第479話 18枚目:突入装備

 流石、というべきだろう。そこから私が火山を下りて最寄りのボックス様の領域まで辿り着き、一息入れながら休憩する頃には折り返しの連絡が届いた。その内容はもちろん、交渉が成立したというものだ。

 ボックス様の領域にある簡易大神殿を経由して中央部に移動して、ラベルさんに伝えられた座標へと移動する。私の姿を見てざわめきが伝播していくが、こっちに突撃してくる人はいない。もしかして、この辺も何か手を回してくれたんだろうか。優秀なんだよな。

 そして何の因果か、ラベルさんが突入交渉を成立させたのは、私がこの亜空間へ訪れた時、最初に現れた「あの」空間だったらしい。つまり、ごねにごねていた使いの居る、“叡智の神々”の領域だ。


「おや?」


 その辺も話が通っていたのか、誰にも何にも止められることは無く領域の中へと踏み込める。そのままたったかたと神器を手にドレス姿で移動していくと、どうやら指定された座標っぽい辺りに人だかりができているのが見えた。

 がっつりと武装して準備を整え待機している感じのその集団に、何だろう、と内心首を傾げつつ近づいていく。だって目的地がその奥だからね。流石にここまで来れば周囲の光景にも見覚えがある。

 そしてお互いの顔が十分見えるぐらいまで近づいたところで、その集団から1人が立ち上がったのが見えた。おや。


「お待ちしておりました」

「いえこちらこそ。手配と交渉を突然丸投げしたにも関わらず、ありがとうございます」


 神器を両手で持って身体の前に持ってきて、そのままぺこりと頭を下げる。出迎えてくれたのは、いつかと変わらない……いや、少し疲れた感じのする、ラベルさんだった。

 しかし、その後ろに並んでいるのはどうやら一般召喚者プレイヤーのようだがどういう事だろう。人数を数えて見ると、ラベルさんを除いて18人、3パーティ分のようだ。

 じ……。と、主に私が手にしている神器に視線を向けていたラベルさんだが、何故かため息をついて、こう続けてくれた。


「突入する、と聞きましたし、他に人がいないという事も分かっていましたので、僭越ながら可能な限りの護衛戦力を整えさせていただきました。……が、どうやら、不要だったようですね」

「いえいえ! 1人で突入すると、エルル達に合流した時怒られますから! ありがとうございます!」


 なんと。彼らは私の護衛(臨時)だったのか。……一手で全員吹っ飛ばせるのは黙っておこう。知ってるだろうけど。

 けどまぁそれはそれとして、ついてきてくれる人が居るなら、エルルに単独行動を怒られる事も無いだろう。非常事態だし他に人がいなかったし! と言い訳するつもりではあったけど、(形だけでも)護衛が居て一緒に行動しているならお怒りも収まりやすい、かもしれない。

 ありがたい! と、神器ごと胸の前まで手を上げて喜んでみせると、何故かその、護衛をする人達が少し下がった。……いや、何故かじゃないな。私のせいだなこれ。


「ところで」


 まぁ最悪後ろからついてきて貰えれば……とか思いながら大人しく神器を下ろすと、ラベルさんが何とも言えない無表情でそう声をかけて来た。なんでしょう? と首を傾げると、深々と息を吐かれてしまう。

 まぁ理由は分かってるんだけどね。この神器の事だろう。だって何せ、ティフォン様直々に貸して下さった武器なんだし。


「その「武器」は、一体?」

「事情を説明した神様から状況を打破する為にお借りした、正真正銘の神器です」

「……その、神とは、どの神の事でしょう?」

「我らが竜族の始祖、“細き目の父にして祖”です。通り名はティフォン様ですね。お姿と同様器の大きな方ですよ?」


 ティフォン、という名で察しがついたのか、あぁ……。という感じで額を押さえて俯くラベルさん。流石にここまで有名であればファンタジー好きには知っている人もいたのか、ざわざわと周囲で囁く声が聞こえて来た。

 ちなみに、ティフォン様の元ネタである神話に具体的な形の武器は出てこない。比喩的な権能やその動きこそ残っているが、相手の武器を奪ったという描写はあっても、何の武器を持ち出したという逸話は残っていない。

 でも、今私の手にあるのは確実な形をした武器だ。これについてもティフォン様から説明を貰っている。フリアド固有の解釈なのだろうが、別に問題は無いぞ? そういう解釈、というだけで、筋は通っているのだから。



 例えそれが。

 全長2mオーバーの、全てが黒い金属で出来た大戦槌モールであろうとも。



 これの銘は「ザ・フランムフレッセンアルフ」。意訳するなら「食らい尽くす炎」だろうか。

 ティフォン様のメイン権能は炎。それも、大地も海も、雷すらも焼き尽くすほどの強大な炎だ。その権能が武器と言う形を取った、その内の1つ、という解釈なのだろう。炎にも色々あるからね。

 この、槌頭が片方は平らで、反対側が平たい円錐形を乗せたような円柱形になっていて、その側面に円錐形の方に向く炎で出来た竜の横顔が浮き彫りになっている大戦槌は、とある特殊能力がある。それは何かと言うと、具体的に【鑑定☆☆】した結果がこちらだ。


[アイテム:ザ・フランムフレッセンアルフ

装備品:戦槌(攻撃+*15・魔攻+*15・一部スキル効果+*6)

耐久度:Gi

説明:“細き目の父にして祖”が所持する武器の1つ

   全てを燃やし、飲み込み、更なる力とする炎の権能の現れ

   生半可な者では振るうどころか持ち上げる事も叶わない

   神の敵を破壊した際、その対象を薪として威力が上がる

   ただし、その上がった威力は時間経過とともに徐々に落ちていく

   また破壊したものを薪とする為、一切の糧が得られなくなる

   神の許可なく触れた者は、当人がまず真っ先に薪と化すだろう]


 ちなみにこれ、火山の上の方で練習する「前」の情報な。現在? 攻撃と魔攻の+の後についてる数字が20の大台に乗ってるよ。一部スキル効果も数字が8まで上がってる。

 いっやー、流石ガチの神器だ。攻撃力がおかしいしそれが更に上がっていくってどうなってんだ。ドロップ全ロストってマイナスはあるけど十分過ぎるわ。ワイバーンが一撃で、ぱぁん! した時は眼を疑ったよ。普通に戦ったら、私でもそれなりに戦いになるのに。

 え、一部スキル効果? そんなの【王権領域】に決まってるじゃないか。……特性のせいなのか何なのか、【吸引領域】もその範疇に入ってるけど。ぶっちゃけ1人の方が無敵状態のまま進める気がする。しないけど。


(まぁ問題は、こんなものを持ち出しても「問題ない」ってされた相手がいる、って事なんだけどな……)


 どよどよと動揺している護衛()の人達の前で、外行きの笑顔に隠してそんな事を思う。どう考えたってオーバーキルだろこんなもの。それがいくら緊急事態とは言え「使って良い」とか、普通だとどれだけ手ごわい相手なんだろうね?

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