第417話 17枚目:新人勧誘

 そして『バッドエンド』のやらかしをどうにか片付け終えて、何とかいつもの時間にログアウト。翌日はようやくの終業式だ。こんなに長期休みが待ち遠しいのは初めてじゃないだろうか。

 幸い私の通っている高校の校長はそんなに長話をするタイプでは無いので、全校生徒が集まる集会はおおむね時間通りに進んでいく。冬休みの予定と学校施設の使い方についての説明が終われば解散だ。それでもしっかり午前中は消費されるのだが。

 流石に今日フルログインする事は出来ないが、それでもいつもの倍はログイン出来る。と、遊びに誘ったり誘われたりする程の友人がいる訳でも無いのでさっさと帰宅だ。


「あっ、ちょ、ちょっと待って。待って和光なぎみつさん!」

「え、何」


 ……ちなみに、微妙に難読なこの名前は私のリアル苗字である。書くのは楽だが発音がそこそこ難しい。自分でもよく噛むので、この苗字を考えたご先祖さまには若干苦情を申し入れたいところだ。

 さて私の苗字はともかく、何故呼び止められたのか。移動教室の移動中やグループワークなどになれば話ぐらいは普通にする、ぐらいのクラスメイトに呼び止められて改めて教室を振り返ると、何故か、クラスメイトの半分弱ぐらいが一か所に集まっている。

 どうやらそちらに招かれているらしく、その中心にいるのが、推定フリアド第一陣の男子生徒グループ……とまで何となく分かった所で、首を傾げた。


「ちょっと今日は、急いで帰りたいんだけど」

「和光さんはいつもの事じゃない。今日だけ! ね!」

「えぇ……」


 いやまぁ確かに元々帰宅部で寄り道もした覚えは無いし、フリアドを始めてからはそれに拍車が掛かっていた気がしないでもないが……。いやほんとに、早く帰りたいんだけど。やる事が山積みなんだよ、フリアドの。

 と、強く振り払えればよかったのだが……生憎、フリアドをやっている事は秘密にしている。何せ私はゲームとリアルは出来るだけ分ける主義だからだ。知り合いの前でははっちゃけられない内弁慶とも言う。ちょっと違うか。

 何の用だと深く突っ込まれると誤魔化しきれないので、しぶしぶ、一番外縁を維持しながら近寄ってみて、その男子生徒グループの話を聞いて見ると。


「皆フリアドやるか? やるよな?」

「これでも俺達第一陣だから、育成補佐とかできるぜ!」

「最初のイベントだけ一緒にやって、後は好きにやるっていうのでもいいからさ」

「始まりの街で、合言葉決めて落ち合おうぜ!」


 ……他にも色々アピールポイントはあったが、おおむねこんな感じだった。えぇー。いや何となくそんな感じはしたけど、えぇー。

 何が困るって、他のクラスメイトがかなり乗り気って事だ。えぇー。何でリアルバレしてる相手とゲームするのが平気なの? 皇女ロールが知られたら恥ずかしくて不登校になりかねない自信があるんだけど。

 これが真のリア充、もしくは陽キャのコミュニケーション力って奴なのか……と内心慄きながら、私の方まで話が回って来た。いやどうしようかなこれ。かつてないピンチだぞ。助けてカバーさん。無理か。


「あー……と。ちょっと、余裕ない、かな」

「「「ええっ!?」」」

「いや、その、ほんと。今日も早く帰りたいんだって」


 ……「何で忙しいか」は言ってないので、ギリギリ嘘は言ってない。事実余裕はない。竜族の皇女以外で遊んでいる余裕なんて、無いんだよ……! 公式マスコットにもなっちゃったしな! 何せフリアド内の私は可愛いから!(やけくそ自画自賛)

 と、いう真実をまさか言う訳にもいかず、しかし当然その理由については突っ込まれる。この遠慮の無さ本当に同じ人間か? 何か適当に自分の中で理由付けて察した空気を出してくれないかな。

 というか最初から私は渋々な空気を出してたし、最初に一度断ってるだろうが……! というのは押し込めて、時間とか勉強とか、何故か家庭環境を心配してくるクラスメイト達の追及をかわす。何て無駄な攻防だ。早く帰らせてくれ。


「まさかあのCMを見てフリアドをやらない奴がいたなんて……」

「このクラスですら全員やるとは言ってないのに、何言ってるのかちょっとよく分からない」

「……いやまぁそりゃ部活とかやってたらやる余裕ないだろうけどさぁ。本当に面白いんだよ、フリアドは。他のゲームから乗り換える価値だって十分に有る」


 知ってる。よーく知ってる。だってフリアドが始まってからはそれに全力投球してるからな。夏休みの宿題を2年連続で7月中に終わらせる程度には。

 でも話からして君達人間種族プレイヤーだろ。そのままボリュームゾーンとして頑張ってほしい。特級戦力は特級戦力でしかどうにもならない事をやっておくから。


「ってか、まさか……和光、既にフリアドやってたりする?」

「え、何で」

「あ、いや、すまん。無いな」


 否定はしてないんだけど、間髪入れず返すと勝手に意見を引っ込めてくれた。帰っていい? いいよね? これだけ断ったんだからカウント外にしてくれ頼む。


「あー……じゃあ、しょうがないか。1月に新人キャンペーンもやるから、やるなら今なんだけどなー」

「忙しいから無理。ごめん」

「いーよいーよ。こっちこそ引き留めて悪かった」

「じゃ。また来年」


 よし帰るぞ! お札作りと薬作り作業が待ってる! ルディル達が過労で倒れる前に参加したいんだ!

 おー、とか、良いお年をー、という声を背後に教室の出口に向かう。ちょっと早足なのは演出的にも必要な動きだ。

 ……でも、その合言葉とやらだけは確認しておくべきだっただろうか。接触する時は気を付けるって意味で。


「それじゃ、俺達はログインして最初の街で、横断幕掲げてるからそれが目印な! 書いてある文章は「新人歓迎! クラン『可愛いは正義』へようこそ!」だ!」


 うん。

 そんな声が聞こえて、本気でこけそうになったよね。

 教室を出て、扉も閉めた向こうだったから、見えても聞こえてもいないだろうけどさ。



 実質私のファンクラブ所属だったのかよ!!

 世間は狭いって言うけど、バレなくて本っっっ当良かった!!!

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