第401話 17枚目:撤収中断

 その後無事にハンモックに寝かされていた人達の移動が終わり、「第四候補」によるストーサーに残っていた人達の一括誘拐……土の絨毯というか、土を寝袋状にして数珠つなぎにしたような平たい形がそのまま動いている感じだ……も特に邪魔が入ったりすることなく完了。

 さて、と撤収準備に入った辺りで自称山賊達がそれぞれ大荷物を背負って(インベントリにも荷物を満載しているとの事)やってきたので「転移門」をくぐってもらい、待機してくれていた「第五候補」に後をお願いした。

 そのままルディルの作業台や私達が寝泊まりする用のハンモックと防水布も回収し終わり、「第四候補」とルディルは「転移門」をくぐって一足先に帰還である。


「今のところ何事もないけどぉ、気を付けてねマスター」

「まー俺の誘拐手腕が素晴らしいって事で気づかれてない可能性もそれなりにあるんじゃないかなー! みたいな感じもするけど、油断良くないしな! 帰るまでが遠足だぞ「第三候補」!」

「言われなくても分かってるんですよねぇ。むしろ私的にはここからが本番ですらありますし」

『くはは、相変わらず油断をせぬであるなー』


 私とルージュが残ったって時点で察しの良い人はピンとくるかも知れないが、これではいおしまいという訳にはいかない。何故なら「転移門」は設置型の、どちらかというと設備に属する代物だからだ。

 つまり。「転移門」を開くのに、こちら側に用意した石の板とそこに描いた魔法陣。これをしっかり片付ける為には、「転移門」を閉じる必要がある、という事だ。

 当然ながらその片付けを担当する誰かは「転移門」で帰ることは出来ないし、悪用を防ぐ為にはこの石の板を砕くとかではなく、そのまま持ち帰ってしまうのが確実だ。再利用も出来るし。


「で。気づかれていた場合、集中攻撃されるのが目に見えてますからね。まだ(内部時間では)夜中とは言え、その危険性を無視するのはちょっとリスクが高いですし」

「( ・◇・)?」

「まぁつまり、相手から見て仕掛けるならここだ、という事です」

「(。・∀・)」


 まぁ本当に気付いて無いんなら気にし過ぎで済むんだけどな。リアルでかかった時間も実働部分だけに限るならほぼ丸1日だけだし、準備段階ではクランハウスである島から一歩も出てないし。

 とは言え、そもそもの先手は相手だ。あの自爆テロを仕掛けて来た時点で、少なくとも町の状態が知れるのは予定通りだろう。そこからどれくらいの速度で反応があるかは、自爆テロの成功率をどの程度だと見積もっていたかによるけど。

 それでも、成功すると信じ切っていたって事は無いだろう。そんな油断をする相手ならもうちょっと楽にどうとでも出来ている。だってあの『本の虫』が健在だった頃すら、その行動を追いかけきれなかったんだぞ?


「……そう、なんですよね。町の状態が知れるのは予定通り。であれば、少なくとも私達が救出に動くのは想定通り。それが、こうもあっさり……?」


 少し考える。そう。どうにも違和感があるのだ。相手の掌の上で踊っている感というか、向こうのレールに乗せられっぱなしというか。

 いや、誘拐という名の救出が出来たのは良い事だ。それは間違いなく良い事だ。初動の早さと装備のスペック及び特化したスキルによるゴリ押しでここまで進めたのだから、邪魔が入らない可能性は十分に有る。そこに疑問は無い。

 が……どうにも最後、あと一歩、微妙な違和感が拭い切れない。いや上手くいったのは良い事なんだよ? 別に妨害が入らなければ物足りないとかそういう事じゃなくてさ。


「うーん……?」

「(*-゛-) 」


 歯の内側に何かの皮が張り付いてしまった様な、あるのは分かるのに微妙に手が届かない感じ。何だ? 何かまだ見落としてるのか? でもエルルとサーニャの方も途中経過聞く限りは順調っていうか、全員住民な分だけコンスタントに誘拐(救助)が進められてる筈だよな。

 私達の所はあの自称山賊の人達が来たから、一番ステータスとスキルレベル的にゴリ押しが利く「第四候補」が居る事もあって思いっきり早回しをしただけの事で、進捗状況としては似たり寄ったりの筈だ。そこにも疑問は無い。

 何だ? 何が引っ掛かってる? 違和感の元は、見落としがあるとするならどこだ? 町ごと住民を1人残らず強制的な信仰の奴隷に変えて、実質的に邪神の聖地にして、直接手段として使われたのはクレナイイトサンゴ。そもそものきっかけは祭壇の持ち込みで、もっと言うなら狂信者を煽ってペナルティを食らわせたとこからか。


「……今更ながら、神にペナルティを食らわせるっていうのも相当アレですね。流石にそこまで想定通りとは思いたくありませんけど。状況が転がって来たから上手く利用した、程度にしておいてほしいものですが」


 あれは確か「第一候補」が“天秤にして断罪”の神にお伺いと言う名のチクりをした上、当の人間至上主義な神達自身が既に目を付けられていたから直接のペナルティが発生した筈で、流石にそこまでは、なぁ?

 ということでそもそものきっかけを祭壇の持ち込みまで戻してと。

 持ち込まれた祭壇が邪神こと“破滅の神々”のいずれかの物であるのは確定。どれかまでは分からないがどれであってもその性質の悪さに違いは無い。祭壇の調達先は、たぶんあれだ。召喚者プレイヤーには、個人用のスペースに神殿を建てる事が出来て、そこから試練ダンジョンに挑めるから。


「試練の報酬に祭壇が出る事自体は「第一候補」も否定してないんですよね。否定したのは「いずれの神のものでもない祭壇が出現する」事ですし。だからこれは「有り」として……」


 ここまで考えてもまだ引っ掛かりが掴めない。何だ。どれだ。何かこう、微妙に惜しい所まで来てる気はするんだけどな。どこだ? どこが一番「理が通らない」……もしくは、スルーすると一番ヤバい?


『「第三候補」、今どこであるか?』

『あぁすみません、まだストーサー近郊の森です』

『む。何か気になる事でもあったであるか』


 魔法陣を描いた石の板をインベントリに放り込んで、後は移動するだけという状態で考えに沈んでいると、そんなウィスパーが届いた。思ったより長く考え込んでいたらしい。


『気になるというか、違和感が拭えないというか……どうにも気持ち悪いんですよね。すぐ戻ります』

『いや、「第三候補」のそういう感覚はよく当たるであるからな。他2ヵ所の町もそろそろ撤収に取り掛かれそうだという連絡だったのだが、そうであるなら警戒を促しておこう』

『ありがとうございます。……あいつらの事ですから、警戒程度でどうにか出来るかと言うと厳しそうですが』

『……まぁ、それは否定できぬな。それでも、元より油断はしておらぬとは言え、警戒を促す声があると無しとでは多少は変わるであろう』

『だと思いたいところですね……。ちなみに「第一候補」は、何かそういう違和感はありませんか?』


 なので素直に思ったことを伝えると、同意と他のチームの進捗連絡が届いた。なるほど、エルルとサーニャの方も順調なようだ。これなら誘拐(救出)自体は全ての場所で問題なく完遂出来るだろう。

 そしてもののついでと「第一候補」に何か懸念は無いか聞いてみる。と言っても、私が答えるまで順調な感じだったから特には無いだろうか。


『そうであるな……。違和感と言うか、懸念なら1つあるが』

『と、言いますと?』


 が。少し考えるような間の後、「第一候補」はそう言った。これはこれで予想外の言葉だが、私の感じている違和感とは別であっても、問題があるなら片付けておいた方がいいだろう。そう思って先を促す。


『うむ。強い信仰によって町全体がある種の聖地と化している可能性が高いであろう? そしてそこに、恐らくは邪神自身から直接授けられた祭壇がある。となれば……あまりに長く放置すると、絶好の儀式場になってしまう。かと言って、町ごと吹き飛ばすという訳にもいかぬ。故に懸念であるな』

『…………。儀式場、と言いますと』

『邪神であるからなー。獣よりは人の方が贄としては上であるし、元々が人の住む場所であるなら、儀式場と成した場合に色々と補正が入るのである』


 そしてその返答で、違和感に指先が引っ掛かる感覚があった。

 たぶんキーワードは……儀式場、だ。

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