第454話 18枚目:大仕掛け
土曜日だったので午前中からログインしていたが、もちろん昼前になれば一旦ログアウトしなければならない。まぁその辺カバーさんが上手い事調節してくれているので、戦略的には大丈夫だろう。
学校も始まっているし、1月とはいえすっかり日常だ。なので普通にお昼を食べて、カバーさんから再ログインの指示があった時間まで外部掲示板を眺めて過ごす。
うーん、主に第三陣の人達の混乱がすごいな。1月1日から連続でログインし続けている気合の入った人はやはり一部であり、事情によって参戦が遅れた人はかなり厳しいだろう。
「何せ容赦なく巻き込んでくるからな、運営は。プレイヤー全体を」
しかも今回の場合、イベントには実質強制参加だから逃げようがない。つまり下手すれば、ようやく初ログインだ! ってとこであの大規模スタンピートに襲われる訳だ。クレームとかが殺到してなきゃいいけど。
……あとは、まぁ、うん。公式マスコットの取り扱いについて再度周知されているのは、あの時の態度を見るだけでもしょうがない部分があるかな、って……。
だって私も流石に、
「その辺も『自由』と言い切ってる運営だからなぁ。慣れるか諦めるしかないという……」
嫌なら来るなという強気のスタンスがフリアドの運営だ。今回の第三陣に合わせて課金アイテムも増えたみたいだけど、クランハウスに飾る事が出来るアイテムや装備を特殊な色に染められる染料とかで、やっぱり強さに関するものは無い辺りでよく分かるだろう。
前よりは魔物種族プレイヤーに優しくなった気がする掲示板を眺めながらそんな事を呟いていると、カバーさんに指定された時間になった。外部掲示板を見る限り戦況に大きな変化は無いようだけど、どうなったかな。
という訳で、ログイン。小部屋は基本的に早い者勝ちなので、私は変わらずあの小部屋を使っている。今回はすぐ部屋から出ればいいらしいので、起きてすぐに扉から外へ出た。
「やぁマスター、おはよぅ」
「おやルディル。おはようございます。戻って来たんですか?」
「うーん、戻って来たというかぁ……まぁ、戻って来たでいいのかなぁ」
「?」
身長が私とあまり変わらない見た目素朴っ子は、うーん、と考える様子を見せてそんな事を言っていた。え、どういう事? 確かルディルはポーション作りで中部屋にほぼ缶詰になってたよね?
とりあえずそんな微妙な反応をしたルディルに連れられて、ボックス様の領域の屋上(?)へ移動する。何事? と思いながら連れられた先では、相変わらず地表を埋め尽くすモンスターの群れと、それに対して戦っている
これだけならログアウト前と変わらないし、ルディルがあんな妙な態度になる理由にはならないと思うんだけど……。と思いながら、視線を一度遠くに向けて、ぐるっと見回してみた。
「……あれ?」
「やっぱりマスターはここからでも気づくよねぇ」
「え。って事はあれ、見間違いとか目の錯覚とかじゃないんですか」
「残念ながらねぇ。アタシが居た場所も、あれに呑まれかけたから慌てて内側に避難してきた訳だしぃ」
「うわそれは。通りで内部が前にもまして慌ただしいと……」
確認のためにルディルを振り返ると、普通に肯定が返って来る。それに改めて視線を遠くに、拡張された外縁部へと向けた。
この場所は神々の力を集めて作られた特殊な試練という名の亜空間であり、その端は左右と上にどこまでも広がる陽炎の幕の様な壁で区切られている。この幕に近付こうとすると、一定距離以上は逆方向に進まされて近寄れない。これは確認していた。
だが、だ。今いる場所……ボックス様の領域は、そんな外縁の端からはそこそこ遠かった筈だ。なにせ振り返れば私の視力ありきとは言え、ティフォン様こと“細き目の神々”の領域が見えるぐらいの距離だからな。
あの火山山脈という感じの領域は「本来の外縁」を表し、つまりそれより外側は集められて詰め込まれた空間の歪みによって、後から拡張した場所だという事になる。
で、何が見えたかって言うと……その、外縁を表す筈の、陽炎の幕の様な壁だ。天の果てまで伸びるような不思議な境界線が、ステータスの暴力である私の視力でとはいえ、目視できる距離にある。
ログアウト前は絶対にそんな事は無かった、どころか昨日までは、毎日のように外縁が遠ざかって行っているほどだったのだ。それが、このスタンピートが始まってこっち、内側に寄ってきている、という事になる。
「……いえ。理は通ります。これだけモンスターが発生していれば、それだけ大量に空間の歪みは消費されている。そもそもティフォン様達の領域から外側は、空間の歪みを詰め込んで拡張された部分。中の空気が抜ければ風船はしぼむのと同じことですし」
「それはあの御使族の人も言ってたよぉ。後ねぇ、“神秘にして福音”の神の領域もぉ、あの境界線に呑まれた分は、他の場所に回してるみたいだねぇ。中に逃げ遅れた人が居ても、一緒に別の場所へ送ってくれるみたいだよぉ」
「流石ボックス様ですね。逃げ場が無くなる分だけ避難所を広げて、かつ最終脱出も手伝ってくれるとか相変わらず最高です」
まぁ、理は通るんだ。そもそも亜空間が広がっているって事と理屈は一緒だから。広がるんならしぼむだろう。これは分かる。
問題は、この大仕掛けが運営の想定通りなのか……あのゲテモノピエロの影響か、って事だ。
もちろん全部が全部ゲテモノピエロのせいとは言わないし思わない。流石に無理がある、とは思う。だから、大仕掛け自体は運営が用意したものだとは思うんだ。
「……
「それもあの御使族の人が言ってたよぉ」
どうやら「第一候補」と懸念の共有は出来ているようだ。まぁ渡鯨族に関するものから始まった一連の騒ぎや、北国の大陸でやらかした内容をちゃんと知ってれば普通に想像つくか。
さてそれじゃ、それをどうにかする為に私はどう動けばいいのか、その辺指示を仰ぐとしよう。
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