第446話 18枚目:目標確保

「[火の粉たりとて命を焼き尽くす炎よ来たれ]――」


 全力で走る皆の最後尾についていきながら、後ろ向きのカーソルと頭上に構えられた劫火の剣を維持する。そしてようやく出口に辿り着いたのか、私の前を走っていた足音が左右に分かれた。

 私はそのまま走り抜け、高くとも存在していた天井が無くなった瞬間、だん! と思い切り地面を踏み切って跳躍。一気に何メートルも高さを稼ぎ、くるりと身を捻って、自分が出て来たばかりの洞穴とその周囲を確認。

 左右に分かれて逃げた全員が十分な距離を離している事と、洞穴からドバァッ! とばかり雪崩を打って出て来た腐った動く死体……ゾンビの群れを確認し。


「――[レプリカ・レーヴァテイン]!!」


 轟、と燃え盛る赤い炎で出来た巨大な剣を、その洞穴へと、叩き込んだ。

 ドッゴォォオオオオオオ!! と一気に空気ごと何かが燃えていく盛大な音に混ざって、ア゛ァ゛ア゛アアアアア――……!! という呻き声が聞こえた気もするが、【飛行】を意識して少し離れた所に着地を決めた私に正直余裕はない。

 そしてその余裕が無い、というのは、いつもの私を最後方とした陣形を整え直す皆にも言える。さっき全力で走ったからじゃない。あの洞穴の最奥に到達してから今全力で脱出するまで、全力で走りながら文字通り息つく間もない程の密度で戦闘していたからだ。


「これで燃え尽きるといいんですが。あのガスを溜め込んだ個体とか派手に誘爆してくれませんかね」

「そんな事になったらまた地形を壊した扱いになりそうだけどな」

「今回は致し方ないでしょう」


 流石エルルと言うべきか、私以外だと一番余裕がある。もっともエルルも、折れた大太刀の本数がすごい事になっている筈だ。スタミナ的な意味ではなく、装備的な意味での余裕は似たような物だろう。

 今の強化回数は確か、12月の試練ダンジョンをヘビーローテーションしてた時に上弦って言ってたから、7回目かな? 流石に1回本気で振ったら即折れるって程じゃなくなったみたいだけど、それでもまだ割とバキバキ折れるらしい。

 しばらくそのまま警戒は維持して、炎が満ちたせいか炉にも見える洞穴の様子を窺う。道中で見た限り、火属性が共通の弱点だった筈だ。それがここにきて高い耐性を持った奴がいるとは、まぁ正直思いたくない。


「ひぃ、ひー……さ、流石に、第二ラウンドはきっついっすよー……?」

『その場合、周辺被害も大変な事になりそうですけどねー……』

『そりゃまぁ間違いなく、あの洞穴の深さ分だけはあるクレーターが出来るだろうからぁ、軽微とは口が裂けても言えないと思うよぉ』

『周りも吹っ飛ぶ……かも』

『いや間違いなく吹き飛ぶだろそれは。どこまで影響が出るか分かったもんじゃないぞ……』


 フライリーさんに抱えられたルチルとルディル、カバーさんに抱っこされたルシルとルドルが顔を出して一緒に様子を窺う。うん。確かにこれ以上はちょっとな。これで決着がつくんならそれに越した事はないんだ。

 ……というのが伝わったのか、間もなく洞穴の中を焼き尽くしていただろう赤い炎は鎮火していった。だけでなく洞穴自体が崩れるようにして平らになり、最後に、ぶわっと光の粒を纏った風が吹き上がっていった。

 その演出に紛れるようにして、半実体な輪郭から滑らかに実体を持った、そこそこ大きなものが出現する。


「……祭壇の出現を確認。全部焼けたみたいですね」

「いやはや、難易度が高いとは聞いていましたがここまでとは」

「臭いししぶといしキリが無いし、酷い目に遭ったヨー」


 それが何かを確認して緩く息を吐くと、カバーさんもルシルとルドルを地面に下ろしてくれた。その言葉に、ようやく緊張が解けたのか、ぷしっ、とくしゃみをしたルウが続く。

 うん。「第一候補」から聞いてた、複数の管理者が曖昧な領域を攻略したら出てくるって言う洞窟にチャレンジしてみたんだよ。ソフィーさん達はちょっと都合が合わなくて不参加だ。

 行きはまぁまぁ普通のダンジョンって感じだったんだけど、深度的な物が結構深くてさ。マッピングをしっかりしていったもんだから、結構時間かかっちゃったんだよね。


「しかし時間をかけてもちゃんと調べながら進んで良かったですよね本当に」

「そうですね。あの状態で行き止まりに追い詰められていたら、全滅か生き埋めか、広域地形破壊かの三択だったでしょうし」

「生き残る選択肢が1つしか無いんだが?」


 で、まぁそれでも何とか最下層だと思う場所に到着したんだよ。で、そこにあったどうにもボス部屋っぽい大きな扉を開いて、その中に入ってみたら……その、うん。そこに待ち構えてたのが、所謂ドラゴンゾンビってやつでね……?

 まぁそれだけなら何とでも出来たんだろうけど、ダメージを与えるとその分だけ種族不問のゾンビを出現させるし、結構効果量の高いリジェネも持ってたみたいでさ。削りダメだと体力を削れなかったんだよ。

 んで方針変更して、カバーさんが【鑑定】で確認したHPと私達の攻撃力を計算してくれて、大体確実に削り切れる攻撃を選んでくれたんだよね。オーバーキルすると周りの地形が壊れるから。


「で、エルルとルシルが叩き込んでから私が魔法を撃ったら……たぶんあれ、変身とかじゃなくてちゃんと死にましたよね?」

「第二形態ではなく、柱でもあったボスを倒したことで崩壊するこの場所から逃げ出すステージへ切り替わったという感じですね」

「あ、何となく分かるっす」

「分かるのか」


 そういう訳で、流石に機動力優先って事で私のバフを解禁、先頭をエルルが切り開いて最後尾の私が後続を振り払い、カバーさんを間に入れてナビして貰って、フライリーさんとルウが横道からの相手を吹き飛ばすという形で一気に駆け抜けたのだ。

 いやー数って力だよね。スピードはあっても防御力が無いと実質面攻撃になってるあの攻撃密度は耐えられないし、防御力があってもスピードが無いと埋もれて終わる。だから少しでも人数を減らして攻撃を受ける面積を減らす為に、4人には【人化】を解いて貰った。

 で、何とか辛くも脱出したのがさっき、という訳だ。脱出までがステージなんて聞いてないぞ?


「でもルチル先生もルディルさんも、先輩がブラッシングしてるからかめっちゃ抱き心地良いんすけど」

『ちょっとくすぐったいですねー』

『あんまりお腹を押さえないでほしいなぁ』

「ぐふっ。すんませんっす、下ろします」


 今のフライリーさんが【人化】を解いた2人を抱えると、特大のぬいぐるみを一生懸命抱える小さい子になるんだよな。可愛い。ソフィーさん達が居ればスクショ連打になっていただろう。

 後でカバーさんに確認してなんなら個人用で貰おう。と決めつつ、出現した祭壇に近寄って【鑑定☆☆】だ。


[アイテム:大神の祭壇

説明:祈りの先が大神となっている祭壇

   このまま祭壇として扱うことは出来ない]


「……はい、確認しました。「大神の祭壇」ですね」


 無事確認できたのでそのまま持ち上げてインベントリに入れる。結構な重量物だが、私にとっては問題ない。しかし何の情報も無いな。シンプルにもほどがある。

 色々予想外はあったが、どうにか「祭壇の発見と確保」という探索目標は達した筈だ。もちろん他にも祭壇はあるだろうが、とりあえず1つという事で。

 そこで改めてイベントページを見てみるが……変化は無いな。目標を達成するだけではダメなのか、あるいは確保した後は自分達で試行錯誤しろという事なのか。とにかく情報が足りない。


「まぁとりあえず色々やってみましょうか。……その前に、今回は一度撤退しないとあれですけど」


 ……ゾンビの群れを突っ切ってきた訳だけど、流石に臭いがついてたりはしないよな?

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