっとすっきりした」

「分かる」


 大部屋は広いので、まだモンスターは残っている。それでも、一番密度が高かった中央部分の群れはほとんど吹き飛んでしまっただろう。だから、残りはそんなにかからない筈だ。

 で、その部屋の中央には、その密度からして、モンスターが湧く仕掛けか、あわよくば元凶が居る、と、思っていた……の、だが。


「…………テント?」


 何故かそこには、よく見慣れた1人用の、もっと言えば召喚者プレイヤー用のテントが鎮座していた。中身がログアウト中だったからか、私のさっきの一撃も(一応)耐えたようだ。

 いや、でも、何でだ。何でこんな場所に、テントがぽんっと存在してる? ティフォン様の話によれば、「異なる理」との境界線になっている中心壁、その内部から向かえる場所とこっちのルートが重なるのは、それこそ元凶の居る最深部だけの筈なんだけど。

 流石に困惑で思考が止まりかける。訳が分からない。どういうこと?

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