第414話 17枚目:一進一退

 私は、イベントに関しては特級戦力無しで解決できればそれに越したことは無いと思っているタイプだ。だって努力のし甲斐が無いじゃないか。それにイベントとは基本的に祭りだ。参加して楽しい人数は多い方がいい。

 とはいえ被害を出さない為に力が必要で、自分にその力があるなら躊躇いなく振るう覚悟は決めているけど。バグか偶然かミスかは分からないけど、この身体アバターを得たことに悔いはない。

 で。応援が来て、邪神の神域の「空気」をどうにかする目途がついて、何でそんな事を言っているかと言うとだな。


『……まぁ、そうなりますよね。何となく分かっていました』

「踏み絵、というのもどうかと思いますが、やはり信仰をはっきりさせる恒常的な手段は必要ですね……」

「んえ?」


 邪神の神域の「空気」は押さえ込めた。けど、だからといって邪神の眷属が弱ったり数が減ったりする訳じゃない。そして大規模な戦いになれば召喚者プレイヤー側にもそれなりに被害ってものが出る訳でだな。

 付け加えて言うなら、各クランに再び紛れ込んでいた邪神の信者こと『バッドエンド』の手先が裏工作してるもんだから、いつもより被害が出やすい部分もあっただろうし。

 信仰の判別、と聞いてまた半分寝ていたらしいカトリナちゃんが反応したが、もうちょっと寝てていいんだよ。眠い所を頑張って起きてる小さい子とか可愛いが? 理由はともかく。


『巨人が普通に出始めましたね。小型も素手だけではなく武器を持ち始めましたし。……まだ町を丸ごと吹き飛ばすのはまずそうですか?』

「この儀式は「現在進行形」というのが大神官さんの見立てですので、恐らくちゃんとした防御手段無しで干渉するのは危険でしょう」


 そういう事だ。出てくる奴のレベルが上がった、つまり、追加の生贄があったって事だな。まぁ完全に統率されている訳じゃない大集団同士のぶつかり合いだから、被害をゼロにするのは無理だろうと思ってたけどさ。

 ちなみに応援が来た時点で私達は場所を譲る形で下がっている。具体的には誘拐(救出)している間に潜んでいた森まで。町を包囲する形の召喚者プレイヤー達の動きが良く見える。

 なおルージュとルシルはそのまま参加だ。そこからちぃ姫を探そうとする動きもあるようだが、それは多分『可愛いは正義』が阻止してくれている筈である。


『順当に行くなら、神の加護で防御を重ねた上で儀式の中心となっている祭壇を破壊する、という事になるのでしょうが……これだけ前準備をしていて、地の利は向こうに有りますからね』

「そうですね。急造とは言え聖地に準じる土地となっている以上、少々の準備では不足でしょう。問題は、対抗できるだけの準備を整える事が出来る人員がどれだけいるか、ですが」


 まーその点私はここでも特級戦力なんだけどな。【王権領域】に加えて「月燐石のネックレス」があるから。ちゃんとその後も信仰を捧げ続けているし、ティフォン様とエキドナ様から貰った加護及び祝福と言う名のステータス補正スキルのレベルも上げている。

 生贄適性が高いのは確かだが、それを分かった上で重ねられる限りの防御は重ねているのだ。そしてその防御は、そのまま攻撃の為にも使える。何せ生半可な出力では神の力すら「通じない」状態だ。邪神の聖地だろうが踏み込んで無事で済む。

 ……ま、全体の事を考えれば、人間種族至上主義の神にも汚名返上のチャンスは必要だろうけど。私個人としてはこのまま面目も何もない状態まで追い込んでしまいたいが、そこまでやると後が面倒な事になりそうだし。


『とはいえ、このままでは戦線が崩壊しかねませんね。第三陣の加入は人手と言う意味で非常に妥当な選択ですし。――カバーさん?』

「確かに現状の戦力だと、1ヵ所ぐらいは「敵が来ない」方向を作った方が良さそうですね。お願いできますか、ちぃ姫さん」

『町の中に入らなければいいんですよね?』

「はい。儀式として主に増幅方向で影響があるのは、魔法や個人が防壁の内部に入った場合のようです」


 『本の虫』が解散して初めての大規模戦闘だから、統率が今一上手く取れてないんだよな。その辺お任せしっぱなしだったからある意味仕方ないんだけど。そして物量を相手にその練習不足は、ジリ貧になるという形で表れていた。

 そこからの崩壊を防ぐには、相手の戦力を削いで戦う場所を減らし、1ヵ所に集められる戦力を増やせばいい。あんまり手を出す気は無かったっていうか出来ればのんびりカトリナちゃんを守りながら見学していたかったけど、仕方ないな?


「[育った茨は絡み合い

 土を纏って鉄と成し

 近づく全てを拒絶するように

 硬く鋭く尖り伸びる――ソーン・フォート]!」


 森から見える一番近い門から巨人大の異形が出て来て、それに合わせて戦線が下がったのを確認し、その巨人大の異形の足元に魔法を飛ばす。ステータスの暴力で良かったな。普通はこんな射程出せないぞ。

 【土古代魔法】の1つであるこれは、一言で言うと鉄でできたウニの様なものを設置する、分類としては壁系魔法に属するものだ。棘を動かしてある程度自動で迎撃行動を取るから、壁って言うよりタレットとかの方が近いかも知れないけど。

 で、それを、防壁から出て来て巨人大の数歩分進んだ異形の、足元に撃ち込むとどうなるかというと……まぁ順当に、門が1つ、塞がれるわけだ。


『しかし本当に「第一候補」は忙しいですね。どうせ神域(仮)の中に入るための準備とやらにも噛んでいるんでしょうし』

「信仰に関しては紛れもなく第一人者ですからね、召喚者の中では」


 残っていた異形を駆逐した後、わらわらと他の門へと移動していく召喚者プレイヤー達を眺めて上手く伝わった事に息を1つ。後はあの魔法を切らさないように適宜打ち込んでいけばいい。

 ……ここまで『バッドエンド』が厄介になったのは、邪神を信仰していて特殊な恩恵がある、「という事では無い」のだが……。

 まぁその辺は、あのゲテモノピエロを殴り飛ばすときにでも分かるだろう。

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