第478話 18枚目:突入準備

 その場で貸して貰った神器とその注意事項、教えて貰った情報をしっかり頭に叩き込み、深々と一礼して【王権領域】をOFFにした。戻るのは当然、溶岩を抱えた火山の山頂だ。

 初めてまともな武器を振るうって事で、神器の特性も考えしばらくモンスター相手に武器の練習だ。そのまま、流石に1人で向かうのはどうかと思ったのと、場所が場所だったのとで、元『本の虫』メンバーの人達に片っ端からウィスパーを飛ばしていた。

 まぁその大半が繋がらなかったんだけどな!! スピンさんがダメだった時はどうしようかと思ったよ。これはもう半分強行突破しかないかと思った時に、それこそダメ元で飛ばしたウィスパーに応答があった。まーじで。


『……久々にして突然のご連絡、何か御用でしょうか、「第三候補」様』

『ははは随分堅苦しいですね。皆さんと同じく「ちぃ姫」で良いんですよ? 親しみと可愛いを込めて』

『謹んで辞退させて頂きます。私は可愛いより綺麗の方が好きですので』

『更に言うのであれば凛々しいとか格好いいとかでしょうか? 知ってます』


 何か棘を感じるが気にしない。つーか気にしてられない。何せ元『本の虫』メンバーで私がフレンド登録をしている人は、この人で最後なんだから。逃がしてたまるか。


『改めて、お久しぶりです。――――ラベルさん』


 分かっている。その上で名前を呼べば、ウィスパー越しでも分かる程の深々としたため息を吐かれた。そんな嫌そうにしなくていいじゃんか。まぁラベルさんの性格考えたら仕方ないだろうけど。


『誘拐犯に連絡とは、またお叱りを受けても知りませんよ』

『無事救出が成ったらいくらでも怒られますとも』

『いきなり穏やかではありませんね……』


 ははは、と笑って神器を振るう。よし大分慣れて来たな。振り回されるって事は無くなってきた。

 さてそれはともかく、誘拐の被害者から加害者への連絡だ。何があるかと身構えるのも当然だろう。周囲からの目や扱いも大概だっただろうしね。


『恐らく貴女であれば把握している事と思いますが、中心壁内部に突入した方々が戻って来ていません。しかも情報も意図されているのではと疑ってしまう程に出てこず、更に言えば突入した彼らが「何故か全員ログインした状態」になっています』

『えぇ、把握しています。情報の制限については大凡の心当たりもついていますし、このままでは人員が飲まれるばかりである事も推測、共有済みです』

『頼もしい。ところでラベルさんが現在所属しているクランって何処でしたっけ』

『……。『猿山植木店』です。「第三候補」様もご存知のニビーさんをクランリーダーとした魔物種族クランです。といっても、現在こちらに残っているのは数名の新人と、事務作業一切を任された私のみですが』

『後は全員突入済み、と。まぁニビーさんならそうするでしょうね。同盟を組んでいる『牛肉工務店』も『蜘蛛糸裁縫店』も同様でしょうか?』

『はい。どちらもほとんど人員が残っていません。加えて言えば、同盟『魔物商店街』に所属しているクランは全て同様の状態です。第一陣の魔物種族プレイヤーを戦力として当てにしていたのであれば、それは無理です』


 でもね。カバーさんやパストダウンさんに隠れ気味だけど、この人も大概優秀なんだよ。たぶん、外見の好みか生活リズムの調子が合えば、今頃『アウセラー・クローネ』に所属しててもおかしくない……軍師として有名になっていたかもしれない程に。なおクラン名と同盟名にツッコミは無しだ。いいね?

 だからこそあの誘拐事件が惜しく……


『いえ、問題ありません。用があったのは、ラベルさん。貴女自身ですから』


 ……今回に限っては、大チャンスなんだけど。


『……どういう事でしょうか』

『実は神様に相談して、その問題を解決、打破する手段と情報を頂いたのですよ。ただそれを実行するにあたり、どうしても人間種族、というか、人間種族贔屓の神々と交渉する必要がありまして』

『なるほど、しかし――』

『ですから『本の虫』に所属していた方々に連絡を取ろうとしたのですが、どうやら皆さん既に解決のために乗り込んだ後だったようで誰にも連絡がつかないんですよ。なので藁にも縋る思いでラベルさんに連絡したら繋がって、ほっとしているところです』

『そうですか、それなら――』

『それに、こうなった現在、残っていたのがラベルさんで良かった、と思っているぐらいでして。いや良かった、他でもない貴女が残っていてくれて』


 挟まれそうになる言葉を、片端から被せて封じていく。自分でも嫌味な言い方になると思う。実際嫌味でしか無いと思う。不快な言い方以外の何物でもない。でも、話を持っていくには、必要だ。だから。


『それは、どういう――』

『だって「二度目は無い」ので』


 動作としては神器をモンスターに、言葉としては冷たいそれをラベルさんに、叩きつける。


『既に一度やらかして「後が無い」からこそ、身内を除けば貴女だけは・・・・・信頼できる。二度目は無いのを骨身に染みて分かっているから、既に一度接触・・されて・・・いる・・からこそ、それを「確実に」回避できる貴女が残っていてくれて、良かった』


 私が何を警戒しているかなんて言うまでもない。そして、その警戒対象が何処に潜んでいてもおかしくない、という現状も。だからこそ。……「既に」裏切り者の汚名を被り、その泥を雪ごうと尽くしているラベルさんは。彼女に限れば、信じていい。

 逆転の一手を打つというこのタイミングで、確定の白。これがどれほどありがたい事か、もちろん少し考えればラベルさんだって分かるだろう。そうなった経緯については、まぁ、思うところが無いわけでは無いだろうけど。

 とうとう練習相手にしていたモンスターも近寄って来なくなって、一息つきながら、私はウィスパーの向こうに声を投げた。


『お願いします、ラベルさん。――人間種族を贔屓しているあの神々の領域にある、試練ダンジョンもどき。その内の「確定で異なる理に汚染された場所へ繋がる」ものへ、私が踏み込む為の許可を得る交渉を、お任せしても良いでしょうか』


 ……魂すらも吐き出すように深いため息の後で……端的な答えは、返って来た。


『分かりました。お任せください』

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