第456話 18枚目:状況進行

『とは言え、我らのやる事は変わらん。全ては外縁部及び周辺部のモンスターを片付けてからだ。でなくては、中央との挟み撃ちになってしまうであるからな』

『どう挽回すればいいのかすら分からない話ですね、十分にあり得ますけど。で、その中央を押さえている方は大丈夫なんですか?』

『大丈夫みたいよ~。中央を囲むようになっている神様の領域は、規模が大きいから~。強い人が加勢してくれるみたいね~』

『あー、あのいちゃもん付けて来た奴とかか。まぁ戦力的に問題ないなら大丈夫だな。加勢に行っても追い返されそうな気がするけど』

『その場合は他でどうにか空間の歪みを削るよりあるまい。ま、我からも釘を刺しておいたし、必要であれば再び“天秤にして断罪”の神に伺いを立てるつもりである』

『あれだけ特大のペナルティ食らって、その隙を突かれて滅茶苦茶にされた以上、多少なりと反省しておいて欲しい所ですが』

『まぁ~……3つの町を滅ぼそうとしたのも~、今の所、人間種族だって話だしね~。流石に~、これ以上まだやるなら、庇い様が無いんじゃないかしら~』

『今ならそれなりの数の召喚者にもそっぽ向かれるだろうしなー。流石にそろそろヤベーって気づくんじゃね? 気付かなかったら、うん、それはもうしょうがないよな!』


 という訳で、カバーさん達が調節してくれたスケジュールに従ってログインとログアウトを繰り返した午後一杯。流石に夕方頃になると、遠くに見えている世界の端である陽炎の幕の様な壁が近付いているのが分かった。

 それでもまだまだモンスターが尽きる様子は見えない。これは明日と言わず、今週の半ばくらいまではかかるか? 週末が終わってしまうと一気に動ける時間が減るんだけどな。


「まぁ指示待ちの時間はインベントリの整理に当てられますが……しかし素材がすごい量に」


 なお私は【解体】を持っているので、ドロップアイテムは通常より少なくなっている。のだが、どうやら【解体】を持っていても相手が一片残らず消し飛んだり、今回のように乱戦の中で原形を留めなくなったりした場合は【解体】のレベル依存である程度の素材が手に入るようだ。

 だから戦い方の関係で、どうしても綺麗で大きな皮が手に入らない! という場合は、もういっそ一気に吹き飛ばしてしまった方がワンチャンあるという事になるらしい。もちろん首を落とすなり心臓をぶち抜くなりして綺麗に倒せば確実なのだが。

 しかしどうするかなこの素材の山。ある程度武器の形にした後で、ボックス様の神殿からレベルの高いモンスターと戦える試練にするべきか? ワイバーンの上位種とかどんな感じになるんだろう。


「……普通に野生の竜になるような気もしますが。もしくは変異種とか、西洋竜から東洋龍になる可能性も?」


 まぁその目当てはお肉なんだけどね。ワイバーンテールステーキ、大変美味しゅうございました。あ、思い出しただけでよだれが。いかんいかん。

 けどデビルフィッシュとクラーケンの一例から考えると、強い奴ほど美味しいっていうのがどうやらフリアドの基本らしい。って事は、あのただでさえ超絶美味しいお肉の、更に美味しいやつが……?


「どうせ大型ですし、ティフォン様やエキドナ様やボックス様に捧げる分を除いても結構食べられる筈ですよね……」


 うん。イベントが終わってからの楽しみが増えたな。それに試練で出てくるなら亀ドラゴンだって倒しても構わないだろうし。今入った素材にも「ロイヤル・カウの骨」とか美味しそうな名前が見えるから、頑張るか。




 で、夜のログイン。


「…………???」


 何故かいつもの起きる感覚の前に夢を見るような感じで、ティフォン様が何かそこそこ大きなものを陽炎の幕の様な壁にぶん投げ、良い笑顔でこちらにサムズアップする、という映像を見た。何だあれ。

 種族スキルと「月燐石のネックレス・祝」で、私の状態異常耐性は相当に高い。つまり害意ある精神干渉はほぼほぼ考えられず、順当に考えればティフォン様からの託宣って事になるんだろう。が、意味が分からない。何だったんだあれは。

 たぶん、ティフォン様と同じ事をすればいいんだと思うんだけど……何かを、世界の端である陽炎の幕の様な壁にぶん投げる、って事、だよな? 問題は何を投げるのかって話だが、夢? の内容をよくよく思い返してみると……該当する物が、2択までは絞れた。ただしそのどっちかは分からない。


『……すみません。今、宜しいですか、「第一候補」』

『うむ? どうした「第三候補」』


 とりあえず神様関係ではあるな……と判断して、部屋から出ながら「第一候補」にウィスパーを飛ばす。向こうも忙しいだろうに、怪訝な声をしながらもすぐに応じてくれたのはありがたい。

 なので、かくかくしかじかとさっき夢? を見た状況と、夢? で見えた映像をそのまま言葉にして伝える。そして2択までは絞れたことと、そこからが絞れない事を伝えた。

 ふむふむと真面目に聞いてくれた「第一候補」は、最後に、うーむ……と考える間を置いた。


『……まぁ、確実に言えるのは、それは間違いなく“細き目の父にして祖”からの託宣であるという事であるな』

『ですよね』

『そして、出来ればそれを実行した方が良いというのも、まぁ間違いあるまい。神にとってか、召喚者にとってか、「第三候補」にとってか、或いはその全てかは分からぬが』

『だと思います』


 ここまでは認識の共有だ。ここでもう一度、うーむ、と考える間をおいた「第一候補」。うん。問題は、次なんだよな。


『……「第三候補」』

『何でしょうか』

『今持っているのは、どちらだ?』

『……どっちも持ってます。共に複数』

『そうか……』


 生産作業をしていた間も、召喚者プレイヤー組が揃ったら探索はしていた。それは当然私の身体能力系のスキルを上げる為の訓練であり、冠付き素材を探す為であり、「異なる理に汚染された」構築物を手に入れる為だ。

 やはり「特殊な捧げもの」とは冠付きアイテムの事だったようでそれも集めていたが、そうなると当然、あの特殊なダンジョンにも挑戦するし、挑戦するからにはクリアするし、そうなれば「大神の祭壇」か、「空白の祭壇」が手に入る訳で。

 ……生産作業で忙しかったから、「第一候補」に渡す事も出来ず。何故か大神殿の倉庫にも入れられなかったので、インベントリに放り込みっぱなしなのだ。


『……見た目では区別がつかぬからな……』

『そうなんですよ……』


 で、この2つ。……見た目が、本当にそっくりなんだよな。

 正直【鑑定】無しじゃ区別はつかない。他の神の祭壇ならもうちょっとこう、色とか神のシンボルとかで見分けられるんだけど……。対応する神が無い祭壇と、神の気配を可能な限り消した祭壇だから……。

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