第410話 17枚目:カウントゼロ

『すまぬが「第三候補」。そのまま「転移門」は維持しつつ、そのものの防衛と現場の観測を頼んでも良いか』

『他にやる事もありませんしね。大変業腹ですが、「やらかし」待ちなのでしょう?』

『そうであるな。流石にイベントの波に乗っている、と、本人達は思っている集団を横から吹き飛ばすと、どのように利用されるか分からぬ』

『碌な事にならないという事だけは分かってますからね。まぁ、知ってて止めなかったというのも叩かれる材料にはなるでしょうけど』

『多少は仕方あるまいな。後の鎮火に関してどちらが容易かというのは誰にでもわかる事だ』


 という指示が改めて「第一候補」からウィスパーで来たので、引き続き森の中で待機だ。ルシルがそわっそわしてるけど、ステイ。いいね?

 さて奇しくもいつかの大規模海戦と同じように観戦な訳だが、流石に3手に分かれる都合かそれ以外の事情か、召喚者プレイヤーの集団としては大規模だが、見渡す限りというほどの人数はいないようだ。居られても困るけど。

 練度は別として指揮系統は存在しているらしく、ストーサーの周りに妨害するように魔法が設置されている事に気付くと一旦全体の動きが止まった。そこから、まずは調査に入るようだ。


「そのまま時間切れになってくれればいいんですけど。欲を言えば。町が空っぽなままで儀式の空撃ちになれば最高なんですが」


 願望を口に出してみるが、まぁそう上手くいく訳もない。【飛行】で飛び越えられるのはもちろん、一回発動したら対策出来るからな。つるっつるに滑る氷が設置されてるところなら、火で溶かして進めばいいとか。

 足止め目的だから、殺傷能力はゼロにしてるからなぁ。あんまり殺意があってもあれかと思って。後広範囲に設置するのを優先したから。そこまでやれば、いくらステータスの暴力である私が設置しても、その解除難易度は大きく下がる。

 どうやら召喚者プレイヤー集団は、少しずれた場所だと設置が薄くなっている事に気付き、そこを一点突破する形で進んでいくようだ。まぁ集団の利を生かすならそうなるよね。


「突破は時間の問題、と。分かってはいましたが、相手に乗せられているというのは気分の良いものではありませんね」

「そうですね。しかしお陰で、若干足を鈍らせることには成功したようです」


 うん? と思いつつカバーさんに教えて貰ったスレッドを見ると、どうやら今3手に分かれて町での儀式を阻止する為の動き、その情報を交換する為のもののようだ。

 そこそこ流れのはやいスレッドを辿っていくと、最初は確かにいけいけムードだったのが、段々、違和感を感じたという書き込みが増えてきている。それでも進んでいる奴はいる様だが、実際の動きはともかく、意見としてはこの「祭り」の真偽を疑う人数が増えて来たという事だろう。

 ……うん。まぁ。そうだな。『バッドエンド』が抵抗するならもうちょっと骨のある妨害しないかとか、半端な妨害が逆に誘いに見えるとか、確かに私も思ったけどさ。


「警戒して足を止めてくれるならそれに越したことはありません。理由はどうあれ」


 時間が無かったからこの程度にならざるを得なかったのだが、結果オーライという事で。

 ……まぁ、疑う人数が増えた所で、実際の行動が止まらなければ意味は無い訳だが。


「馬が見つかりましたか。……あぁ、スレッドでも空の幌馬車に対する意見が飛び交ってますね……」


 そしてきっちり煽って町に入るよう誘導していくこれが“破滅の神々”の信者じゃないか? スレッド上だと個人が特定できないけど。どこかの詐欺みたいに、マニュアルでもあるのかってぐらい見事な誘導の仕方だな。

 夜なので当たり前に町の防壁に設置してある門は閉まっている。そして町は空っぽになっているので、当然中から開ける人も存在しない。ノックしてみたところで、応じる声は無いのだ。

 通常そんな事は有り得ないので、そこで素直に引き下がってくれれば良かったのだが……。


「まぁ煽りますよね。なーにが「儀式が思ったより進行しているのかもしれない」ですか全く」


 本当に誘導の手腕は見事だよ。使い方が全力で間違ってるけどな!

 結局しばらく周囲を調べたところで、門の1つを壊して中に入る事になったようだ。人が通れる普通サイズの門だと大人数の利点が殺されるからね。そろそろトッププレイヤーでなくても、大門ぐらいならアビリティの連打で壊せるぐらいの火力はあるだろうし。

 となれば、そろそろ儀式の方も発動する準備に入るか……と思ったところで、袖が引っ張られる。


「?」

「い、い、い、いけないわ。ダメよ、ここはダメよ。こ、ここから、いそ、急いで、離れないと……!」


 どうやらまだ「転移門」をくぐって避難していなかったらしいカトリナちゃんが、最初にもまして震えた状態でそんな事を伝えて来た。あー、やっぱりまずいのか。


「……ちなみに、そこに「転移門」がある訳ですが」

「だ、だ、ダメよ! あんな、そ、そのままな空間の通路なんて、絶対ダメよ!」


 わぉ。ぶんぶんぶん! と力強く首を横に振られちゃったぞ。かと言って言う通り即座に撤退する訳にも行かないし、どうしたもんかなこれ。


「カバーさん、何か指示は来てますか?」

「いえ、今のところは何も」

「ではカトリナちゃんの様子を伝えて対処を仰いでください。そのままの空間の通路がダメ、という事は、「転移門」を閉じないと最悪詰むかもしれません」

「確かに。伝えます」


 その対処が間に合えばいいんだけどなー。と、思いつつ視線を向けた先で、町の門が壊された。わっ、と召喚者プレイヤー達が雪崩れ込むようにして中に入っていく。あーあ。

 と思っていると、ウィスパーの着信。「第一候補」だ。


『すまぬ「第三候補」、今すぐ「転移門」を破棄して【王権領域】で全員を守れ! 後2ヵ所は我が対処する!』


 うん。やっぱり相当にヤバかったらしいな!

 返事をする間もなくすぐに途絶えたウィスパーの通りに、魔法陣を真っ二つにするように石板を叩き割る。ぶつんっ、と電源を引っこ抜いたように、空中に浮かぶ空間の穴も、魔法陣に灯っていた光も掻き消えた。

 そしてその石板を更に数度砕いたうえでインベントリに放り込み、メアリーさんを含めて全員に集合してもらう。そして、魔力を操作して出来るだけ領域の力を圧縮する感じで、半径5mに絞った【王権領域】を展開した。


「……え? こ、これ……?」

『これでダメならもうどうしようもありませんねぇ』

「えっ?」


 ついでに【人化】を解き、大型犬サイズのドラゴンになってカトリナちゃんを抱える形で丸くなる。何となくの体感だけど、こうした方が【王権領域】の出力もしくは安定度が上がるっぽいんだよね。竜皇家の紋章に関係あるのかもしれない。

 それでも視線を向けていたその先で、大挙して町へとなだれ込んでいった召喚者プレイヤー達の最後尾が壊れた門をくぐっていった。姿が見えなくなる。

 で、その、数秒後。


「ひっ……!」


 【王権領域】を展開し、その中に包まれる事でいったん震えの止まったカトリナちゃんが、小さく悲鳴を上げた。うん。私も分かったよ。空気が塗り替わり、怖気を誘うような力が動いたのが。

 ぞわ、という感じで、光を吸い込むような闇が線の形になって這い出して来る。町の防壁に沿うようにして記号の並んだ円を描いていくそれは、町の中心部から発生した魔法陣なのだろう。

 ある意味、ここからが本番だ。そう警戒をする先で。



 魔法陣と同じ。

 光を塗り潰す闇のような、底の見えない穴の様な、黒い光が。

 ストーサーの町を飲み込む形で、空へと吹き上がった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る