第447話 18枚目:祭壇の用途

 クランメンバー専用掲示板で「第一候補」から2種類の祭壇を手に入れたら試してほしい事の一覧が共有されている。一部は既に埋まっているがまだまだ空白の方が多いその一覧の内、まず最初に試したのは管理者がはっきりしている領域に設置することだ。

 ティフォン様の火山とボックス様の屋根の上で何の変化も起こらなかったし、その後で祭壇は回収できたので、これは影響なし。続いてイベント品を始めとした装備を乗せてみる。これも変化無し。この亜空間の中で採れた冠付きアイテムを乗せてみる。変化無し。

 まぁそうそう変化があったら困るか、と、簡易大神殿に持ち込んで設置してみると。


「……何か光ってますね?」

「光っていますね。しかし【鑑定】では変化が確認できませんので、恐らく1つでは足りないか、何か別途条件を満たす必要があるのでしょう」


 とりあえずその結果は、自らぼんやりとした光を纏う祭壇のスクリーンショットと一緒に一覧へ書き込んでおく。

 ちなみにその状態で装備や冠付きアイテムを乗せてみても変化は無かった。他の神のシンボルを乗せても祈ってみても変化無しだ。何だろうな? まさか流石に光るだけって訳じゃないだろうし。

 しかし光ってるよなぁ。他に何か、祭壇で出来る事なかったっけ。


「大神の試練に行ける。……という訳では無いようで。では“中立にして中庸”の神の試練に行ける。……訳でもないと」


 そういう訳でもないようだ。とりあえずこれも書き込んでおく。公式マスコットは今の所イコールで特級火力だから、その難易度で一気に空間の歪みを減らす試練ダンジョンが出るのかとも思ったんだけど。

 そしてそれを書き込んで更新すると、「第一候補」から調査結果が追加されていた。あ、うん。色々乗せてみたり祈ったりするのはもうやった。入れ違いになっちゃったな。これはそのままでいいとして、新しい調査項目が増えてるんだけど……。


「………………」


 ……これは、ちょっと、大分、心理的抵抗があるんだけど。だって、どうなるか分からない訳じゃない?

 いや、「第一候補」が一覧に出したって事は、悪い事になる可能性は低い、ん、だろうけどさ。それでもちょっと、これは……かなり葛藤があるな!?

 いや、分かる。分かってる。この条件を満たすとするなら私ぐらいで、私以外だと使徒生まれの皆の生来武器ぐらいしか無いって。無いのは、分かってるんだけど……!


「……非常に上等な捧げものをしたという扱いで、権利と発言権強化と引き換えに消滅……はまぁ良しとして……。……非常に上等な捧げものへの変換……も、まぁ良いとして……。……別の物にガチャる、っていうのが最悪ですね……。いえ、ボックス様の事ですからどんな物に変わろうとも最高ではあると思いますが」


 うーんうーんとその場でたっぷり10分は頭を抱え、気分転換という名の現実逃避でログインしてきたソフィーナさんにおやつをねだり、ゾンビからの脱出劇の話をしたりなんかしてお茶すること30分。【人化】を解いてもふらせてほしいという手からルドルが逃げ回るのを眺めて20分。

 1時間を時間稼ぎと現実逃避に溶かして、再び簡易大神殿で光っている「大神の祭壇」の前に戻ってきて、更にそこからがっつりと20分ぐらいは悩んで、それでもなお調査項目一覧に変化が無い事を確認し。


「……何も……何もない可能性も十分に有る訳ですから……。消滅さえしなければ良いんですし……。消滅してもそれがボックス様の為になるなら問題ない訳で……」


 そこから自分を説得するのに更に10分ほどをかけて……深々と長い息を吐いて、手を自分の首元にやった。そこには当然、装備から外すなんてそもそも選択肢のない神器である「月燐石のネックレス」がある。

 ……「第一候補」からの調査項目一覧に追加された中にあったのは、「祭壇に神器(装備品)を乗せる」だったのだ。きっちり装備品と書いてあるあたり、「異空の箱庭」ではダメか、もう試したのだろう。

 で。『アウセラー・クローネ』の中でも正真正銘の装備品型神器を持っているのは、多分私だけだ。「第一候補」は……本人がまだ【人化】出来てないから、神器自体は持っていても装備品じゃないって可能性もあるし。


「何も起こらない可能性も十分有る訳ですし……。ボックス様の神器であって大神の神器では無い訳ですから……。他のアイテムにも一切反応は無かったんですし……」


 更に外すまでで5分ほどかかり、外して手に持ってから更に5分ほど葛藤し、未練と不安がたっぷりな状態で、光っている「大神の祭壇」へ「月燐石のネックレス」を乗せるまでに、牛歩の速度で10分ぐらいかかった。

 何も起こるな。何の変化も起こるな。と念じながら祭壇に乗せて、手を離し、数歩下がった所で。


「――だろうと思いましたよ!!」


 ッパァアアアアアア!! と光り輝きだした祭壇に、目を庇いながらもそう叫んでしまったのは、まぁ仕方ないだろう。だってフラグを立てまくった自覚はあるからね。

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