第474話 18枚目:静かな始まり

 そして生産作業に没頭する事、内部時間1時間が経過した。


「……いや、流石におかしいでしょう。前線で忙しい可能性のあるエルルやサーニャが来ないのはともかく、カバーさんからの連絡すら来ないとか」


 その間、私に何かアクションがあったかって言うとこの言葉通りだ。一切! 何もなかった。いや、おかしいだろう。

 もしかしたら今現在私に求められているのは、このお札の生産作業だっていう可能性もあるけど……それならエルルかサーニャが戻ってきてもいい筈だ。つまり、戦力は足りてるって事なんだから。

 でも2人とも戻ってくる様子は無い。って事は、戦力は足りてないって事だ。その中で、特級戦力である私が放置される? 有り得ない。


「そもそも、いくら切り札扱いされてるとは言え、そういう扱いをされているからこそ、特にエルルが私を放っておくとか有り得ないでしょう」

「まぁそうだろうねぇ」

「不安だ……って口癖みたいに言ってると思うメェ」

「白いドラゴンさんは心配性だメェ」


 メッメッメ~、と楽しそうに言う双子は何か知ってそうなんだけど、今は追及してる場合じゃないな。想像余裕だったし後で聞こう。素直に教えてくれるかどうかは別として。

 どうやら壁に貼り付けてあった注文票はお頭……ではなく、リーダー的なドールが管理しているらしく、納品が終わると剥がされていくようだ。そして少なくとも見えていた内、最後のお札に関する注文票が剥がされたところで、メニューからフレンドリストを開いた。

 うん。カバーさんも、ソフィーさん達もフライリーさんも「第一候補」達も皆ログインしてるな。とりあえずカバーさんにウィスパーを飛ばしてと。


「………………?」


 ……おかしい。応答が無い。別の誰かとウィスパー中だったら、そもそもウィスパーが繋がらないんだけど。これは、「繋がった上で応答が無い」。どういう事だ? カバーさんは私にログインとログアウトを合わせてくれていて、それはこのイベント空間でも同じ筈なんだけど。

 もう一度フレンドリストを見る。間違いなくログイン中だ。それならウィスパーが繋がったなら反応してくれる筈だ。が、いつまで経っても応答が聞こえない。反応が無い。

 一旦ウィスパーを終了して、他の人達にも飛ばしてみる。結果は……。


「誰も返事してくれないとか、これはこれで異常事態なんですけど」

「「「?」」」


 そのままクランメンバー専用掲示板の方ももう一度確認してみたが、そちらにも変化は無い。ざっくりと他の掲示板も見てみたが、特に目立った変化は無い……いや、「大神の悪夢」に関する情報しか引っ掛からなかった。中心壁内部の情報がほとんど無い。

 ……少し考えて、思い出す。中心壁の内部は「異なる理」の支配する場所。つまり、大神の加護である、掲示板、ウィスパー、メールと言った召喚者特典の連絡手段が、断たれる、という事を。

 という事は恐らく、全員何らかの理由で中心壁の内部、或いは……あの、「異なる理」に汚染された試練ダンジョンっぽい空間に居るのだろう。何がどうなってそうなったのかは分からないが。


「……本当に?」


 口の中で転がすように呟く。内部に突入するなら、それこそ何かしらの伝言ぐらいは用意していくだろう。それが全員、1人残らず、それこそ連絡要員すらも置かずに内部に突入する? あの抜群の連携力と指揮・作戦力を持ったカバーさん達が?

 ……違和感だ。ルディル達は生産作業でここを動けなかった。つまり中心壁内部への突入からは、最初から外されていたって事だ。まぁ確かに、後方からの補給が途絶えたら大変な事になるからな。「大神の悪夢」に挑む方だって、結構な消耗品を必要とする訳だし。

 …………ちょっと待て。


「ルディル」

「何かなぁ?」

「その作業を始めてから、最後に誰かと会ったり連絡を受け取ったのは何時ですか? 今ここに居る、お頭達やドールを除いて」

「そうだねぇ……」


 トトトトッ、と気持ちよく薬草をみじん切りにしていたルディルは、少し首を傾げ、


「……多分だけどぉ、ほとんど丸1日は前じゃないかなぁ? アタシ達も交代で休んでたしぃ、その交代のタイミングから考えると……たぶんだけどねぇ」

「まぁ大体合ってると思うメェ」

「庭主さんが寝てからも大体丸1日ぐらいだったメェ」

「そうだねぇ。それぐらいのタイミングが最後かなぁ」

「ありがとうございます」


 丸1日。内部時間24時間前ってことはつまりリアル6時間前だ。私が昨日の夜ログアウトしたのは午後11時過ぎぐらい。それと大体同じぐらいとするなら……リアル午前5時ぐらいか?

 私達『アウセラー・クローネ』のメインメンバーのログイン時間は、カバーさん達元『本の虫』組の調整でずらされている。それは特級戦力の不在を避ける為であり、少ない人数で最前線に居続けるための工夫だ。

 今日、つまり土曜日、という単位で考えると、一番早いログインは「第五候補」だった筈で……午前4時ぐらいだったよな? 予定だと。流石にこれは口頭かウィスパーで共有された情報だから、掲示板にも残ってないけど……。


「……あれ?」


 もう一度フレンドリストを見る。……ある。「第五候補」の名前が。そしてその状態は「ログイン中」。


「予定通りにログインしているなら、もうとっくに連続ログイン時間の制限に引っ掛かっている筈なのに――いえ、それ以前の問題として、何故私がログインした時点で「全員が揃っている」んですか……!?」


 気づいて、ぞっとした。

 だって全員が揃うのは、少なくとも今日の夜の予定だったからだ。

 そしてそれまでは、「誰1人ログインがほとんど被らない」筈だったのに!

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