第471話 18枚目:現状確認

 当然ながら、こういう事態に備えて中央からさほど離れていない場所に待機していたのだ。私も「第五候補」も、即座に『アウセラー・クローネ』としての拠点にさせて貰っているボックス様の領域へと移動した。

 ざっと掲示板を流し見た限り、第一陣と第二陣の中でもこれまでの大規模戦闘にもれなく参加していた人達が中心となって、てんでバラバラに混乱している第三陣の人達に行動指針を提示しているらしい。すなわち、腕に自信が無ければ中央部から離れる方向へ、積極的に参戦したいなら中央部の対レイドボスの拠点となる場所へ、生産職はスキル別の生産拠点へ、といった具合に。

 なお、その提示する中にしつこいぐらい「フリアドの運営は本気でやるぞ」という警告が挟み込まれている。何を、なんて、私からすれば聞くまでも無い。世界という舞台の……致命的なものまで含む、崩壊を、だ。


「徒人族の王国、その首都ぐらいはスタンピートで落とされても一切疑問が無いんですよね。理不尽だとは思いますが、その後の奪還戦まで想像余裕なんですよ。人間種族に限りませんけど」

「ほんとにね~。私がすっごい偶然であそこに行きつかなかったら~、アザラシちゃんたちは絶滅しててもおかしくなかったし~。海賊さん達から~、あのモンスターがあの辺り一帯を汚染してたかも知れないし~?」

「よっしゃ2人とも合流したな! 何? 運営のやらかし? あっはっは今更だろ。あのクランの手引きと仕込み有りきとはいえ、うっかり北国の大陸が滅び直すとこだったじゃんか!」

『うむ。そも、あのクラーケンとデビルフィッシュの時も大概であったからな。小細工付きとは言え、更地になりかけた渡鯨族の街がよくぞあそこまでの速度で再建できたものだ。さて、揃ったな』


 ここまでくると既にある種絶対の信頼だ。「こっちが下手を打てば必ずやらかす」という、本来の意味からすれば真逆の方向の。

 何故ならフリアドの運営が掲げるのは『自由』。それすなわち、「理に適った努力は報われる」という事だ。それが善い行いでも、悪い行いでも。邪魔、或いは正面から相反する別の努力がない限りは。

 まぁその真正面から喧嘩を売る形の「努力」をする奴らが居るから話がここまでややこしくなってるんだけどな! 関与してるっていう決定的な証拠をほとんど残してないから、通報もできないんだよ!


『召喚者全員に届いた知らせにはもう目を通したな? その上でまずは現状を確認しよう。パストダウン、頼んだ』

「はい。それではここまでの流れと現在分かっている情報を説明させて頂きます」


 何をどうやって作ったのか、艶消しの大きな黒い板……つまり黒板に、白いチョークを使ってテキパキ何かを書き込んでいくパストダウンさん。ん? あれは地図か? 中央部から周囲にある3つの人間種族贔屓の神々の領域までかな?

 で、推定“破滅の神々”の領域が、前に言ってた3分割×3エリアに分けられて……中央に丸。で、その丸の輪郭が太く強調されたって事は、あれが破壊不能属性の壁ってやつか。

 人間種族贔屓の神々の領域の中心部から、3分割されている境界線へと黄色いチョークで太い矢印が伸ばされる。そして破壊不能属性の壁と3分割されている境界線の接点に、赤いチョークで丸印。その丸印から同じく赤いチョークで破壊不能属性の壁の内側へ伸びる矢印が書き加えられて、パストダウンさんはこちらを振り返った。


「こちらはこの亜空間の中央部に存在していた“破滅の神々”の領域及びその周辺の略図です。その更に中心部分に空間がある事が確定したのが約7時間前、その内部へ進入できそうな場所の発見が約3時間前、そしてその場所に干渉する為の手段が発見されたのが先程となります」


 こちらもどうやって作ったのか、伸縮式のさし棒を伸ばしてその先で順番に、中央の丸、赤いチョークの丸印、黄色いチョークの太い矢印を示してそう説明してくれるパストダウンさん。あ、あの境界線に入り口があったのか。

 当然そこは特別濃度の高い黒い霧で埋まっている筈だから、それをどうにかするのが外部からの干渉、つまり人間種族贔屓の神々の力だったってことかな? 対応している神話じゃないけど、干渉自体は出来たらしい。


「“破滅の神々”の領域においてその領域を区切る役割を果たしていた濃度の高い黒い霧ですが、間に挟まる形になっている強大なモンスターを討伐した上で外部から力をかけると、その隙間を埋める形で動く事が確認されました。外部からの力は強い秩序属性の神のものであれば良く、強大なモンスターが復活すると、強制的に元の形に戻ることが確認されています」


 秩序属性だったら大丈夫なようだ。まぁそれぐらいアバウトにしないと話が進まないか。特攻が乗ったりはするかも知れないけど、まだ別の大陸に封印されてたりしたら本当に対策が一切できないし。

 でも所謂ゲートキーパー或いはエリアボスを倒してその隙間を埋めるって事は、実質応援経路が寸断されるんじゃ? と思った私は正しかったらしい。もちろんのんびり鱗を燃やしている暇も無いので、実質死に戻り以外に脱出する手段は無いようだ。

 だから、ボスモンスターの復活時間である3時間のインターバル。それに合わせて応援部隊を編成し、倒すと同時に一気に内部に突入する事で応援としているんだそうだ。撤退する場合は、その応援と入れ替わりに出て来ればいい。


「召喚者全員への連絡が届いたのが、中心部へ最初の一団が突入した直後であった事、及びこの中心部を囲む壁、仮称中心壁は一切の連絡手段が遮断される事から、中心壁の内部が主戦場となるのはほぼ確定です。また中心壁の内部には黒い霧は存在せず、地形も明らかに植生の異なる草原が広がっているという目撃情報から、中心壁内部は「異なる理」の支配下にあるものと思われます」


 まぁそれも大体分かってた事だ。ていうか、正直そいつしかいないよねって話だし。しかし植生が異なるのはともかく、草原か。システムメールでも「非常に多くの配下を召喚します」ってわざわざ書かれてたから、どちらかというと「第四候補」に近いタイプなのかもしれない。

 となると問題は、「非常に強大な魔力」はともかく「多様な復帰手段」だな。死ぬまで殺さなきゃいけない召喚型とか厄介どころじゃないぞ? 手間取ってる間に復活回数が回復するとかだと最悪を通り越して最低だ。地形ごと殲滅しても倒しきれるか怪しい。


「現在中心壁内部の探索が進められていますが、どうやら最低でも『スターティア』以上の広さがある事、遠目にも分かる構造物が複数確認されている事、スキルによる中心壁より高い位置への移動が不可能である事、そして内部にはクレナイイトサンゴに類する特性を持つモンスターが多数存在してる事。これらが現状で判明している情報です」


 ぱちん、と伸縮式のさし棒を手の中に収めて、静かに一礼するパストダウンさん。ここまでが前提情報って訳だな? おーけー、理解した。

 さて問題はここからどう動くかだが……どうしような?

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