第412話 17枚目:対処進捗

 ぶっちゃけ火力としての不安は無いんだ。ただの数にルージュが負ける訳無いし、司令官みたいなのが居た所でルシルなら狙い撃ちに出来るだろうし。カバーさんとメアリーさんも居るから、数の暴力にはいくらでも対抗できるんだよ。

 だから問題は、地獄の蓋が開いた……つまり、恐らくだが、“破滅の神々”の神域と直接空間が繋がっただろう現在、そこから吐き出される「空気」の方だ。

 神域とは、通常の生物は存在する事が出来ない特殊な領域で、神の為の空間だ。だからこそ「第一候補」も【王権領域】での「防御」を指示してきたのだろうし、エルルとサーニャの方は直接対処する必要があったのだろう。


『で、その範囲内でないと無事を保証できないという事は、打って出る事が出来ないって事なんですよね。こっちを狙ってくる分撃ち漏らしは無くていいんですが』


 前にも言ったが、ルージュは物質系の子だ。よって本体は武器となる。そして自分が武器であるから、同じように「装備」した武器は文字通りの意味で自分の手足だし、賢い子だから手足がいくら増えても自在に操れる訳だ。

 なのでその本来の戦闘スタイルは、本体を納めた鎧を中心とし、無数の武器を周囲に浮かせて、その手数で殴るワンマンアーミー的なものになる。もちろん浮かべた武器をちゃんと振るうのに必要な都合上、力も強いけど。

 そしてルフィルとルフェルがやってくるまで、「庭」の防衛における戦力はルージュが1人で担っていた。つまり、防衛戦には慣れてるんだよ。特に、一定の範囲を守り通すっていうのはね。


「こうして間近で改めて見ると、凄まじいですね……」

『うちの子ですから』


 だからカバーさんのこの評価になる訳で、現在、【王権領域】の範囲内に入って来た異形達は、大半をルージュ1人で薙ぎ払っていた。ちなみにルージュもどうやら【解体】を覚えたようで、綺麗に首を落とされたり心臓を貫かれたりした異形の骸が【王権領域】の境界線付近に山積みになっている。

 ルシルがちょっとつまらなさそうだし、メアリーさんも動いて無いから、火力的な不安は一切無い。だから問題はそれ以外で、具体的に言うなら邪神の神域の「空気」だ。

 ……まぁ根本をどうにかするのと同じで、地獄の蓋こと邪神の神域に繋がる空間的通路を閉じるしか無いんだろうけどさ。せめて短時間でも活動できるようにならないと、少なくともメアリーさんが動けないんだよね。


「……ルージュ、交代」

「( ・◇・)?」

「交代」


 あ、暇になりすぎたルシルが前に出た。わぁ、流石クリティカル兎さん。本人見えないのに異形の首が文字通り飛んでいく。代わりにルージュは下がって、首を落とすだけでは動きを止めない奴のトドメを刺すことにしたようだ。

 という訳で、こちら側の時間稼ぎはとても順調だ。こちら側は、な。


『で、反対側とか「第一候補」の様子とかどうなってますか、カバーさん』

「大神官さんについては今儀式場を調整中との事ですね。反対側は……善戦していると言っていいのではないでしょうか。戦線を下げる事なく持たせていますから」


 って事はまだどうにかするには時間がかかりそうって事かな。このまま現状維持してればいいんだろうか。

 しっかし山積みになったあれ(異形の骸)どうしたもんかなー。放置しといてもどうせ碌な事にならないだろうから回収するべきなんだろうけど、回収しても使い道ないよな。

 がっつり火葬して灰にした上で清めて畑の肥料にするぐらいか? 今現時点だけでもそこそこ山積みになってるんだけど。


「……ねぇ、お姫様」

『はい、何でしょうかメアリーさん』

「……あの亡骸、貰ってしまっても、いいかしら……?」


 楽しそう()なルシルとその戦果を見ながら素材の始末に頭を悩ませていると、付いてきたは良いがやる事が無く、結局こちらでもあの瞑想もしくは詠唱(だと思う)をしていたメアリーさんからそんな問いかけがあった。

 ……いや貰ってくれるんならそりゃ有難いけども?


『処分をどうしたものか悩んでいたので、貰って頂けるならそれはむしろこちらからお願いしたいぐらいですが……仮にも邪神の眷属ですよ?』

「……ふふふ……。……だから、よ。……神の眷属の亡骸……アンデッドにしたら、楽しい事になりそうじゃない……?」


 そういえばこの人ネクロマンサーだったわ。使役のメインがアンデッドだった。なるほど、そういう意味では非常に上等な素材の山って事になるんだろう。禍々しいことこの上ないが、むしろそれが良いんだろうし。

 どうぞどうぞと許可を出すと、さっそくメアリーさんは杖を掲げて詠唱を始めた。すると、完全に動きを止めていた異形の骸がひとりでに起き上がり、ふらふらとメアリーさんの方に移動していく。


「(゚Д゚;≡;゚д゚)」

『ルージュ、大丈夫です。戦闘に集中して問題ないですよ』

「(((;゚Д゚)))」

『そういうスキルなので大丈夫なんです』


 ……ルージュってホラー苦手だったっけ。確か装備にもよるけど、ゾンビもゴーストも纏めてぶった切ってたような記憶があるんだけど。

 あ、いや、あれか。「確実にトドメ刺したのに何で動いてんの!?」的な方向か。もしくは「あれ仕留め損ねた!?」か。あーそうか、コトニワでは倒した相手は素材にするものだったから、それをそのままどうこう、っていうのは無かったもんな。

 ついでだしこのままネクロマンシーという概念について説明しておこう。カバーさんは忙しそうだし、私は【王権領域】を維持する以外にやる事ないしね。

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