第475話 18枚目:人事の果てに

 気付いて真っ先に思ったのは、まずい、という事だった。何が起こっているかは分からない。分からないが、とにかくこのまま物事が進んでいくのはまずい。だってカバーさんとフライリーさんには、リアルの私宛のメールアドレスを伝えている。だから、どれだけ内部での連絡手段が制限されていても、リアル側で連絡を取る事が可能なのだ。

 でも。私が起きてからこっち、それらしい連絡は1つも無かった。もちろん起きるまでにも来ていない。そしてこのログイン状況、推測するしかないが「異なる理」の影響が強い所だと、フレンドリストさえ確認出来なくなるんじゃないか……?

 ……それでも分からない。それなら何でカバーさんからの連絡が無い? ログインが私とほぼ同時であるならこの異常には気づいている筈だ。だったら情報を集めてから知らせてくれるだろう。それが何の連絡も無い、この時点でおかしい。


「何だ……何を見落としてる……?」


 メニューからのマップを見ても、ゲージはちゃんと存在しているしその溜まり具合は7割程度と言ったところか。つまり「異なる理」の影響が外に出て来たって訳じゃない筈だ。

 掲示板を改めて見る限り、百頭魚を始めとした“破滅の神々”の領域にも変化は無い。今も、次の進入タイミングに合わせて突入隊の募集が行われていた。内部の情報も、ゼロでは無いから出て来ているから撤退者もちゃんといる。

 じゃあ、何だ。何で誰も気づいていない。何で異常が見落とされている。何で何事も無いように全体が動いているんだ。冷静に考えれば、明らかな異常が起こっているのに。


「マスター、どうしたんだぃ?」

「……異常があります。ありますが、その原因も対処法もさっぱり分かりません」

「マスターがそこまで言うって、結構かなり厄介じゃないかなぁ?」

「「同感メェ~」」

「さらに問題なのが、その異常のせいで誰にも相談できないって事ですかね」

「控えめに言って相当大変な事じゃないかぁ」

「厄介事メェ」

「大問題メェ」


 ははは。と笑ってみるが何も変わらない。本当どうしような!! エルルにもカバーさんにも「第一候補」にも相談できないとか初めてじゃ無いか!? 今までは大体この3人に相談してたし!

 けど。けど、だ。下手したら、現状私が文字通り状況を打開できる最後の一人かも知れない。だって「異なる理」の影響から逃れているのは、少なくとも『アウセラー・クローネ』という特級戦力集団の中では私だけだからだ。

 でも、じゃあ、どうすればいい? 間違いなくこのまま外で待つだけでは何も変わらない。むしろ悪化する。このまま突入するのは論外として、けど明らかに原因は内部にある。どうすれば、どう動けばいい……?


「メェ。庭主さん。それなら神様に相談したらどうメェ?」

「メェ。庭主さんだけじゃ分からないなら、相談したらいいメェ」


 煮詰まりかけたところで、手を止める事なく作業は続けながら、ルフィルとルフェルのそんな声が聞こえた。うん? と顔を上げると、いつものようにのんびりした調子で、ルディルも続く。


「そうした方がいいと思うよぉ。それに、マスターの神様なら、そういうの得意なんじゃないかなぁ?」


 …………確かに。

 「異なる理」の影響下にあるものは、積極的にぶっ壊して良し! と力強く許可をくれたのはティフォン様だ。つまりそれは、対処における正解を知っているって事になる。

 あれから大分状況も変わってるし、もう一度相談するのはありだろう。前と違って火山を登るのは私1人になるが、まぁそれならそれでやりようがある。


「……そうですね。少なくとも、最初の指針をくれたのもかの神様ですし。謁見を願うだけなら何とでもなるでしょう、というか、何とでもしないとむしろ謁見すらして貰えない可能性がありますし」

「あぁー……。まぁ、前に山に登った時はぁ、マスター自身は、ほとんど参加してなかったしねぇ……」

「むしろ庭主さんだけの方があっさり辿り着けそうメェ」

「私達が庭主さんの足を引っ張ってたのは否めないメェ」

「そんな事はありません。仲間と動く時と、単独で動く時の動きは違う、というだけの話です」


 まぁ確かに、全力で走ったら、襲い掛かってくるモンスターを全部置いてきぼりにして頂上に辿り着けるだろうけどさ。

 けどまぁそうだな。他に良い手も思いつかないし、火山のふもとにあるボックス様の領域の座標は残っている。移動自体は問題ない。

 相談しに行こうか。豪快で器のでっかい、悪役顔の親父殿に。

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