第477話 18枚目:神へ乞う

〈よく来たな! どうやら、今回は人数が少ないようだが〉


 必要な事を改めて確認してから【王権領域】を展開すると、変わらず火山の真ん中で、黒煙に塞がれた空の下、右を下に仰臥した姿勢のティフォン様が迎えてくれた。

 それに前回と同じく頭を下げて、迎え入れてくれたお礼を述べる。まぁ、人数が少ないっつか今回は私だけだからな。その、人数が少ないっていうのがそもそもティフォン様のとこまで来た理由なんだし。

 その流れのまま、かくかくしかじかと今起こっている異常……エルルとサーニャを含む多数の召喚者とその関係者が、元凶の領域に踏み込んで戻って来ていない事と、一切の連絡がつかない事、情報が共有される様子も無い事……を説明する。


「――と言う訳でして。恐らくこのまま無策で突入しても同じ状況になる可能性が高い事、私が思いつく程度の対策は彼らなら既に行っていて、かつその上でこの異常が起こっている事から、恥ずかしながら父祖のお知恵を拝借できないかとここまで参りました」


 言葉を締めて、もう一度深々と頭を下げる。長々と語ったが、短く意訳すると「手詰まりだから助けてお父様!」だ。父親って言うか神様なんだけど、本神から「俺の子」と呼ばれている。血縁としての父親がいない以上、呼ぶならお父様だろう。


〈――なるほど。どうやら俺が聞いていたより、随分と状況は悪いらしい〉


 聞いていた、とは。と思っている間に〈顔を上げると良い〉と声が掛けられる。ひょこ、と顔を上げて見ると、僅かに眉間にしわを寄せた不機嫌そうな悪人面……じゃない。たぶんあれ、違う。どっちかっていうとあれだ、悪人面補正を抜いたら、心配とか憂慮とかそっちだ。

 悪人面って損だなぁ……とか私が思っている間、微妙に私から視線を逸らして考え込んでいたティフォン様。やがて考えがまとまったのか、視線をこちらに向けて、真面目な声で告げる事には。


〈俺が聞いていた話では、そんな小細工は無い筈だ。だが、大神が嘘を伝える理由も無い。だから恐らく、その異常は大神にとっても想定外だろう。――邪神め、ただでさえ厄介な話を更に厄介にしてくれるとは〉

「あぁやっぱり……嫌な予感したんですよね、そもそも周囲が例の邪神の領域って時点であれだったのに」

〈全くだな。外縁の守りは俺達に任せ、更に辺境に放る程度はしても良かっただろうに〉


 ッッチ、とばかり舌打ちするティフォン様はかなり不愉快そうだ。私が思わず零した言葉にも全力の同意が返って来る。うーんやっぱりあいつらか。いや、あくまで推測でしかないんだけど。

 でも他に居ないよなぁ……この状況で「妨害」を仕掛けてくる奴なんて……。と、つい遠い目をしてしまうが、ティフォン様からのお叱りは無かった。つまり、大体合ってるって事だ。


〈他と足並みを揃える為、そしてあの天空神を始め例の邪神にいいようにされた神の汚名返上の機会の為、俺が直接動く訳にはいかん。……その機会を上手く使えないどころか、更に被害が出ているとしてもな〉


 どうやらそういう意図もあったらしい。……新人相手はともかく、肝心要の所でしてやられてるんだけど大丈夫か? 汚名返上どころか更に追加されてない? まぁそれならそれで今度こそ正面から殴れるチャンスって事でもあるけど。

 いくら広大な拠点があるって言ったって、外縁部までの探索を支えたのは点在するボックス様の領域だし、この空間を支えるメインなのはティフォン様を始め地母神系の神々の領域だ。ここまでバックアップの態勢が整っていながらこの問題の状況。やはりダメなのでは?


〈奴らが勝手にしくじって泥にまみれても知った事では無い。俺が封じられてよりこちら、好きにやらかしていたツケが回って来ただけの事だ〉


 ばっさり、と某神話に属する神々を言葉で切って捨てたティフォン様だが、ふ、とここで口の端を持ち上げた。


〈……だが、俺の子らも巻き込まれているとなれば話は別。まして、直接助けを求められたのならば、応えるのが神というものだ〉


 だーかーらー、イケオジなんだよなぁあああ! ぶっちゃけ悪人面のせいでマフィアかギャングのボスにしか見えないけど!

 笑みが添えられた言葉に、ぱっ、と顔を明るくして見せる。それに頷きを返してくれたティフォン様は、凄みのある悪だくみ笑顔……悪人面補正を除けば頼りがいのある微笑みだろう……で、こう告げた。


〈大神から聞いている元凶に向かう為の道とその場所を教えよう。その上で、俺の武器を1つ貸してやる。あれがあれば、その厄介な仕掛けも押し通れるだろう。――下らない企み諸共、派手にぶち壊してこい〉


 一番必要な情報をくれただけじゃなく、まさかの神器の貸与だよ。しかも派手にぶっ壊して来いって許可まで貰えた。やったぜ!

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