第404話 17枚目:馬車の中身
見た目は極普通だが行動としては怪しさ満点の馬車を町と交互に見張っているが、特に動きらしい動きはない。普通にストーサーの町に近づいて行っているだけだ。
もしあれが危険物なら速攻で叩かなきゃいけないんだけど、逆に生贄を運んでるなら救出対象なんだよな。そしてどちらの可能性も、同じくらいはある訳だ。
といっても、距離的にちょっと厳しいぞ。視線を動かせば町全体を見れるだけの距離をあけてある。だから、なんかあった時対応できるのは私かルシルぐらいじゃないか?
「ちぃ姫さん。その馬車の来た方向は分かりますか?」
「やや北寄りの西ですね。このままなら西門に到着すると思います」
「ありがとうございます」
カバーさんからの質問に答えて、その幌馬車に目を凝らす。が、やはり詳しい事は分からない。しかし私は超良好視力とカンスト【暗視】で普通に見ているが、本来現在は闇夜の真っただ中だ。その中でここまでがっちり隠すって、その時点で怪しいんだよなぁ。
それに「町の状態は知られている前提」として考えると、やっぱり私が直接町の中に踏み込むのは危険だろう。「第四候補」のゴーレムは出入りしてたけど、あれは思いっきり対策をしていたし、本質的にはただの土だ。
とか考えながら町に向けていた視線を馬車に戻す。移動速度も普通なんだよな。だから過剰積載って訳じゃ無いんだろう。空と言う訳でも無いんだろうけど。
「……ん?」
しばらく様子を見て視線を町の方に戻そうとしたところで、もう一度目を凝らす。あれ? 何か幌の端がごそごそしてない?
集中するとそこがズームされるからハイスペックな身体ってすごいなと思いながら、その妙な動きの部分を注視する。あ、うん。なんかごそごそしてるな。きっちり折り畳まれてしまわれてる幌の端が、内側からめくられてる感じか?
そしてそこから、ひょこ、と顔を出したのは……たぶん今の私と同じくらいの、金髪の子供だった。ウェーブしている髪は相当長く、たぶんそのままなら足元に付きそうなぐらいはあるんじゃないだろうか。
「カバーさん」
「はい」
「問題の馬車から子供が顔を出しました。非常に長い金髪で、周囲を見回して――」
そう伝えている間に、その子は一瞬身をかがめ、幌馬車から飛び降りた。ころころころ、としばらく転がってから止まり、よろよろと立ち上がると、そのまま馬車が来た方向へと走っていく。
で。走るって事は髪がなびいて全体が見えるようになるって事でな。怯えた大きなヘーゼル色の目と、その首と手にはめられたどっかで見た感じの枷も見えた訳で。
ばっ、と幌馬車に視線を戻せば、急ブレーキを掛けてる、となれば。
「――ルシル、確保っ!」
報告の前に声を張った。ふ、と一瞬足元を黒い影が通り抜けた感じがして、そこから何秒も無く金髪の子がぱっと姿を消した。わぁ、流石ルシルはっやい。
で、と急ブレーキをかけた馬車に視線を戻すと、わらわらと黒づくめの姿が何人も降りてきて、周囲を探すように散開していった。うん。これ確定でいいだろ。
「ん。主」
「ありがとうございます。で、ちょっとその子見せてください。本人と言うか首と手の枷を」
怯えに同量の混乱が混ざった目でこっちを見てくる長い金髪の子の視線を敢えて無視して、ころんと仰向けに転がされたその姿を見る。そしてその首と手にはめられているのが、重苦しい金属の塊である事を確認してから【鑑定☆☆】。
[アイテム:縛鎖の封枷・改(首)
装備品:アクセサリ(防御+)
耐久度:99%
説明:身に着けた者の自由を奪う枷
通常より遥かに高い耐久力を持つ丈夫な物
これを装備している間、装備者は以下の制限を受ける
「スキル封印」
「加護の封印」
「発声の封印」
「ステータス半減」
「重量倍加」]
[アイテム:縛鎖の封枷・改(手)
装備品:アクセサリ(防御+)
耐久度:99%
説明:身に着けた者の自由を奪う枷
通常より遥かに高い耐久力を持つ丈夫な物
これを装備している間、装備者は以下の制限を受ける
「スキル封印」
「祝福の封印」
「祈りの封印」
「ステータス半減」
「重量倍加」]
無言でそれらの画面をスクショに撮り、カバーさんへのメールに添付して送信。そのまま、両方の枷を順番に握りつぶして壊した。ははは。高い耐久力を持つだって? へー。ネレイちゃんの時と大して違わなかったけどなぁ。
壊した枷はもちろんそのままインベントリにぽいだ。全く、ネレイちゃんの時と言いこの子と言い、可愛い女の子に何てことしやがるんだあのゲテモノピエロは!
「まっっったく、本当に嫌な予感だけはこうして大当たりするんですよ、私の場合! 「いくつか足りない要素」ってもしかしなくてもこの子の事では!?」
「はい。大神官さんから連絡が来ました。長い金髪にヘーゼルの瞳、発声と祈りを封じる必要があるという事は、恐らく巫女か神子であろう、との事です」
「ですよね! それも恐らく“権威の神々”の!」
なお声はちゃんと抑えているのであしからず。
しかし信仰的に重要な存在の誘拐からの生贄は鉄板だとはいえ、どうしてこうも上手くいってしまうかな! 下手すれば信仰をすり替えられた狂信者が立場も込みで丸ごと手駒になってんじゃないのかこれ!?
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます