第402話 17枚目:推測を積む

『補正、ですか。ちなみにそれはどんな感じのものか聞いても?』

『うむ? 構わぬぞ。とは言えそう尖った所は見当たらぬが……。捧げものをする際にその質に対する評価が加算されたり、一度に評価される信仰心の上限が伸びたりであるな。つまり、より上質な捧げものが出来るという訳だ』

『邪神の捧げものっていったらやっぱりあれですよね?』

『あれであるな』


 つまり生贄である。それも、動物じゃなくて知性ある人系統の方が上だってさっき「第一候補」が言ったところだ。

 ……たぶん、もうちょっとなんだけど。現時点で相当に嫌な予感がしているから、あと一歩かそこらな感じするんだよな。


『うーん……。ちなみに邪神の捧げものって、信者と信者以外だとどっちが上等なんです?』

『ふむ。難しい所であるが……そうであるな。その空っぽになった町が完全な儀式場と化し、そこで行うという前提であるなら、信者以外、もっと言えば他の神の信者の方が上であろうな』

『……話は変わりますが、クレナイイトサンゴの除去は順調ですか?』

『うむ、そちらは問題なく進んでおるぞ。他の場所とも「転移門」を繋ぐ準備も進めておるし、撤収完了まで、恐らく今夜一晩掛からないであろう』


 ……。

 …………。

 今なんか、すっっっごい嫌な予感したんだけど?


『…………今夜一晩ですか』

『こちらの時間でな。夜が長い時期であるから、具体的にはあと9時間強といったところか』

『9時間強』


 どうやら私はたっぷり30分以上は考えに沈んでいたらしい。陽が沈んでからログインしたとはいえ、自称山賊の人達が来るまでが大体1時間ぐらい、そこから「転移門」が開くまで1時間、「転移門」での移動と撤収で同じく1時間ぐらいの筈だ。

 夜が長い時期=日暮れから夜明けが12時間を越えるって事だから、1回のログインだけでは夜明けを迎えることは出来ない。この辺も細かいんだよな、フリアド。

 話が逸れた。何がヤバいかってその「9時間強」って時間だ。もっと言うなら「今夜一晩掛からない」の部分だけど。


『「第一候補」』

『うむ。何か掴んだであるか?』

『掴んだ、には至っていませんが、1つ確認してもいいですか』

『何なりと聞くが良い』


 頼もしい返答に、ありがとうございます、と挟む。そう、ヤバいのだ。だってその言葉が、今の私には、


『……その、撤収完了までの9時間強。それが、「制限時間」だとするなら、何だと思います?』


 そう、聞こえたのだ。

 流石にそれは想定外だったのか、『何?』と訝し気な声を出した「第一候補」。しかし私の嫌な予感は、悪いものに限っては良く当たるという事を信じてくれているのだろう。しばらく考え込んでいる感じの沈黙が続いた。


『ちなみに、「第三候補」』

『何でしょう』

『一番引っ掛かったのはどの部分であるか?』

『最初に違和感に指が掛かった感じがあったのは「儀式場」って言葉ですね。たぶんそれがキーワードです。勘ですけど』

『その辺も何かステータスで補正が掛かっているとしても不思議ではなかろうな。しかし儀式場か。確かに懸念であるにはあるが……』


 うーむ……という感じで更にシンキングタイムな「第一候補」。私は大人しく待つよ。流石に儀式関係はいくら考えてもお手上げだ。特にフリアドこの世界特有のアレコレってなるとね。

 とはいえ何もしないっていうのもあれなので、ルージュを手招きしてその肩に上らせてもらう。木の枝に上るのと同じくらいの高さから見るストーサーの町は、夜の闇に沈んで沈黙したままだ。

 いやまぁ、誘拐(救出)が上手くいったんだからあの町は現在文字通り空っぽの筈で、「第四候補」がミスってない限り人っ子一人いない状態だ。町に滞在してただけのお客とか、もしかしたら普通の顔して紛れ込んでた『バッドエンド』の構成員も巻き込んでる可能性があるが、それはちゃんとカバーさん達と「第一候補」が確認する筈だし。


『……儀式場がキーワードで、今夜、というより、今回のこの誘拐が完了するまでがタイムリミットなのであるな?』

『そうですね。そうなります』


 捕えた違和感を確認されるが、うん、つまりそういう事だ。じゃあどうなるんだっていうのは全く思いつかないんだけどな! なんかひたすらにヤバそうな気がするだけで!


『で、あるなら……我もまだ確信には至らぬが、最悪を更に下回るだけなら、机上の論であるがいくつか思い当たる節がある』

『理が通るって時点でヤバいんですけど?』

『その思い当たったものが現実になるには、どう考えてもさらにいくつかの要素が足りぬのであるがな。とは言え、クレナイイトサンゴに邪神の祝福を与えようとする相手だ。万一に備えて応援を送る故、もう一度「転移門」を起動したい』

『分かりました。再設置すればいいんですね?』

『で、あるな』


 という訳で、一度インベントリにしまった石の板をもう一度取り出して地面に置き、その角の枝分かれした魔法陣の上に立つ。今度はルージュに「正面」を私と挟む位置に立ってもらった。

 考え込んでいた間に魔力は最大まで回復してるから、起動自体には何の問題も無い。然程なく魔法陣が光りだし、一瞬強い光を放って垂直方向に浮かぶ光の線で描かれた魔法陣が現れた。

 さっきので慣れたのか、角度調節のような動きはすぐに止まる。ぐにゃりと渦を巻くように、魔法陣が空間の穴へと変化した。


「まぁ万が一と言うのは、万に1つはあり得るからそう言われる訳でして。警戒はいくらしてもし足りないという事は無いでしょうね」

「出番ー……♪」


 まず出てきたのはカバーさんとルシルだ。あぁうん、闇の中で荒事なんてこれ以上ルシル向きの案件は無いだろう。楽しそうにしちゃってまぁ。そして全体把握と戦略という意味でカバーさんもありがたい。普通に強いし。


「……うふふ。……よろしく?」


 続いたのは、レースで縁取りされたマントを頭からすっぽりと羽織って、その下に束ねた真っ白い髪を前に流し、灰色の目を隈で縁取った生気の無い顔色の女性だ。不健康そうな部分を除けば美人である。

 彼女はメアリーさんといって、以前名前が出た「第四候補」の元作成使徒、現使徒生まれのアンデッド使いさんだ。お留守番と言っていたが、どうやら応援として役目を貰ったらしい。

 ……手にしてる杖は身長より拳一つ低くて、その先に子供サイズの頭蓋骨が付けられ、その口の中に白い宝石が入っている形だ。そしてその宝石をよく見れば表面にうっすら透明な層があるので、「第四候補」と同じく私の鱗を使った杖らしい。


「……恐らく条件に【暗視】があるんでしょうけど、その中だと過剰戦力じゃありません?」

「ちぃ姫さんの勘は良く当たりますからね。あ、「転移門」は開いたままにしておいてほしいそうです。いざとなればそのまま駆け込んでくれれば良いと」

「何らかの要素が足りないという「最悪を更に下回る」状況次第ですか。分かりました」


 うーん。

 気のせいだったらいいんだけどなー(棒読み)。

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