第398話 17枚目:不審な来客

 守るべきはまずうちの子であるルディルとルージュ、続いて未だ意識の戻らないクレナイイトサンゴ除去済みの住民達、そして作った虫下しとその作業台だ。そして、順番こそ付けたがその内どれが被害を受けても負けになる。

 そしてその上で、可能なら相手を1人残らず捕縛しなければならない。殺害は最終手段だ。周囲一帯を薙ぎ払って終わりなら簡単だが、出来るだけこちらの動きを悟らせないようにしようと思うとそうなる。

 で、あれば、だ。


「今宵が最終幕ですね。急いでください」

「りょーかい」


 何らかのスキルで気配を消しているのだろう。【暗視】で視界は良好でも何処に何が居るのか分からない。ちなみにルージュの先手だが、右腹を串刺しにされた、【鑑定☆☆】によれば山賊である黒づくめの男(住民)だった。もう回収して縛り上げたうえでルディルの痺れ薬が投与されている。

 まだ【王権領域】は展開しない。勝てないと思って逃げられると困る。もっとも、私はいつもの軍服(レプリカ改)だし「第四候補」も再現の燕尾服とマントだ。はっきり姿を見られればそれだけで正体が割れるのだが。

 ……しかし仕掛けてこないな。後ろに回って先に住民を狙うつもりか? と思ったところで、ガサ、と、正面の方向で茂みが揺れた。


「はっはぁ……こいつは大物だ。横断幕でも掲げりゃ良かったか? こうじょさまかんげい、ってな感じでよぉ」


 のっそり、と、ゆっくり、けれどのんびりはしていない……例えるなら、獣が獲物に飛び掛かる直前に姿勢を整えるような、そんな隙の無い様子で現れたのは、黒い無精ひげにごわごわのザンバラ髪、ギラリと闇の中で光るように目だけが橙に光る、絵に描いたようなテンプレート的「賊」な人物だった。

 金属音が一切しない事から身に着けているのは多分皮鎧だと思うのだが、こちらも下の服ごと真っ黒に染めてあって見分けが難しい。両刃のバトルアックスを背負い、ベルトの両脇に大ぶりなナイフを吊るしている。

 ……武器を構えずに出て来た? いや、必要ないのかもしれない。抜き打ちの速度に自信があれば不要だろうし、目につく武器以外を持ってないとも限らないしな。


「無理に歓迎して頂かなくても結構ですよ。こう見えて庶民派なので」

「くっ、は。そいつはどうも、堅苦しく無くて助かるぜ」


 ガシャ、と鎧を鳴らして戦闘に入ろうとしたルージュを手で押しとどめる。どうやら話をするつもりで来たらしい。時間稼ぎか、それ以外の意図があるのかは分からないが、こちらとしても平和に時間が稼げるなら願ったりだ。

 私がルージュを止めたのを見て、ひゅぅ、と小さく口笛を吹く山賊。にや、という感じの笑みを浮かべて、けれど全く隙は無いままの姿勢で言葉を続ける。


「どーやら聞いた話程度にゃ肝が据わってるみてぇだな。不審者目の前にして、護衛を抑えるかよ?」

「少なくとも見た目が不審者と言う自覚はあるのですね」

「おうよ。何せ笑う子も泣き出す山賊様だからな」


 それは悲しくならないだろうか。いや、自分で狙ってやってるなら大成功なんだろうけどさ。

 さて、本人から山賊と言う発言が出たし、これでこちらには攻撃する大義名分が成立した訳だ。山賊っていうのはモンスターと同じく、討伐しても何も問題ない相手だからな、フリアド的には。生け捕りにしたらボーナスが出るけど。

 周囲に居る他の人間っぽい存在は、感知できる範囲で50弱ってところだろうか。なんで「っぽい」かと言うと、気配を消す系のスキルを使ってるみたいで、今一その正体が分からないからだよ。


「意外と楽しめそうなオヒメサマだが、まぁ本題に入ろうじゃねぇか。一言で言やぁ、この森は俺達の縄張りだ。そこに踏み込んで出て行かねぇっつぅんなら、ちゃぁんと、貰うもんを貰わねぇとなぁ?」


 そして最終的に、にやにやという感じで笑いながら告げられた言葉に、首を傾げるのを抑えて少し考える事になった。所謂場所代で普通に考えればお金だろうが、そういう言い掛かりで襲撃までするつもりか?

 というか、そもそも何でわざわざ姿を現したかも分かってないんだよな。【鑑定☆☆】したらこの自称山賊、召喚者プレイヤーだし。住民と一緒に山賊団を組む感じのプレイスタイルのようだ。

 この交渉の姿勢、ストーサーというか『バッドエンド』とは無関係っていう可能性も無くは無いのか。タイミング的にあれだったけど、その辺しっかり仕事はする「第四候補」の手腕で住民の誘拐が判明してない、可能性も、ゼロではない?


「なるほど。まぁ大人しく引き下がってくれるならこちらとしても助かりますが。金貨で100枚もあれば十分ですか?」

「……は?」

「うっわ単位」

「私を誰だと思ってるんです」


 思わず自称山賊の笑みが消えてぽかんとした顔になり、「第四候補」からもツッコミが入ったが、とりあえずそう返しておく。実際は稼ぐ能力の割に使う当てが無いからなんだけど。

 装備はアラーネアさん達がくれたし、武器は【成体】待ちだし、みのみのさん達に拠点として色んな施設を建てて貰ったのも大幅割引がついてて、ほぼ出費が無いんだよね。畑も島に作り直したから食材関係はほぼ自給自足できるし。

 で、逆に収入の方はというと、「第五候補」の島にある各ギルドとの取引窓口に、ちょいちょいルディルやルフィルやソフィーナさんが生産物や素材を売りに行ってるみたいでさ。そしてその共通資金をカバーさんが管理して、それぞれに振り分けてくれるんだよね。お小遣い的に。それが溜まりに溜まった結果だ。


「は、いや、いやいや、まさかそんな大金をほいほい出せる訳が」

「出せますよ。はいどうぞ」


 なんかすごく動揺しているので畳みかけておく。ぱっぱとインベントリを操作して、色々便利なので常にいくつか放り込んでいる布袋の1つに金貨を100枚入れて、ぽいっと自称山賊の足元に放った。じゃりん、と重い音が鳴る。

 ちなみに都市部に住む一般人の平均年収が金貨2、3枚と言われている。つまり金貨1枚が大体100万円ってとこだ。なお銀貨と銅貨は、それぞれ100枚ずつで繰り上げとなっている。

 ついでに言うと、金貨の上は名誉金貨というものがあり、これが金貨千枚分の価値があるらしい。紙幣の無い現金は重いがこの世界にはインベントリが当たり前の物として存在する。だから硬貨じゃらじゃらでも問題ないんだって。閑話休題。


「うっわガチで即金支払するとかブルジョワぁ」

「稼ぐ力も総合資産も似たような物でしょう」

「いや、俺は素材とかその他諸々買うから割とカツカツ」


 お? 今の金貨の音で周りの気配も動揺したのか感知しやすくなったぞ? えーと、目の前の自称山賊と捕獲済みの1人含め、46人か。そこそこ居たな。

 ちなみに、本当にそのまま持っていかれても全く痛くないし、本気で引いてくれるなら正直有難い。まぁそのまま襲い掛かって来ても迎撃は出来ると思うけど。

 警戒しながらも誘拐(救出)は続けてるとは言え、流石に生きてる人はインベントリに入らないからね。不安要素をなくせるんなら、明確に法と倫理に触れなければ取れる手段は何でも取っていこうという姿勢で。

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