第400話 17枚目:撤収開始

 山の土を材料に魔法で石板を作り、大きさを測って指定されたサイズに削り、表面を綺麗に磨き上げて、持たされた専用のペンキで図案通りに魔法陣を描く。ちなみに筆と言うか刷毛も専用であり、勝手に必要分の魔力を持って行ってくれる親切仕様だ。

 もちろんそのままだと危ないので、持っている誰かの魔力が底をついた時点で吸い上げが止まるようになっている。まぁそうすると魔法陣を描くのに必要な魔力が足りないって事だから、そうなったら実質失敗なんだけど。

 ありがたい事に速乾仕様のペンキを使って、図案とにらめっこしながら描く事、約30分。


「ふう。どうにか間に合いましたか」


 無事、描いた線の縁がぼんやりと光るような魔法陣が描き上がった。後は「第一候補」の方で空間を繋ぐ儀式を実行すれば、この魔法陣の上に空間の穴が開く筈だ。

 本当の所を言うと、ゲート式よりワープ式の方が安全性は高く必要コストは低い。でもなんで今回はゲート式を採用したかというと、その方が運ばれる人たちへの負担が少ないからだ。

 まぁ、必要コストという名の魔力や儀式の手間に関しては私や「第一候補」が居るから、問題なく支払えるというのもあるだろうけど。


「さてとりあえず完成したことを「第一候補」に連絡……「第四候補」、あとどれくらいかかりそうですか?」

「一気に連れてくる準備は出来てるから、町からここまでの移動時間で半時間ってとこかな!」

「じゃあもう繋いで大丈夫ですね?」

「ハンモックに寝てる人の移動考えたら問題なし!」


 という事なので、魔法陣が描き上がった事と、「誘拐」完了の予定時間、及び既にこちらで確保している人数とその状態を「第一候補」にメールする。

 即返って来た文面によると、すぐに空間を繋ぐ儀式を開始するとの事だった。という事は、こちらから支払うコストもとい魔力を注ぐための位置に居なきゃいけないんだな。

 ルージュとルディルに声をかけて、図案通りに書いた魔法陣の脇に当たる場所に立つ。そこには枝が伸びるように小さな魔法陣が描かれていて、通常は動力源となる魔石とかを置く場所なのだそうだ。


「まぁ一度繋げばしばらくは持つ形だった筈ですから、運搬にも参加できますし……と」


 言っている間に魔法陣に灯っていた光が増していく。黒い灰色の岩に白いペンキで描かれた魔法陣は、その色と同じ白い光を灯し、宿し、それ自体が強く光るように光量を増していって――。


「っと」


 ガッッ!!! と強い光を放った。予想できていたので目を閉じた上で片腕でガードしたので視界に問題は無い。……少し離れた所から「目がー! 目がー!?」とかいう声が聞こえる気もするが、気のせいだ。

 地面と言うか魔法陣の描かれた石の板と垂直になる角度で、白い光で出来た魔法陣が浮かんでいた。そしてそれは何かを探すように、ゆっくりと時計回りに回っている。


「あぁそうか、正面を決める必要があるんでしたっけ」


 正面とは町に向いた方向で、つまり移動の為に一番良い方向の事だ。それは今私が立っている場所に一番近い辺なので、インベントリから魔法陣を描くのに石の板を作る時、大きさを測るために使った長い定規を取り出す。

 それを「正面」が向いてほしい方向に差し出して、長さを足元の石の板に合わせて平行に持った。「正面」を行き過ぎて私の方を向こうとしていた縦方向の魔法陣が一度止まり、位置調節をする感じで戻っていく。

 ……もしかして儀式をしている側で、手動調節しているのか? と思ったあたりで、その魔法陣の中心から渦を巻くようにして空間が歪み――魔法陣の縁を境目として、特大の窓のように、全く別の景色が見えた。


「無事に繋がったという事で宜しいですか? 「第一候補」」

『うむ。問題なく安定したと言って良いだろう』


 ひょい、と身体を傾ける形で覗き込んでみると、本人デフォルメの人形に「乗って」いる「第一候補」からの返答があった。向こうは3ヵ所同時に繋がなきゃいけないから大変な筈なんだが、流石だな。

 とはいえ繋がったなら次の仕事である。長い定規をインベントリにしまい、ルージュに手伝って貰ってクレナイイトサンゴ除去済みの住民達が乗ったハンモックを外し、そのまま丸めるようにして端を繋ぎ合わせる。

 それを下から両手で持ちあげ、空間の穴――「転移門」をくぐった。


「とりあえずクレナイイトサンゴの除去が終わって、簡単な治療も済んだ方から移動させていきますよ」

『承知した。それが終わってから「第四候補」による、未除去の住民達の一斉運搬であるな』

「そうですね」


 まぁ此処(『アウセラー・クローネ』クランハウス)まで来れば大抵の事は何とかなる。何せ色々なスペシャリストが揃ってるし、物資も潤沢だ。というかボックス様の神殿だけで物資に関しては尽きる気がしない。ありがとうボックス様。

 ざっくりと今後の流れを確認した所で次のハンモックの段を運ぶ。うーん軽い。特大の風船とまではいかないけど、バランスとる方が難しいなこれ。一応大の大人が50人ぐらい乗ってる筈なんだけど。

 はははステータスの暴力は楽しいなぁ。あと重機扱いは分かってるから「やっぱり可愛いだけの怪獣じゃん」って言ったの覚えとけよ「第四候補」、聞こえてるぞ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る