第476話 18枚目:再びの山頂

 念の為、ルディル達にはこの生産部屋を動かないようにお願いしてから、1階に降りて簡易大神殿で移動だ。今は「大神の悪夢」に挑んでいる人がほとんどなのか、移動先は酷くガランとしていた。

 まぁ目撃されないという意味では丁度いい、と割り切って軍服(レプリカ・改)に着替える。やっぱりスカートよりズボンの方が動きやすいからね。実際はあんまり変わらないんだけど、気持ち的に。

 一応、いつもよりしっかりとストレッチをして、ありったけのバフを自分にかける。その上でスキルを入れ替え、身体強化系のスキルが全部メインに入っていることを確認。


「さて、それでは――」


 ボックス様の領域を出て、高くそびえて煙を吐き出し続ける火山を見上げる。リアルだと「え、こんなん何日かけても登れるん……?」と軽く絶望すら覚えるが、既に一回登頂済みな上、今は緊急事態で、かつ全力を出せる状態だ。

 恐らく火山に蠢いているモンスター達の咆哮が響いてくる。噴火が今も繰り返されているからか、全体としては黒いイメージの山に対し。


「――登頂タイムアタックと行きましょうか」


 にぃ、と、笑みを浮かべて。ッパン! と左手に右の拳を打ち付けて、私はそのまま、自分の最高速度で走り出した。




「――――[嵐と成りて降り注げ]」


 ダンッッ!! と、登頂寸前で踏み切って、高く高く、それこそ強襲してくるワイバーンより高くまで跳ね上がる。

 流石に逃げ切るとはいかなかったか、あの亀ドラゴンを避けて走ったせいか、ズドドドド、と集団となってこちらへ雪崩れ込もうとしてくるモンスター達を、私は稼いだ高度から見下ろした。

 そしてそのまま、手を振り上げる。ぶわ、と私の背後に現れるのは、夥しい数の魔力の槍だ。


「[マジックランス・ストーム]!」


 風の足場を出したりすることなく、自由落下に移る前の滞空時間で狙いを定め、手を振り下ろした。文字通り嵐のように、無数のモンスターで出来た群れ……トレインを、無数の魔力の槍が貫き縫い留めていく。

 それは空中にいたワイバーンも例外ではなく、すぐに地面は埋まって見えなくなった。数度、風の足場による軌道修正をしてから、そのだいたい真ん中に着地、【吸引領域】を展開する。

 うん。どうやらこれ、私が敵認定した相手か、私が仕留めたモンスター、あとは誰の物でもないアイテムが基本的な吸収対象みたいなんだよね。誰の物でもないアイテムっていうのが、基本的にダンジョンにしか存在しないんだけど。


「ここから全部解体してたら、何のためにここまで飛ばしてきたか分からなくなりますからね……」


 ざらっ、と、白い砂が黒い山肌の上に広がった所で身を翻し、山頂へと辿り着く。以前と変わらずゴボゴボと沸き立つ溶岩を内に抱えたそこは、やはりモンスターが近寄ってくることが無い。

 ぱっぱと手早く軍服(レプリカ・改)からドレスへと着替え、頭の中で聞くべき事、確認しておくべき事を数える。

 まず最優先は「異なる理」について。主に変化が起こったかどうか。次に中央部、中心壁内部について。“破滅の神々”の領域はともかくその内部で何が起こっているのか。或いは必要な対処は。最後に「異なる理」の潰し方。或いは、食い止め方。


「出来ればそうする為に辿り着く方法と、万が一仕留めきれなかった時に被害を抑える方法も聞いておきたいですが……どの辺りまで運営大神が情報を封鎖しているか分かりませんからね」


 いくらティフォン様が気も良ければ太っ腹で面倒見の良いイケオジと言っても、知らない事は教えられないのだから。それは仕方ない。

 最悪寄生への対抗手段だけ聞いて、リアル側からフライリーさんに連絡を試みよう。流石にログイン制限までは破れないと思うんだけど……あの「全員が揃っているフレンドリスト」を見ちゃうとな。

 リアル側の時間でログイン制限はカウントされてる筈だし、その辺に問題が起こったらいろいろ終わるって事で、しっかり対策されてる筈なんだけど。


「その辺まで含めて「外部」として認識されていたらどうしようもありませんが……それならそれで、何かしらヒントか、対抗手段がある、筈、でしょうし」


 ……ほんとに、なんで元凶の周りを固めるのが“破滅の神々”の領域なのかなぁ。多分亜空間の構成的に、柱となるのは外側の方が都合が良かった、つまり真ん中に不安要素を固めておきたかったんだろうけどさ。

 まぁとりあえず、これ以上はティフォン様に話を聞いてからだな。何せエルルとサーニャも行方不明、推定中心壁内部に突入して戻って来てないんだから。

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