第481話 18枚目:突入進捗
穿って、穿って穿ってひたすら潜るというか落ちていく。油断すると大笑いしてしまいそうな程楽しい破壊活動が、たぶん50を越えたかな? というあたりで、ちょっとした変化があった。
「うん?」
ついうっかりそのままの流れで、即座に床を砕いてその下へと落ちて行ってしまったのだが、その視界の端になんかいた気がする。とうとう部屋とその付近の通路が丸ごと崩壊するようになったので、その崩壊に紛れてしまったけど。
階層を下るごとに黒みを増していった周囲の石は、今やほとんど黒に近い。恐らく、更に潜れば本当の真っ黒になるのだろう。【暗視☆】を持っているとは言え、流石にちょっと見え辛いな。
という訳で、ひとまず次の階層まで移動した所で【風古代魔法】で空気のクッションを展開。ぼすん、と勢いを殺して、普通に着地してみた。
「護衛の方々ではないですよね……いつの間にか悲鳴も聞こえなくなってましたけど」
しばらくその場で待ってみたところ、数分もすれば遠くから悲鳴が聞こえて来たので、普通に落下中だったようだ。良かった良かった、途中で床が埋まって生き埋めとか分断とかになってなくって。
ぁぁぁぁぁぁあああああああああああああ!!! という感じで悲鳴が近づいてきて、ぼっふぅ!! という感じで空気のクッションが派手に凹んだ。流石に一度では勢いを殺しきれなかったらしく、ぼふっ、ぼす、ぽすん、と何度か跳ねてようやく転がり落ちてくる。そして、石の床の上にそのまま伸びてしまった。
……怪我はないようだが、精神的に相当キたようだ。これは、他の人が合流してもしばらく動けないだろう。と、思っている間に次の人が落ちてくる。これはここで一旦休憩だな。
「とりあえず灯りだけでもつけておきますか……」
悲鳴を上げながら落ちてきて、空気のクッションに受け止められ、転がり落ちては伸びている護衛()の人達を待ちつつ、左右の通路に目を向ける。今の所、これだけ悲鳴が響いても何の動きも無い。
魔法で灯りを出してみるが、構造が変わっていなければ曲がり角と分かれ道が続く通路だ。見通しは良くない。かと言って、通路に進んでみるというのもそれはそれで問題だろう。
悲鳴を背後に一応確認してみるが、掲示板もウィスパーもメールも沈黙していた。【王権領域】は切っていないから多少はマシの筈なのだが、それでこれ、という事は、状況は悪化しているのだろう。
「……「異なる理」が強まっている、という事ですから、元凶には間違いなく近づいている、と、思うんですけど……」
降ってくる悲鳴が重なって聞こえたのに振り返ると、5人が固まって落ちてきたのが見えた。ついでに今床に伸びている人数を数えると、13人だ。これで全員か。どうやら突入時の立ち位置や無限落下への覚悟で落下タイミングに差がついたらしい。
ぼっすぅぅ!! と空気のクッションが限界までたわんで、それでも降って来た
その床ももうすぐぶち抜いて空中になるんだけどな。【風古代魔法】に空気のロープ的な物があったから、それで全員繋いでおくか? とか思いながら、動きの無い通路に首を傾げ、
ぼすんっっ!!
「さらに追加の着地音」に、1秒考えて、勢いよく振り向いた。だって、私について来てくれている護衛()の人達はすでに全員合流している。これ以上は居ない筈だ。なのに、着地音がした。上から降って来た。って事は、私達「以外」の存在だ。
それは護衛()の人達も気が付いたのか、私に数秒遅れてばばばっと空気のクッションから離れていった。良かった、動きに問題は無いみたいだな。そう思いながら、神器を構え直す。
空気のクッションに落ちて来たのは、一見すると人間大のもさもさした黒い羽毛の塊だった。クッションが透明なので空中に浮いているように見えるそれは、起き上がる事も出来ずにもがいているようだ。それでもどうにか体勢を整えたらしく、猛禽類っぽい足が下に向く。
「うわ」
「顔ぉ!」
そして、むく、とばかり起き上がったのだが……その、非常に大型の梟っぽいそれには、頭が九つあった。中心と上下左右斜めに、胴体を埋めるような形で並んでいる。
よく動かせるものだし見えるもんだと思いながら見ている先で、明らかに通常の生物ではないそれは九つの頭をバラバラに動かし、その大きな翼を広げて……空気のクッションから落ちた。
思わず護衛()の人達も含めて全員で沈黙してしまう。しかもその梟? は、そのままもがいては起き上がり、翼を広げて飛び立とうとしてはつんのめるように転ぶ、という事を繰り返し続けた。しかもその方向も、起き上がるたびにバラバラだ。近寄ってすらこない。何だこいつ。
「……一応モンスターだな、分類は」
「名前は?」
「ヤミキシャ。説明が穴ぼこで読めん」
「連打しろ連打。レベル上げろ」
「やってる。ちょっと待て」
一足先に立ち直ったらしい護衛()の人が【鑑定】してくれたところによると、梟らしく暗闇の中での隠密性に優れ、音も気配もなくMPを枯らしてくるモンスターだったらしい。普通に怖い訳だが、その代償なのか何なのか、火属性の灯りに照らされるとまともに動く事すらできなくなるんだとか。
……あぁなるほど。適当に何も考えず灯りをつけたけど、そう言えば今メインに入っていたのは【火古代魔法】だった。つまり、火属性の灯りだ。それで照らされてるからこんな、酔っ払いみたいな動きになってるのか。
しかし、ここに来てからようやくモンスターとの遭遇だ。さっきの階層で私の視界に引っ掛かったのも、何かのモンスターだったのだろう。と、言う事は。
「大分潜ってきて、元凶が近くなってきたという事でしょう。さてもうちょっとです。飛ばしていきましょうか」
とりあえず、という感じで護衛()の人達がまともに動けない梟? ことヤミキシャを倒したところで、にっこり笑って神器を構える。
ひぃっ!! と悲鳴を上げる護衛()の人達だが、慌ててロープを取り出してお互いを繋ぎだしたので、ちゃんと覚悟は決まっていたらしい。
大丈夫、今回と同じように、ちゃんと目的地まで辿り着いたら怪我1つ無いように受け止めるから!
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