第403話 17枚目:待機中

 という訳で、しばらくは空っぽになった(筈の)ストーサーの町の様子を見つつ待機だ。カンストした【暗視】をメインに入れた状態であれば、闇夜であろうと昼間みたいなものである。そしてこの中で一番視力がいいのは私なので、見張りは私の仕事となった。

 ルージュは待機場所の周囲を警戒しながら装備(身体)の手入れ。カバーさんは「第一候補」や他の場所と情報交換をしながら現状からの想定を練っていて、ルシルは周囲を見回るという名目の散歩だ。

 メアリーさんは……多分、召喚する為の溜めというか、準備、かな、あれは。ぶつぶつ呟いているのは詠唱だと思いたい。時々「ふふふ……」って笑い声が聞こえるのは普通にホラーなんだけど。


「とはいえ、動物らしい姿も見えないんですよね……野良猫一匹いない……」


 つっても滅多にいないんだけどね、野良猫。何せモンスターって凶悪な奴らがいるから。街角の癒しはドがつく希少種だったりした。それこそマジな王侯貴族でもない限りそもそもお目に掛れないレベルの。平民にとっては小鳥とか栗鼠とか番犬がメジャーな「よく見かける安全な動物」だ。

 ……なお、兎はもふくてよく見かけるが、毛皮及びお肉と言う扱いなのでペットではないらしい。モンスターも混ざってる可能性が高いから、愛でる対象じゃ無いんだってさ。

 話が逸れた。だからその辺の動物とかも、言っては何だが小規模な町であるストーサーにはほぼ居ない。豚とか鶏とかの家畜の方がちゃんと存在しているぐらいだろう。


「で、それなら「第四候補」は人と一緒に回収している筈ですし……」


 まぁ、クレナイイトサンゴが蔓延していたあの状態で生き延びていたかどうかは、また別の話だ。それでなくても動物っていうのは気配に敏感なのだから、邪神の聖地と化したこの近くには近寄らないだろうし。

 ちなみに対応は省略しているがモンスターは普通に湧いているし退治している。主にルージュが。エリアで言うなら初心者向けであるこの近辺のモンスターだと、灯りに寄って来る虫程の脅威度しか無いからね。

 それでも偵察とかに使われる可能性があるから、可能な限り隠れてるし、見つかりそうになったら秒で倒してるんだよ、ルージュが。ただ本当に片手間で済んでるから、いちいち言わなかっただけで。


「だから【暗視】があるメンバーで組んで明かりも付けていなかったんですし。……現状だと「転移門」の輝きが灯り代わりになっているので、隠密度は下がりましたが」


 それにしても動きが無いな。いや、このまま何事もなく朝になって「やっぱり気のせいでした」って撤収できればそれが一番いいんだけどさ。むしろ動きがある方が困る。それは間違いない。

 ……しかし、「最悪を更に下回るだけ」の手段、ねぇ。私が全く思い当たらないって事は多分フリアド内宗教的、つまり儀式的なものだろうし、それで現状「いくつか足りない要素」があるってナニソレ? だ。

 嫌な予感は収まっていない。だが、その引っ掛かりがはっきりしない。大変気持ち悪い。でも今から「第一候補」に聞くのもな。忙しいだろうし。


「でも流石にここから儀式関係の勉強するのは色々間に合わないというか何というか……」


 若干素が出つつも、私は暗い中木に登ってストーサーの町に目を凝らし続けていた訳だ。やはり視力というのもステータスになるらしく、カンスト【暗視】の効果もあって視界は大変明瞭となっている。

 小さいとはいえ町だ。常に全体を視界に入れるという訳にはいかず、推定邪神の祭壇が置かれている簡易神殿っぽい場所を中心に、円を描くように視線を動かして「全体」を見る事で見張りとしていた。

 けどまぁ、何も動くものが無い筈の町で、何か違和感があればすぐ気づける程度には、視野を広くしていたんだよね。見張りだし。


「……?」


 大神殿は基本的に「街」以上の規模が無ければ設置されていない。そこにある基準や理由は知らないが、たぶん維持費とか魔力の流れ的なあれではなかろうかと推測している。

 で、大神殿が無いという事はワープが使えず、自分の足で移動しなければならない。もちろん馬やゴーレムと言った乗り物を用意してもいいし、「町」以上の規模があるなら定期便と言う形で馬車が出ているから、それを利用してもいい。

 しかし自前の移動手段でない限り、普通危険な夜に行き来が行われる事は無い。あるとすれば余程の緊急事態ぐらいだが、それはそれこそ戦争が起こったとかスタンピートが発生したとか、そういう時ぐらいだろう。


「――カバーさん。ストーサーに近づく馬車が1台あります」

「形や大きさは分かりますか?」

「2頭立てのよくあるタイプな幌馬車ですね。幌の色は白、御者はフード付きマントに身を包んでいて、荷台の中は見えません。定期便の馬車より恐らく2回り程小さいかと」

「分かりました。確認します」


 そしてその馬車は、そういう時の、物凄く急いでいる動きをしていなかった。普段の昼間であれば周囲に溶け込んだのだろうが、この静まり返った闇夜にその普通さはいっそ不気味だ。

 もちろんすぐに声に出して発見を報告する。相変わらず素早い返答が返って来たので、私はその馬車を気にしつつ、改めて町全体に視線を巡らせた。……うん、どうやら内部にそれと合わせた動きは無いようだ。あったら怖いが。

 さてなんだろうな、あれ。ここまで来て普通の、移動時間を読み間違えただけの旅人だっていうのはちょっと苦しいと思うんだけど。

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