第397話 17枚目:「誘拐」進捗

 私がやっている役目は「第四候補」がまた別の材料で作ったマネキンみたいなゴーレム、いや関節の有無で変わる筈だから、ドールでも出来るので、その前のどたばたもとい移動もあって、私は夜が明ける直前にログアウトした。

 冬休みまでの……あと1日が……長い!! と、今日も今日とて大盛り上がりのクラスメイト達をスルーして真っすぐ帰宅。大盛り上がりのテンションで「一緒にやらない?」とか言われても困るから。だってフリアド、複数のアカウントを作る事は基本的に出来ないんだよね。

 例外はそれ専用に新しくVR機材ごと追加購入することなので、流石にそれは無理。そもそも今の竜族の皇女としての毎日が忙しいから、他に何かやってる暇がない。という事で、内部時間4日ぶりにログインだ。時間的に前より少しずらしたから、日が落ち切ったかまだちょっと残ってるかぐらいだと思うんだけど。


「おはようございま、うっわぁ」

「(*^▽^)/」

「あぁ、ルージュ。おはようございます」


 まず第一声がそれかと思うだろうが、そうも言いたくなる。何故なら自分用のスペースから出た瞬間目に入ったのは、あの特大ハンモックがほとんどぎゅうぎゅう詰めに埋まっている光景だったのだから。それも全ての段が。


「やぁマスター。寝起きで悪いんだけどぉ、ハンモックの追加をお願いしてもいいかなぁ?」

「えぇ、すぐにやります。大分調子良いですね?」

「いやぁ、捗ってるよぉ」


 声は笑っているが、ルディル大丈夫? ちゃんと休んでる? すごく手際よく虫下しを作ってるけど、もしかして休まず作ってない?

 と思いながらも予備として持ってきていた防水布と特大ネットを張って、テントのような場所の広さを増やしていく。ってあれ、今最初に誘拐(救助)された人が端っこのまま寝てたのが見えたんだけど、まさか誰も目を覚ましてないのか?

 成程それなら埋まってしまうのもやむなしか……と思いつつ特大ハンモックのネットを張る。すぐに毛布に包まれて気を失っている人が運ばれて乗せられた。うん、ちゃんと回復は掛けてるよなぁ。


「どうやらねぇ。祈る事で、食べたり飲んだり眠ったりしたのと同じ感覚にされてたみたいだよぉ。それが自覚出来た時点でみーんな例外なく疲労困憊状態でぇ、まず泥のように眠るみたいだねぇ」

「あぁなるほど。そしてそれは数日程度では起きない程度に深刻だ、と」

「そういう事らしいよぉ」


 そういう事らしい。という事はこれ、目が覚めてもまともに食事をとれるかどうかから問題か? そもそも寄生が重度になってたら、意識が戻るかどうかも定かではないけど。

 一応端っこから適当に【鑑定☆☆】してみるが、確かに「状態」の部分に「衰弱」とか「栄養失調」とかいう文字が並んでいる。「瀕死」の人もそこそこ居るので、これは治療するのが大変だな。


「っさー今夜も張り切って誘拐誘拐! あ、「第三候補」おっはよー!」

「はい、おはようございます。その言葉だけ聞いたら確かに物騒極まりないですね」

「提案出したのは「第三候補」だゾ☆」

「殴っていいですか?」

「なんで!?」


 フリアドにおける「町」の基準は人口が1000人を越えている事で、それが「街」になるには1万人を越えなければならない。だから比較的小規模な町であるストーサーの人口は、恐らく3000人に満たないだろう。

 そして今回持ち込んだ特大ハンモックは、1つで大体50人ぐらいが乗せられる限界だ。そしてそれが3つの段になって、ほぼ一杯になっている。だから、現在でおおよそ人口の1割弱ぐらいは救出できたのではないだろうか。

 となれば、そろそろ相手にも「住民が減っている」事が伝わっていてもおかしくない、と、思うのだが……。


「まだこれといった動きは見えないんですね?」

「不気味なぐらい静かだよ。俺も流石にそろそろ何か反応あるかなーって思ってたんだけど、びっくりするぐらい無反応」

「町の中の様子は分かりますか?」

「んー、一応見てるけど、表面上は普通だなぁ。旅人とか召喚者プレイヤーとか商人の行き来はあるし、住民はぱっと見普通の生活をしてるし。頻繁に祭壇に祈りに行ってるのが違いっちゃ違いだろうけど、あんまりそれが目立ってる感じは無いっぽい?」


 言動はあれだが仕事はちゃんとする「第四候補」がそう言うのだから、今のところ動きは無いのだろう。いや、気づいていないならいい。本当に気付いていないだけなら問題ないどころか最上だ。

 ……なのだが。そう思いながら、首筋をさする。首筋に火花が散るような、ちりちりとした感覚があった。そう、いつもより幾分強い「嫌な予感」だ。

 現実でも極稀に感じるそれはかなり悪いそれを示し、それがゲームの中でも感じられるというのはどういう仕組みになっているんだろうと思う。探知系スキルもそれなりに取ってはいるが、あれは意識して発動しないといけないし、発動したらスキルによっては相手に探したって事が伝わってしまうからな。


「――っルージュ!!」


 とか思いながらも普段の訓練の成果が出たのか、私は半ば無意識に周囲の気配を探っていたらしい。普段より集中して行われたそれは、範囲は広く、精度は高く、一言で言うなら、現状私にできる最高の探知だったのだろう。

 だから。沈んでいた考えから我に返ると同時、そのきっかけとなった僅かなノイズのようなものの方向へ、振り向きざまに声を張っていた。

 即座に反応したルージュが、その身に帯びた、自身の一部である短剣を飛ばす。どっ、という音は……木や土が立てるそれにしては、随分と鈍く、水っぽい。


「マジかー。まぁ夜闇に紛れてどうこうっていうのは相手の方が本業だろうけどさー」

「ルージュ、広範囲護衛いけますか。ルディルは自分と虫下しの防御を最優先に」

「(・д´・+)」

「了解だよぉ」

「なぁちょっとは反応して?」


 今はこの場に居る全員が【暗視】持ちだ。だから周囲に灯りらしい灯りは無い。月も元々細い上に雲で隠れてしまったのか、【暗視】無しだとそれこそ墨を流したような闇に沈んでいて何も見えない。

 カンスト【暗視】であっても控えに回していればちょっと薄暗いので、即座にメニューからメインへ移動して、少しでも視界を明瞭にしておいた。恐らくは、「相手」もそうだろうからな。


「流石に何も返ってこないと寂しいんだけど? なぁなぁ? 逆襲撃だけどなんかない?」

「真面目にしろ下さい」

「辛辣!」


 どうやってこの場所を突き止めたのかは分からないが、まぁ、そういう事だ。

 それも相当に手練れとみるべきだろう。少なくとも、闇夜に乗じた襲撃に関しては。相手が私達だと確定したかどうかは定かでないにしろ……。

 それがあのゲテモノピエロによるものであるならば。確実に「始末」するつもりで送り込んで来た筈なのだから。

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