第416話 17枚目:フォローワーク

 その後予定調和的に(?)町を囲む防壁の倍ほども背丈のある巨人サイズの異形が出て来たが、儀式として利用されるのは「町の中に着弾した魔法」に限られる。出て来て咆哮を上げた時点でその上半身吹っ飛ばしたけど何か?

 大丈夫。ちゃんとカバーさんに地形と方角確認してもらって、流れ弾が山とかに当たらないように調節したから。二次被害は出ていない。筈だ。たぶん。

 ちなみにその後も打ち上げとか調査とか色々やっていたらしいが、私はさっさと快適快速エルル急行でクランホームに戻っていたので知らない。


「本当に前には出てないんだな?」

「出てませんってば」

「本っ当に出てないだろうな?」

「だから出てませんって。流石に護衛対象抱えて突貫はしませんよ」


 ……エルルがかなりしつこく確認を取って来たが、前には出ていない。何せほぼずっとカトリナちゃんを背中に乗っけてたからな。カバーさんともずっと一緒だったからその辺ちゃんと証明できるぞ。

 え、ちょっと待って【王権領域】を張るのに皆で移動したのも前に出たにカウントされる訳じゃないだろうな。あれは不可抗力だぞ!? 「第一候補」からの指示だったんだし! それにちゃんと皆の後ろには隠れてたじゃないか!


「……なるほど。お嬢は自分が守ろうと決めた相手が近くに居たら無茶をしなくなるんだな」


 どうやらそれはセーフだったらしいが、何かエルルが変なこと覚えちゃったかもしれない。いや確かにあからさまに狙われる上本人に戦闘力が無い可愛い子が居たら、守るのを優先して前には出なくなるだろうけども。

 条件が厳しいから実質無理なんじゃないかな……と思いながらもなんとか帰ってきた訳だ。が。問題はここからでな?


「町が復興するまでに町の人達の治療。同じく町が復興するまでは食糧その他のお世話。その上次の召喚者が来るまでの間にここまでで積み上がった“破滅の神々”の貢献値を上回る必要があると」

「わぁ。全部あの神殿から行ける試練に挑む事で解決するっていっても、必要な回数が大変だって言うのは流石にボクにも分かる!」

「ははは全くです。ボックス様から周回できる神殿を頂いていて本当に良かったですよ」


 ストーサーを含む3つの町において、準聖地となった土地の除染()はこれからだ。が、神域に繋がる空間の穴を閉じ、儀式場としての要となっていた祭壇を破壊した時点で“破滅の神々”が司り管理する亜空間型試練の割合は、26%だった。

 ここからは流石に伸びないだろうと思うが、今までの積み上げから考えた絶対値を思うと塗り潰すのがどれだけ大変かは想像して余りある。まぁそれでもやらないという選択肢は無いんだけどな。

 人数が必要な、実質寝たきりの人の介護に近い実働は引き続き「第四候補」が行い、カトリナちゃんの引き渡しやその他諸々の調整は「第一候補」が担当。私達は主に物資の調達という面で働くことになる。


「といっても、私も生産側に回る必要がある程度には手が足りないんですけどね」

「えっそうなの姫さん?」

「そうなんですよ。虫下しも結局数が足りないままですし、通常の治療だとあの人数がこの先ずっと寝たきりになりますからね。神経を再生させる、特殊な治療が必要です。という事は、その特殊な薬の数も必要になる訳ですから」


 幸いというか何というか、そういう「特殊な薬」は【錬金】で作れるらしい。そう、今の所私が持っている生産スキルの中で、ほぼ一番レベルが高くなっている【錬金】だ。

 それに加えて(「第一候補」によれば)【符術】で私が全力を込めた回復魔法の札も併用すれば治療が上手くいく可能性が高いとの事。なので、私もちょっと試練への挑戦をお休みして生産を頑張る事になる。


「そっかー。それじゃエルルリージェと競争かー」

「エルルは料理が出来るので生産組ですよ」

「そうなの!?」

「さらに言えばルチルは「第一候補」の助手としてヒーラーとして動いています」

「そうなんだ!?」


 なので、試練ダンジョンに挑めるのは、サーニャ、ルシル、ルドル、ルウ、ルージュとなる。ソフィーさん達も便利スキルを持っているのでこっち側だ。フライリーさんも【軽量化】で活躍してるし、カバーさんは言わずもがな全体の調整役だし。

 もちろん町の人達の治療が終わり次第、順次イベントへと戻っていける予定は予定だが、何分後遺症がキッツいからな、クレナイイトサンゴは。そして治療が間に合わず「手遅れ」になったら敗北感が酷い事になるし。

 だからまずは治療が最優先。そこに突っ込めるだけのリソースと人手を全部突っ込んでしまってから、他を順次考えましょう、って感じだからな。もちろん役割分担はあって、それぞれにやる事はあるんだけど。


「その治療だって潤沢な物資ありきの話ですから、どちらにせよ治療と並行して試練へ挑む必要はあるんですけどね。調達と加工の、どちらにより人手が必要かという話なだけで」

「あぁそっか、普通は調達の方が大変だけど、あの神殿ならその心配は無いからか! よーし姫さんが大人しくしててくれるんなら頑張るぞー!」

「……だから、何でエルルもサーニャも、私が大人しくしているっていうのがやる気を出す理由になるんです?」

「普段の行動!! ボクが言うなって言われる気もするけど!!」


 …………そんなに胃痛行動ばっかりしてたかなぁ。

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