第455話 18枚目:領域の場所

 どうやら流石に緊急事態という事で、午後のログインは『アウセラー・クローネ』のメインメンバーが勢揃いするように調節されていたようだ。間もなくやって来たスピンさんからカバーさん達の指示を貰いつつ、クランメンバー限定の広域チャットのような物で作戦会議である。詠唱と会話とで結構忙しいな。

 まぁそれぐらいはしないと最悪間に合わないって事なんだけど。何にって? あのゲテモノピエロがやらかそうとしている「何か」だよ。


『で、結局スタンピートの原因って分かったんだっけ?』

『原因も理由も分かってないから問題なんですよ』

『今のところ分かっているのは、本来の内部に位置する場所でも空間が広がっていたという事だけであるな』

『あ~、「本来の外縁」に位置している神様達の領域が~、中心に近づいてるって話ね~』


 この辺りは初耳なのでちゃんと聞いておく。まぁティフォン様達だけじゃないか。“光輝の神々”に対応する神々は邪神だったけど、“叡智の神々”と対応する神々は普通に別系統の神話扱いだったみたいだし。

 たぶん他にもいるだろうしな。主に地母神系に属する神話の神々が。恐らくその辺りの神々が「本来の外縁」を守ってくれているのだろう。


『なーる。……うん! 順当にヤバいな!! そう言えば中央に元凶が居るって言ったけど、そっちには何か変化無いの?』

『外縁部にも勝る程のモンスターの群れが湧き出してきておるせいで、碌に調査も出来ぬとの事だ』

『とっとと外縁部の群れを殲滅して、中央に加勢するべき……というのは分かっているんですが、それが出来たら既にやっているという話ですし』

『そうなのよね~。まあ~、ある意味終わりは見えているみたいだから~、そこまで頑張ればいい話なんだけど~』


 終わりとは、当然あの陽炎の幕の様な壁……世界の端だ。流石にあの向こうからモンスターが出現して襲ってくるって事は無い(筈な)ので、現在モンスターの湧きが止まっている「本来の外縁」に位置する神々の領域まで端が到達すれば、恐らく一旦「外側からの」スタンピートは止まる。

 その後内側に残っていた難易度ヘルモードな「不安定な領域」を攻略するか、そこから湧き出すモンスターを倒し尽くす事でこの特殊な試練という名の亜空間が本来の大きさに戻る筈だ。


『問題は、その後であるな。いや、本題は、と言うべきか』

『あーまーそっかーそうなるよなー。それでもあの空間の歪みってのは尽きないだろうけど、中央の元凶が一生懸命消化してくれるんなら集中できるもんな?』

『もしくは~。中央に集中してね~、っていう、メッセージかも知れないけどね~。メッセージじゃない場合もあって~、そっちは問題っていう話なんだけど~』

『そもそも違和感だったんですよ。あいつらが信仰している邪神の領域が、これだけ全域を探索しても見つからないっていう時点で』

『そうであるな。管理割合はともかく、絶対値は相当に高かった筈である。であるなら、少なくとも1ヵ所ぐらいは見つかっていなければおかしい……ので、あるが』

『そういや目撃情報も発見報告も聞いてないな? え? 嘘だろ? これだけの人数動員して、それでも結構な広さがある筈の邪神の領域が見つからなかった訳?』

『そういう事なんですよ』

『そういう事よね~』

『わーお! 絶対にヤバいやつじゃんそれ!!』


 だから頭抱えてるんだろうが! と内心でツッコミつつ、指示が来たので詠唱からの壁系魔法設置。ちら、と視線を向けた先に見える世界の端は、とりあえず現時点だとまだ動いたようには見えない。

 流石にでかすぎて距離感狂ってるって言うのもあるだろうけど。でも午前中から午後までの変化を見るに、明日にはもう「本来の外縁」まで戻るんじゃないか? それでもおかしくない程度のモンスターは倒してるし。正確な数は見れてないけど。


『え? マジで? つーかそれ今でもまだ見つかってないの?』

『私は聞いていません』

『私も聞いてないわ~』

『我の方にもそれらしい話は届いておらぬ』

『うっそだろマジか!! けどでもそれじゃ、一体何処に居るってんだ? 少なくともここ、浮島は無かったよな?』

『そうであるな。そして、あくまで確度の高い推定でしかないが、地下でもないであろう』

『……あら。あらあら、あら~。当然だけど~、他の神様の領域じゃあ、ないわよね~。樹の上とか~、谷の底とか~』

『……この亜空間の中で、誰もしっかりと確認していない場所、という意味では、あそこしかないのは分かるんですが』

『うん??? ……あっ、察した。分かった。分かりたくなかったけど!』


 そうなんだよ。

 ……そうなんだよ。

 何となく、今までの行動と、手段と、手札を見て、薄々そんな気はしてたけどさ。


『中央とか!! 元凶と仲良しかよ!!』

『クレナイイトサンゴを自在に操ってた時点で何となく察してました。だってあれモンスターでしょう。何でテイムせずに指示が通るんですか』

『渡鯨族の港町及びその周辺に仕掛けられていた、あのクレナイイトサンゴを強化する仕掛けもそうである可能性が高いな。クレナイイトサンゴへの邪神の加護の付与辺りで縁が出来ていたのであろう』

『北国の大陸でも~、現地の神様を生贄にしかけたとは言え~、大量のモンスターを喚び出してたわよね~。その後の~、3つの町では普通に邪神の眷属だったけど~』

『そう言われればそうだな!? モンスターの元凶とずっぶずぶに仲良しでなきゃ全部出来ないやつ!!』


 って、事だ。

 ガチで世界を滅ぼす為に、あいつら。

 本当に本気で取り掛かってる分、手段を択ばず。



 敵の敵とも、手を、組んだらしい。

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